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第三章「魔法学園の劣等生 魔法技術大会編」
第103話「前夜祭 ②」
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学園祭は二日間にかけて行われる。
そして、それからが本番。魔術競技大会が行われる。
前夜祭とはいえ人通りは多い。国内外だけでなく他の魔法学園の生徒も来ている。
賑わい。
「完全にお祭り騒ぎだな」
夜の屋台にあちこち顔を出しながらブラブラと歩く。
「ねぇ。お兄ちゃん……」
マヤがオレの手を引く。
屋台で焼き菓子が売られているではないか。
仕方ないここはお兄ちゃんとしてかっこいいところを……
「おいおい、ぜんぜん当たらねえじゃねえか!」
屋台の奥の方から声がする。声からして若い男のようだった。
見れば、弓の的当てのゲームでクレームが発生したようだ。
まったく。どこの世界にもクレーマーというものはいるものだ。
「おい。何見てんだ!」
おろ。オレの視線に気づいたのか男がこちらへと近づいてきた。
あのなぁ、どこの世界のヤンキーだよ。
制服からしてこの学園の生徒ではないようだ。
「バストーク魔法学園の生徒みたいです」
マヤがそっと耳打ちする。
確か東の魔法学園だったか。
「なんか文句でもあんのか?」
セリフが三下っぽいんだが。どうしたものか。
「お兄ちゃん……殺っちゃう?」
妹よ。物騒なことを言うでない。
殺生はいけませんよ。
「まあまあ、ムキになるなよ」
オレは落ち着かせようと男の肩に手を置く。
よく見れば男の頭には大きな耳があった。まるで狼のような……狼人族か。
「テメエ!」
男が拳を振りかざす。
バキッ!
盛大な音と共に拳はオレの顔面にヒットした。
殴られたが怒りはなかった。
それどころか痛みすらない。
わざと食らって怒りが収まればと思ったが……もしかしてこの程度なのか……いや、そんなはずはない。もしかしたらこの狼人族の男もこの騒ぎに嫌気が指してわざと弱く殴ったのかもしれない。
「……気は済んだか?」
オレはゆっくりと顔にヒットした拳をつかんだ。
男の顔が驚きの表情になった。
優しくつかんだつもりだが男は必死になってオレの手から逃れようとしているみたいだった。
面白いパフォーマンスだ。もしかして、明日の何かしらのイベントの役者なのかもしれない。
「ああ、そうか!」
オレは納得した。こいつは明日のイベントの役者なのだ。きっとピエロか何かなのだろう。
こうして対面していても全く怖くないのがその証拠だ。
「悪い……練習の邪魔をしてしまったのか?」
「な、何言ってんだ!」
狼人族の男はさらに蹴りを放ってきた。
バキッ!
凄い。凄まじい音と勢いのように見えて全くダメージがない。何かの魔法だろうか。幻惑か何かでそう見えるようにしているのか……
「なんか、邪魔して悪かったな……」
周囲には人だかりができている。あまり目立つと明日のイベントにも支障が出るだろう。
「そろそろ他の場所に行こう」
振り返るとマヤは平然と、アープルは呆れたようにしてオレを見ていた。
「お兄さん……平気なんですか?」
「なにが?」
「うぉら、喰らえ!」
振り返ったオレの頭に狼人族が頭突きをかましてきた。
ガン!
「がはっ!」
派手な音と共に男が昏倒する。
全く面白い男だ。
「ガロウさん!」
人だかりの中から一人の少年が飛び出してきた。メガネをかけた気の弱そうな少年だ。同じ制服を着ていることからおなじバストーク魔法学園の生徒なのだろう。
「ああ!完全にノビてる!一体誰が?」
オロオロと周囲を見渡す。
もしかして、これもイベントの一部か?
