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第三章「魔法学園の劣等生 魔法技術大会編」

第127話「飛行レース ⑤ マヤ飛翔」

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「続きまして、セービル魔法学園マヤ選手」

 アナウンスが流れ、発射台に一人の症状が現れた。マヤだ。魔法学園入学当初からすでにランクはシルバー。類稀なる魔法力は目を見張るものがった。マザーさんの話ではオレの最適化に合わせて彼女も進化しているということだが、最近は個体差が出始めているような気がしてならない。

(予測。魔法習得の際に個体差が生じ始めています。今後の最適化の際に、能力に差が出始めています)

 だそうだ。つまりは双子でも個性があるように、スペックは同じようであっても個体差があるようだった。

「見て下さい。マヤですよ」

 マヤの顔がアップで流れる。
 いつ見てもかわいいな。

「いよいよですね」

「ふーん。あれが君の【妹】なんだね」

「ああ、そうだ。オレの自慢の妹だ」

 まだいたのかこの爆裂キテレツ娘。

「なんだか、あまりぱっとしない格好だね」

 そう言われても仕方ない。マヤはCARBONナノチューブを織り込んだ防御力の高いツナギを着せている。この飛行レースタニアの時にも感じたことだが、安全対策――という考えがそもそもない。やるからには命を賭けろとばかり2危ないことでもバンバンこなす。なので毎年、魔法技術大会において死亡者こそ出ないものの怪我人が出ることは想定の範囲内であった。何もかもが自己責任なのだ。

「君の妹はどうやって飛ぶんだい?」

「教えない!」

 ライバル校に行った奴に情報を流すわけにはいかない。

「ハハハ、そんなこと言わないでさぁ。ねっ、手を握ってあげるからさぁ」

 タニアが手を握ってきた。

「教えてくれたら……もっとイイ事してあげてもいいんだよ」

 耳元で囁かれた。
 ま、負けるもんか。

「お兄さんを誘惑しないでください」

 オレの頭を抱え込んでアープルが抗議した。
 よかった。彼女のおかげで悪魔の誘惑から逃れることができた。
 タニア……改めて恐ろしい女だ。

「ほら、こうしている間にマヤが出発しますよ」

 石柱に映ったマヤ。
 彼女の前に唐突にして二つの翼をもった乗り物が出現する。

「あれは……いったいどこからあんなものが……」

 アープルが驚きに目を見開いた。
 空間相転移。ワームホールを利用した物質移動だ。前もって作成しておいたものをワームホールを通じて取り出したに過ぎない。
 少しだけ迷ったが、ここで使っても問題ないだろうと判断した。実際学園内でオレはワームホールを使っている。先ほども第三皇女や領主の前で使ったし、バージル卿やマイスター卿もすでに知っている。
 下手に隠すからいけないのだ。堂々と使えば魔法だと信じてくれる。

「おおっと。マヤ選手、何もない空間から物体を出現させた! あれは何なんでしょうか?」

 ざわめきが起こった。
 それは白い流線型の胴体をしていた。翼があり広げた大きさは四メートルほどある。

「お兄さん。あれは何ですか?」

「あれはメーヴェという乗り物だ」

 確かドイツ語でカモメを意味しているんだったか。風の谷に住んでいるナウシカ嬢が乗っていた乗り物に似ているがそんなことはない。

「行ってこいマヤ!」

 オレは思いっきり叫んでいた。

 ◆ ◆ ◆ ◆

 マヤは大きく息を吸い込んだ。
 練習道理に行えばいい。何度も練習してきた。それを実行するだけのことだ。

「行ってこいマヤ!」

 ノゾミの声が聞こえる。
 マヤは大きく息を吸い込んで意識を集中させる。

「風よ!」

 メーヴェには魔法陣が彫り込まれておりメーヴェは飛行機であり魔具であった。
 難しい呪文は必要ない。ただ胴体の後方部にある射出口から勢いよく風を吹き出す。それだけのことだ。
 マヤの呪文に合わせて風が吹き出し機体が動き出す。
 前に動き出す。それだけで機体は前進し、風が翼に当たる。翼は流線型をしており翼の上部と下部とで風の流れに差が生まれ――要するに浮力が生まれるのだ。浮力は機体を浮かせる。

 そして――

 メーヴェが空を飛んだ。
 ふわりとまるで羽のように軽やかに飛び上がった。

 うをおおおおおおぉぉぉぉぉ!

 うをおおおおおおぉぉぉぉぉ!

 飛んでる! 人が空を飛んでる!

 なんて自然に飛んでいるの……あれじゃまるで……鳥だわ!

 歓声が会場を埋め尽くす。
 強制的に浮くことは可能だ。マヤの魔力量からすれば、それは決して難しいことではない。
 しかし……と、彼女の兄は言った。

 この魔術競技大会の目的は何なのか? と。

 それは魔法後術の向上だ。しかも、戦闘に特化した技術を切磋琢磨するために開催されているのだ。
 そして、これがノゾミの答えだった。
 仕組みさえわかれば――メーヴェさえあれば誰でも魔法使いは空を飛ぶことができる。
 マヤが使っているのは初級の風魔法だ。初級であれば魔法使いの誰でも使うことができる。
 つまりはマヤが示したのは……魔法使いの全ての者が空を飛ぶことができるということを証明するということだった。

 マヤの機体は石柱の林を難なく抜けた。折り返しの巨木を旋回し、棘のある渓谷も難なくクリア。
 モンスターのいるエリアも静かに飛行することでするりと流れるように飛行していく。

「なんということでしょうか……」

 アナウンスの声もどこか呆然としていた。

「まさか……蟲使いでもない者が空を自在に飛べるとは……」

 チャン学園長だ。その後ろにはぐったりとはしているがインセクターの姿もある。

「すごいねぇ、これは君のアイデアかい?」

 タニアがニヤニヤとノゾミをつつく。

「うるさい。二人で考えたんだよ」

「ふーん。それにしても静かに飛ぶもんだね」

 魔法で風を出しているため音はほとんどしない。

「帰ってきたぞ!」

 ノゾミが走り出した。それを追いかけるようにアープルやちゃん学園長が走り出す。

 メーヴェがゴール地点に着陸した。ふわりと軽やかに優雅に――舞い降りた羽のように静かな着陸。

「マヤ選手……ゴールしました。タイムは……インセクター選手と同タイムです!」

 歓声が沸き起こる!
 タイムにではない。風魔法だけで蟲使いに負けないだけの飛行を見せたマヤに対して会場の全員が歓声を上げたのだ。

「やったよ。お兄ちゃん!」

 マヤの声にノゾミは大きく頷いた。

「頑張ったなマヤ!」

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