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第三章「魔法学園の劣等生 魔法技術大会編」

第108話「前夜祭 マヤ・アープル編 ①」

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 マヤとアープルはノゾミ達と別れた後、二人でぷらぷらと屋台を見て歩いた。
 魔法学園初等部でシルバーの二人の美少女が目立たないはずがない。たちまちに声をかけられるが、マヤはのらりくらりとそれらを巧みに避けつつアープルとの散策を楽しんでいる。

「マヤって凄いなぁ」

 アープルは思わず呟いてしまった。

「凄くなんか……ない」

 マヤがぎゅっと手をにぎってくる。
 小さな呟き。
 マヤは振り払うように頭を振った。

「さ!まだ回ってないところもあるし行こ!」

 マヤは歩き出す。アープルは黙ってその後をついていった。

 ◆ ◆ ◆ ◆

 人混みに疲れたマヤ達は裏路地へと避難する。人混みがなくなるだけでひんやりとした風を感じることができた。

「ちょっと休憩」

 先程買ったばかりのフルーツジュースを飲んで一息ついた。
 まだ前夜祭だというのに人の熱気は冷めることがない。このまま明日の学園祭、明後日の魔術競技大会へと続くのだろうか。
 学園祭は研究発表などを除けば完全にお祭り騒ぎだ。どちらかというと、魔術競技大会の方が需要度と重要度は高いといえる。
 マヤは少し不安になっていた。
 魔法競技大会(マギア・カレーラ)の第一種目、飛行レース(フリーゲン)はマヤが選手となっている。これは完全に個人競技となっており、他の選手と共闘することはない。風魔法使いを用いた純粋なる力技の勝負だ。
 マヤが得意とするのは光魔法だった。これはアンナの能力から習得したものだ。風魔法はこの学園に入学してから獲得したもの……つまり、アメリアの能力だった。それ以外でマヤが獲得した魔法はない。
 そう。ノゾミと同個体であるはずのマヤにも獲得できない能力が出始めていた。
 最適化の差異なのか、それは分からない。
 しかし、それでもマヤの能力は他の魔法使いと比べ群を抜いていた。
 今回の魔法技術大会の選手に選ばれたのも当然といえた。

「マヤならきっと大丈夫だよ」

 マヤの様子を察したのか、アープルが優しく言葉をかける。

「もう少ししたら、お兄さんがやってくるから。そんな悲しい顔しちゃだめだよ」

 本来なら楽しいはずの前夜祭ですら沈んだ雰囲気に感じてしまう。
 このままではいけないとマヤはアープルに抱きついた。

「ぎゅってして」

 アープルは言われるがままにマヤを抱きしめる。
 精神が不安定だ。マヤは最近、ノゾミとのリンクを切るようになっていた。
 本来であれば――この星の調査という名目の為であれば――それは許されないことだ。
 しかし、ノゾミが他の女の子と一緒にいるということを知ってしまうとマヤの中でもやもやとした感情が沸き起こってくる。
 だから切った。
 これ以上こんな気持ちでいること自体が、そんなことに嫉妬してしまっている自分が嫌だった。
 ノゾミには自分だけを見て欲しかった。
 それが無理な悩みだということは分かっていた。
 マヤにとってミーシャやアンナ、システィーナ、アメリアそしてアープルも大切で大好きな仲間だ。自分だけ一番だなんて考えられない。
 それでも……と思う。思ってしまう自分がいる。

「マヤ……」

 見るとアープルがじっと自分を見つめているではないか。
 ん? と首を傾げるとアープルはゆっくりとした口調で語り始めた。

「私はお兄さんが好き……でも、同じくらいにマヤも好き。今はどちらがどうだなんて分からない」

 周囲の喧騒が晴れた気がした。二人の間の空気だけがピンと張り詰めたような感じだ。

「でも、私は負けたくない。お兄さんは私がもらう!ミーシャでもアンナでもない。もちろんシスティーナ先生やアメリア先生にだって絶対負けない!」

 それは明らかな宣戦布告だった。これほどに晴れ晴れとした顔で宣言されてマヤは自分がどれだけちっぽけなことで悩んでいたのかと自分を笑い飛ばしたくなった。
 簡単なことなのだ。常に自分だけに振り向いてもらう必要などない。今この瞬間。一瞬一瞬を大切にしていけばいいのだ。この世に絶対などというものはない。だが、自分自身の信じるものだけは「自分自身にとっての絶対」であればいい。
 マヤはにやりと笑った。
 同じ初等部で、ルームメイトで同じ人を好きになっていた。そしてライバルで仲間で友人であるアープルに遠慮などするものか。

「残念ね。お兄ちゃんは身も心も私のものよ!」

 不敵な笑み。自信に満ちた笑み。
 マヤとアープルは互いに顔を見合わせ、そして笑う。
 ノゾミが誰を好きになろうと関係ない。自分が好きであるということに何も問題などないからだ。
 自分は自分の道を貫く。
 ミーシャやアンナ、アメリア、システィーナ、アメリアも同じだろう。
 全員だがライバルだ。それが今はとても嬉しい。
 ノゾミには全員を愛して欲しいし、同じくらいに自分も愛を注げたいと思う。
 ただそれだけだ。それだけの事なのだ。

「マヤ、アープル……こんな所にいたのか」

 ノゾミの声がした。

「お兄さんお帰りなさい」

「お兄ちゃん遅い!」

 二人の声が広場に響き渡った。
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