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第三章「魔法学園の劣等生 魔法技術大会編」
第120話「魔法技術大会 開会式と第三皇女 ①」
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魔法学園祭二日目。今日からいよいよ魔法競技大会(マギア・カレーラ)が開催されるのだ。
魔法競技大会(マギア・カレーラ)とは、アルシアータ国の四つの魔法学園――北のセービル魔法学園、東のバストーク魔法学園、西のザーパト魔法学園、そして南のユーク魔法学園のそれぞれの生徒が魔法の威力・技術・精度を競い合う大会である。
競技内容は戦闘を意識した競技がメインとなっていた。
始まりは五〇年前の人魔大戦での敗退を機に設立された大会だった。魔法使いの育成こそが戦局を打破する大きなカギとなる――国を上げての一大イベントといってよかった。
「毎年、各学園が持ち回りで担当しているんです」
アメリアの説明によると、今年は北のセービル魔法学園が担当するが、来年は東のバストーク魔法学園が主催となって魔術競技大会を行うのだ。
まるで町内会の催し物みたいだ。
開会式が始まった。
ラップ学園長の挨拶に始まり、交易都市キリムを代表する三人の領主の挨拶があった。
マイスター卿、バージル卿、ロイマール卿。三人が揃うとその情景はまさしく壮観そのもの。
「続きまして、アルシアータ国の第三皇女、サラクニークルス・ディ・アルシアータ姫からのご挨拶です」
アナウンスに周囲がざわめき出した。
中央広場、時計塔の前の演台に一人の少女が現れた。黒髪の少女だった。和服を着せればさぞかし映えるであろう慎ましい感じの和美人。
「第三皇女?」
「そうです。アルシアータ国は世襲君主制で、子供は四人、彼女は三姉妹の末っ子にあたります」
隣でアンナが説明してくれた。サラクニークルス皇女は生徒たちに対し激励の言葉をかけている。言葉の端々に「魔人族」という単語が出ていた。バージル卿の目の前でよくもまあ言えたもんだと冠したくらいだ。それくらいでないと第三皇女などやってられないだろうけど。
「四人……ってことは男がいるんだ」
「そうですね。第一皇子がいらっしゃいますが、公に姿を見せたことはありません。確か年は十歳くらいだったと記憶しています」
さすが元バージル卿のメイド。アルシアータ国の内情にお詳しい。
「第一皇子は、実は魔人族で国を追われたという噂もあるくらいです」
ミーシャが小声で言う。まあ、冒険者の噂話だとそんなものだろう。可能性としてはあるのだろうか……隔世遺伝的なもので魔人族の遺伝子が覚醒した……とか。
心配しても仕方ない。恐らく王族と直接に出会うようなことはないだろう。オレは一介の生徒であり、冒険者なのだ。
「まあ、王族とは関わり合いになることはないだろう」
オレは楽観的に考える。
それよりも、これからの第一試合の方が心配だった。
第一試合は飛行レース。マヤが出場するのだ。
「マヤのところに行こう」
細かな打ち合わせは昨日のうちに終わらせている。
打ち合わせは夜だったし、アープルもいたし、絡んだり色々してしまったが、とにかく言いたいことは伝えていた。大丈夫だとは思うが、念の為だ。
立ち上がるとすぐにアメリアからの念話が届いた。
そう念話だ。以前から取得していた「意思疎通」という能力なのだが、使い勝手が悪くなかなか実用していなかった能力だ。何しろ慣れないと思ったことがすべて筒抜けにあなってしまうのだ。あんなことやこんな事を考えながら念話をすると色々と筒抜けになってしまうのだ。恐ろしい能力なので封印していたのだが――最近ある事を思いつき実践したところ、念話の問題点が一気に解決した。
それは念話を電話にすることだった。少し仕組みはややこしいので詳細は割愛するが、魔具で電話機を作り、その中継に念話を使用するというものだ。これで仲間同士の念話を色々と雑念なしにすることができる。いざとなればリスク覚悟で念話すればいいだけのことだ。
「もしもし……」
折りたたみ式の通話魔具を取り出し念話を取る。長年の癖は抜けない。応対の仕方は電話と同じにしている。
「あの……ノゾミ君」
遠慮しがちなアメリアの声。いつもの明るい声ではない。
「どうしたんだ?」
声の調子からして、何かしらかのトラブルが起こったのだろうか。
「ちょっと来て欲しいんだけど」
珍しい頼みごとだ。
「それは後にできないか?」
恐らくは、後にできないから念話という手段で連絡してきたのだろう。つまりは、かなり緊急で状況が切迫しているということだろう。
「ごめんなさい。ノゾミ君の状況は分かっているつもり……でも、断れないの」
ふむ。アメリアはよほどお困りのようだ。
「サラちゃんが……いいえ、第三皇女のサラクニークルス姫がノゾミ君との面会を求めているの」
開会式くらい。ゆっくりできないのかねぇオレは……
「分かった……すぐに行く」
何がなんだかよく分からないが、とりあえずはお姫様との面談があるという事だ。
「ノゾミ様。どうされたのですか?」
立ち上がったオレにアンナが声をかけてきた。
「ああ……ちょっとお姫様に会ってくる」
