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第三章「魔法学園の劣等生 魔法技術大会編」

第114話「魔法学園祭 ④ 植物と魔法と世界と」 ※イラストあり〼

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 お昼は結局、黄金パン【システィーナ】にした。

「そんなに美味しそうに【システィーナ】を頬張るなんて♡」

 食事中もシスティーナの言葉攻めは続く。
 お嬢様はいつでも平常運転だ。
 これだけフラフラしていて警備の仕事は大丈夫なのだろか?
 オレとシスティーナは広場で食事を済ませると中央の講堂の建物へと入った。
 すでに人が集まっておりその熱気はどこかのコミケ会場を彷彿とさせた。
 いよいよ昼からの部がスタートするのだ。

 ◆ ◆ ◆ ◆

 メリッタ先生の発表は中央の講堂で行われる。
 ここは、動員できる人数も多く大きな集会や講義で使われる場所だ。学園祭中の主な発表はここで行われている。
 今日は朝から様々な発表がなされていた。
 昼の部が始まり、第一発表者のメリッタ先生が中央の演台の前に立つ。マッドな雰囲気は鳴りを潜めそこには若き魔法研究者としての凛々しい姿があった。
 今回の議題は「魔法における植物の変化」と題されたものだ。
 はるか過去より植物と魔法の関係は深い。
 それは魔法の発祥が薬から始まったというところにも由来する。色々な植物、薬草には魔法の力宿り様々な奇跡を起こす媒体となっていた。
 有名なところではマンドレイク等の薬効果のあるのもや、世界樹などの伝説級のものまで種類も様々。それらを研究し解明、カテゴリの体系化を行うのがメリッタ先生の今後の目標だ。そのためにも今回の研究発表には重大な意味があった。そう、いわゆるスポンサーだ。研究に関してはやはり学園の援助だけではできないこともある。遠征で冒険者を雇ったりするだけでなく植物園の維持・管理にも莫大なお金がかかるのだ。

「よし。いっちょ頑張ろうかな……」

 イマイチ気迫の感じられないメリッタ先生はそのまま演台に上がる。
 講堂に集まっているのは生徒よりも貴族や研究者らしきものの姿が目立った。
 もしかして……メリッタ先生はその道では有名な研究者なのかも知れない。

「まずは……今日お集まりいただいた方々に感謝を!」

 一礼し、メリッタ先生の講演がスタートする。
 内容的には、植物の違いについての講演だった。植物には様々な種類が存在する。その種類分けはあくまでも人間基準であり、どのような薬効があるのか、また、その他にどんな効果がるのかなどによって分類される。
 メリッタ先生の講演は言ってはなんだが、ごくありきたりな内容であった。講演を聞きに来ている他の魔法使いや研究者らも同様で席を立とうとする者さえあった。

「さて、皆様に一つ質問があります」

 メリッタ先生は小さな鉢を取り出した。そこには一輪のどこにでもありそうな花。

「この花は生きていますか?」

「当たり前だ!」

 研究者らしき男が叫んだ。見かけない顔なので他の学園の者だろう。

「そうですね。では、あなたは生きていますか?」

「馬鹿なことを、私は生きている!」

 男は偉そうに胸を張って答えた。

「そうですね。死んでいるようには見えませんね」

 周囲から笑いがもれた。

「だからなんだというのだ! さっきから聞いていれば、これは研究の講演でもなんでもないただの学生の発表会じゃないか!」

 まあ、そう言いたくもなるだろう。
 だが、舐めている。
 マッドなメリッタ先生がこの程度の発表をわざわざする事の……その意味を。

「では、質問を変えます」

 メリッタ先生は男を指差した。

「動物と植物の違いは?」

「ふん。そんなの簡単な事だ。動物は動くことができる、そして植物は動かない」

「しかし、植物の中にも虫や動物を捕まえる種類のものがります。魔人族の領土には魔人すら捕獲するほどの強力な植物が存在するとか……」

「あれは……特別な種類なのだ。全体的に見れば大差ない」

 男はあくまでも強気だった。

「では、植物に意思はありますか?」

「意思などあるがないだろう」

「では、心は? 樹人族には植物と心を通わすことができると聞いたことがあります」

「まやかしだ! 樹人族の世迷いごとに君は耳を貸すというのかね?」

 アープルが聞いていたら憤慨しているような発言だった。

「そうですね。確かに……草木の一本一本に意思があり、心があると仮定するなら大変なことになるでしょう」

 メリッタ先生の言葉に周囲がしんとなる。

「しかしながら……これが森全体なら? 国全体なら?」

 メリッタ先生が講堂に集まった人達を見回した。

「そして……世界全体なら?」

 周囲がざわめく。

「馬鹿な……植物に意思があるなど……」

「私は植物だけに留まらないと考えています」

「……!?」

 メリッタ先生の発言に周囲がざわめく。

「私の研究では、森などある程度の規模の植物が密集した地域では特定の魔力の波を検知しました」

 魔具を使えば魔力や属性を色や波長で見ることができる。また、それを魔具なしに見る事ができる者もいるということだった。そういった者は魔法使いにとっては天敵のようなものだ。何しろ出会った瞬間に魔法属性やその強さなどを見破られてしまうからだ。魔具であれば、破壊すればいい。しかし、それが人であるとするならば殺してしまうわけにもいかない。そういった能力持ちは国では重宝されるからだ。