「これは一体何のイベントなんだ?」
「イベント?何言ってるんですか!」
少年はオロオロとしたまま落ち着きがない。
「……相手の人は大丈夫ですか?怪我とかさせてませんよね?」
心配そうに周囲を見回す。迫真の演技だ。まるで男が誰かと喧嘩をしてこのような事態になったのだと錯覚してしまいそうだ。
「おい、これはなんの騒ぎだ?」
聞き慣れた声が聞こえてきた。
「よお。システィーナ……先生」
いつもの癖で呼び捨てにしてしまうところだった。
「あなたの周りはいつも騒がしいな」
呆れたようにシスティーナ。
いや、今回はオレのせいではない。この狼人族の男が勝手に踊っていただけだ。
「えっ……オレが悪いの?」
「この人は私を助けてくたんです」
「そうだ。そこの死んだ魚の目をした男が助けているのを俺は見た!」
屋台のおやじさんがフォローしてくれた。
周囲の人も賛同してくれる声があった。
さっきの失礼な発言をした生徒の顔はきっちり覚えた。後でしっかりと「お礼」をしに行こう。
「そうか……ところで君はこの男の知り合いなのか?」
「まあ、知り合いというか同じ中等部というか……」
「じゃあ。無関係?」
「うーん。無関係ではないですね」
はっきりしない。煮えきらない答えだ。
何なんだ?関係ないなら……仕方ないな。
「じゃあ、邪魔だからどけるぞ!」
狼人族の腰のベルトをつかみひょいと持ち上げる。
周囲を見渡したが。誰も何も言わなかった。
いや、あまりの出来事に固まってしまったのか。
そのまま屋台の裏に向かって放り投げた。
放物線を描いて男の体が飛んでいく。
「えっ?」
少年は呆けたようにオレと狼人族の男を交互に目で追う。
「おいおい。いきなり放り投げるやつがあるか!」
怒られた。
理不尽だ。なぜオレが怒られる。ゴミを放り投げただけだろう。
「何やってるんですか!」
少年が慌てる。
邪魔だからどけただけですが、なにか?
オレはいい加減バカバカしくなっていたのだ。
「あのなぁ……いい加減にしろ!練習なら他でやれ!」
「練習って……なんの話をしているんですか?」
こんなくだらない事にいちいち巻き込むな。
「システィーナ先生。とりあえずゴミは捨てておきましたので」
「あ、ああ……」
釈然としないままのシスティーナを残してオレはマヤとアープルを連れてその場を後にした。
「そんなぁ……」
少年の声が静かに響き渡った。
そして、それからが本番。魔術競技大会が行われる。
前夜祭とはいえ人通りは多い。国内外だけでなく他の魔法学園の生徒も来ている。
賑わい。
「完全にお祭り騒ぎだな」
夜の屋台にあちこち顔を出しながらブラブラと歩く。
「ねぇ。お兄ちゃん……」
マヤがオレの手を引く。
屋台で焼き菓子が売られているではないか。
仕方ないここはお兄ちゃんとしてかっこいいところを……
「おいおい、ぜんぜん当たらねえじゃねえか!」
屋台の奥の方から声がする。声からして若い男のようだった。
見れば、弓の的当てのゲームでクレームが発生したようだ。
まったく。どこの世界にもクレーマーというものはいるものだ。
「おい。何見てんだ!」
おろ。オレの視線に気づいたのか男がこちらへと近づいてきた。
あのなぁ、どこの世界のヤンキーだよ。
制服からしてこの学園の生徒ではないようだ。
「バストーク魔法学園の生徒みたいです」
マヤがそっと耳打ちする。
確か東の魔法学園だったか。
「なんか文句でもあんのか?」
セリフが三下っぽいんだが。どうしたものか。
「お兄ちゃん……殺っちゃう?」
妹よ。物騒なことを言うでない。
殺生はいけませんよ。
「まあまあ、ムキになるなよ」
オレは落ち着かせようと男の肩に手を置く。
よく見れば男の頭には大きな耳があった。まるで狼のような……狼人族か。
「テメエ!」
男が拳を振りかざす。
バキッ!