マヤの競技には間に合いそうにい。いざとなれば念話がある。
「お姫様……って、第三皇女ですか!」
「どうやらそうらしい」
何事も起きませんように。
無駄だと知りつつも、オレはそう祈らずにはいられなかった。
魔法競技大会(マギア・カレーラ)とは、アルシアータ国の四つの魔法学園――北のセービル魔法学園、東のバストーク魔法学園、西のザーパト魔法学園、そして南のユーク魔法学園のそれぞれの生徒が魔法の威力・技術・精度を競い合う大会である。
競技内容は戦闘を意識した競技がメインとなっていた。
始まりは五〇年前の人魔大戦での敗退を機に設立された大会だった。魔法使いの育成こそが戦局を打破する大きなカギとなる――国を上げての一大イベントといってよかった。
「毎年、各学園が持ち回りで担当しているんです」
アメリアの説明によると、今年は北のセービル魔法学園が担当するが、来年は東のバストーク魔法学園が主催となって魔術競技大会を行うのだ。
まるで町内会の催し物みたいだ。
開会式が始まった。
ラップ学園長の挨拶に始まり、交易都市キリムを代表する三人の領主の挨拶があった。
マイスター卿、バージル卿、ロイマール卿。三人が揃うとその情景はまさしく壮観そのもの。
「続きまして、アルシアータ国の第三皇女、サラクニークルス・ディ・アルシアータ姫からのご挨拶です」
アナウンスに周囲がざわめき出した。
中央広場、時計塔の前の演台に一人の少女が現れた。黒髪の少女だった。和服を着せればさぞかし映えるであろう慎ましい感じの和美人。
「第三皇女?」
「そうです。アルシアータ国は世襲君主制で、子供は四人、彼女は三姉妹の末っ子にあたります」
隣でアンナが説明してくれた。サラクニークルス皇女は生徒たちに対し激励の言葉をかけている。言葉の端々に「魔人族」という単語が出ていた。バージル卿の目の前でよくもまあ言えたもんだと冠したくらいだ。それくらいでないと第三皇女などやってられないだろうけど。
「四人……ってことは男がいるんだ」
「そうですね。第一皇子がいらっしゃいますが、公に姿を見せたことはありません。確か年は十歳くらいだったと記憶しています」
さすが元バージル卿のメイド。アルシアータ国の内情にお詳しい。
「第一皇子は、実は魔人族で国を追われたという噂もあるくらいです」
ミーシャが小声で言う。まあ、冒険者の噂話だとそんなものだろう。可能性としてはあるのだろうか……隔世遺伝的なもので魔人族の遺伝子が覚醒した……とか。
心配しても仕方ない。恐らく王族と直接に出会うようなことはないだろう。オレは一介の生徒であり、冒険者なのだ。
「まあ、王族とは関わり合いになることはないだろう」
オレは楽観的に考える。
それよりも、これからの第一試合の方が心配だった。
第一試合は飛行レース。マヤが出場するのだ。
「マヤのところに行こう」
細かな打ち合わせは昨日のうちに終わらせている。
打ち合わせは夜だったし、アープルもいたし、絡んだり色々してしまったが、とにかく言いたいことは伝えていた。大丈夫だとは思うが、念の為だ。
立ち上がるとすぐにアメリアからの念話が届いた。
そう念話だ。以前から取得していた「意思疎通」という能力なのだが、使い勝手が悪くなかなか実用していなかった能力だ。何しろ慣れないと思ったことがすべて筒抜けにあなってしまうのだ。あんなことやこんな事を考えながら念話をすると色々と筒抜けになってしまうのだ。恐ろしい能力なので封印していたのだが――最近ある事を思いつき実践したところ、念話の問題点が一気に解決した。
それは念話を電話にすることだった。少し仕組みはややこしいので詳細は割愛するが、魔具で電話機を作り、その中継に念話を使用するというものだ。これで仲間同士の念話を色々と雑念なしにすることができる。いざとなればリスク覚悟で念話すればいいだけのことだ。
「もしもし……」
折りたたみ式の通話魔具を取り出し念話を取る。長年の癖は抜けない。応対の仕方は電話と同じにしている。
「あの……ノゾミ君」
遠慮しがちなアメリアの声。いつもの明るい声ではない。
「どうしたんだ?」
声の調子からして、何かしらかのトラブルが起こったのだろうか。
「ちょっと来て欲しいんだけど」
珍しい頼みごとだ。
「それは後にできないか?」
恐らくは、後にできないから念話という手段で連絡してきたのだろう。つまりは、かなり緊急で状況が切迫しているということだろう。
「ごめんなさい。ノゾミ君の状況は分かっているつもり……でも、断れないの」
ふむ。アメリアはよほどお困りのようだ。
「サラちゃんが……いいえ、第三皇女のサラクニークルス姫がノゾミ君との面会を求めているの」
開会式くらい。ゆっくりできないのかねぇオレは……
「分かった……すぐに行く」
何がなんだかよく分からないが、とりあえずはお姫様との面談があるという事だ。
「ノゾミ様。どうされたのですか?」
立ち上がったオレにアンナが声をかけてきた。
「ああ……ちょっとお姫様に会ってくる」
マヤの競技には間に合いそうにい。いざとなれば念話がある。
「お姫様……って、第三皇女ですか!」
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