「魔力の波はその森だけでなく、発生後数日の内に近くの森に伝わります」

 先程まで反抗的だった男も今では静かにメリッタ先生の話に聞き入っている。

「いいですか、植物は生きています。それは間違いない。そして、木々の集まった森も生きている。森と森は互いに魔力を通じて連絡を――コミュニケーションを取り合っていると考えます」

 森の規模は大きくなり国を覆い尽くす。それは巨大なネットワークだ。それは惑星規模で考えたならば脳のニューロンネットワークに匹敵する。

「私はここに【世界生命論】を提唱します!」

「バカな!」

「世界が一つの生命体であるなどと……! 神への冒涜だ!」

「神……? 未だ確認できていない未確定の事象です」

「魔法の力の根源……この我々に与えられた神秘の力を……奇跡と呼ばずしてなんとする!」

 周囲がざわめいた。これはいわゆるガイア理論とされるものだ。惑星を自己調節機能をもつひとつの生命体とする説で、惑星を構成する要素は自己調節機能として進化していくとされている。構成要素には、気温や大気の容積、海水の塩分濃度などが含まれる。もちろん、動植物などの生命もこの中に含まれる。
 この仮説は証明が難しい理論だ。それ故に発表された当初もかなりの反発が起こっている。

「異端だ! 神への冒涜だ!」

 まずい。講堂内は収拾のつかない状態となりつつある。声高に叫び立ち上がる者さえあった。
 暴徒化しそうな勢いだ。

「ノゾミ!」

 オレと一緒にいたシスティーナがメリッタ先生に駆け寄ろうとするが、オレはそれを手で制する。

「任せろ」

 オレは蔓を出しメリッタ先生の周りを檻のように覆い尽くす。聴衆はその檻を見、固まった。

「私は別に神を否定するつもりも、蔑ろにするつもりもありません!」

 メリッタ先生の声が講堂内に響く。

「世界は一つなのです!」

 光が散った。
 沈静作用のある光魔法を放ったのだ。
 初歩的な魔法だが視覚を通して直接作用するので効果は絶大だ。
 周囲のざわめきが潮が引くようにおさまっていく。

「さすがね」

 メリッタ先生に褒められた。きっと後で素晴らしいご褒美が待っているだろう。

「この世界は神の愛によって生み出されました」

 静まり返った講堂内に彼女の声が静かに響く。

「神の創りし世界に、恩恵を受けないものなどないのです」

 厳かな声音。誰もを引きつける力があった。

「私は神の愛を研究し、その果てしなき愛の深淵を覗きたいと考えているのです」

 パチパチと拍手が起こった。最初に食ってかかってきた男の小さな拍手は、だんだんと周囲に広がりやがて大喝采へと変わっていった。

 ◆ ◆ ◆ ◆

「ノゾミ君、先程は本当に助かったよ」

 講演後、メリッタ先生がお礼を言ってきた。

「いえいえ、何事もなくて良かったですよ」

 騒動が起こらなくて本当に良かったと思う。

「ホンマに、一時はどうなるかと思いましたわ」

 唐突に背後から声が上がった。
 システィーナが声の方に振り向き驚きに目を見開く。

「あ、あなたは……!?」

 背後に現れたのは、先程メリッタ先生に食ってかかっていた男だった。

「おっ、さっきの蔓の兄ちゃんじゃねーか!」

 男は嬉しそうに顔をほころばせた。
 オレはメリッた先生と男とを見比べる。
 なんとなくだが、カラクリが見えてきた。

「つまりは……グルだったんですね」

 サクラを用いた意識誘導。

「さて、何かの事かな?」

 メリッタ先生の考えは画期的だ。それ故に反発も多い。どうせ批判が出るのであれば、あえてそれを先に小規模で爆発させることで回避してしまえばいい。

「今回の発表でさらに出資者が増えた」

 メリッタ先生は嬉しそうだ。

「先程、神の愛がどうとか言ってませんでしたか?」

 オレの言葉にメリッタ先生は不敵な笑みを浮かべた。

「神に祈ればお金が降ってくるとでも? 世の中は所詮お金だよ」

 うわーっ。言い切った。

「残念ながら……神を信じるだけでは研究費は賄えんのだよ。大事なのは銭だよ銭!」

 先生の言う事もっともなんだが……
 なんか釈然としないままオレはメリッタの部屋を後にした。
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