盛大な音と共に拳はオレの顔面にヒットした。
殴られたが怒りはなかった。
それどころか痛みすらない。
わざと食らって怒りが収まればと思ったが……もしかしてこの程度なのか……いや、そんなはずはない。もしかしたらこの狼人族の男もこの騒ぎに嫌気が指してわざと弱く殴ったのかもしれない。
「……気は済んだか?」
オレはゆっくりと顔にヒットした拳をつかんだ。
男の顔が驚きの表情になった。
優しくつかんだつもりだが男は必死になってオレの手から逃れようとしているみたいだった。
面白いパフォーマンスだ。もしかして、明日の何かしらのイベントの役者なのかもしれない。
「ああ、そうか!」
オレは納得した。こいつは明日のイベントの役者なのだ。きっとピエロか何かなのだろう。
こうして対面していても全く怖くないのがその証拠だ。
「悪い……練習の邪魔をしてしまったのか?」
「な、何言ってんだ!」
狼人族の男はさらに蹴りを放ってきた。
バキッ!
凄い。凄まじい音と勢いのように見えて全くダメージがない。何かの魔法だろうか。幻惑か何かでそう見えるようにしているのか……
「なんか、邪魔して悪かったな……」
周囲には人だかりができている。あまり目立つと明日のイベントにも支障が出るだろう。
「そろそろ他の場所に行こう」
振り返るとマヤは平然と、アープルは呆れたようにしてオレを見ていた。
「お兄さん……平気なんですか?」
「なにが?」
「うぉら、喰らえ!」
振り返ったオレの頭に狼人族が頭突きをかましてきた。
ガン!
「がはっ!」
派手な音と共に男が昏倒する。
全く面白い男だ。
「ガロウさん!」
人だかりの中から一人の少年が飛び出してきた。メガネをかけた気の弱そうな少年だ。同じ制服を着ていることからおなじバストーク魔法学園の生徒なのだろう。
「ああ!完全にノビてる!一体誰が?」
オロオロと周囲を見渡す。
もしかして、これもイベントの一部か?
「これは一体何のイベントなんだ?」
「イベント?何言ってるんですか!」
少年はオロオロとしたまま落ち着きがない。
「……相手の人は大丈夫ですか?怪我とかさせてませんよね?」
心配そうに周囲を見回す。迫真の演技だ。まるで男が誰かと喧嘩をしてこのような事態になったのだと錯覚してしまいそうだ。
「おい、これはなんの騒ぎだ?」
聞き慣れた声が聞こえてきた。
「よお。システィーナ……先生」
いつもの癖で呼び捨てにしてしまうところだった。
「あなたの周りはいつも騒がしいな」
呆れたようにシスティーナ。
いや、今回はオレのせいではない。この狼人族の男が勝手に踊っていただけだ。
「えっ……オレが悪いの?」
「この人は私を助けてくたんです」
「そうだ。そこの死んだ魚の目をした男が助けているのを俺は見た!」
屋台のおやじさんがフォローしてくれた。
周囲の人も賛同してくれる声があった。
さっきの失礼な発言をした生徒の顔はきっちり覚えた。後でしっかりと「お礼」をしに行こう。
「そうか……ところで君はこの男の知り合いなのか?」
「まあ、知り合いというか同じ中等部というか……」
「じゃあ。無関係?」
「うーん。無関係ではないですね」
はっきりしない。煮えきらない答えだ。
何なんだ?関係ないなら……仕方ないな。
「じゃあ、邪魔だからどけるぞ!」
狼人族の腰のベルトをつかみひょいと持ち上げる。
周囲を見渡したが。誰も何も言わなかった。
いや、あまりの出来事に固まってしまったのか。
そのまま屋台の裏に向かって放り投げた。
放物線を描いて男の体が飛んでいく。
「えっ?」
少年は呆けたようにオレと狼人族の男を交互に目で追う。
「おいおい。いきなり放り投げるやつがあるか!」
怒られた。
理不尽だ。なぜオレが怒られる。ゴミを放り投げただけだろう。
「何やってるんですか!」
少年が慌てる。
邪魔だからどけただけですが、なにか?
オレはいい加減バカバカしくなっていたのだ。
「あのなぁ……いい加減にしろ!練習なら他でやれ!」
「練習って……なんの話をしているんですか?」
こんなくだらない事にいちいち巻き込むな。
「システィーナ先生。とりあえずゴミは捨てておきましたので」
「あ、ああ……」
釈然としないままのシスティーナを残してオレはマヤとアープルを連れてその場を後にした。
「そんなぁ……」
少年の声が静かに響き渡った。
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