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第一章「いきなり冒険者」
第42話「竜人族との戦闘」
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迫る剣をオレは体を横にずらして避ける。
昨日のバージル卿との訓練に比べればこんなのは何でもなかった。
しかし、相手はアンナを誘拐した犯人だ。彼女を人質にでも取られたらこちらに打つ手はない。
「なんだなんだ?」
「け、剣を抜いているぞ!」
「誰か、衛兵を呼んでくれ!」
まずい、周囲に町人が集まり始めた。
敵は剣を手にこちらに近づいてくる。
殺気がびりびりと伝わってくる。
相手さんはやる気満々だ。
「みんな、安全なところへ!」
周囲に叫び身構える。
武器はないが、相手の剣を奪うことができれば勝機はある。
問題はどうやって剣を奪うかだ。
今のオレの力で手練れのこの男たちから剣を奪えるかどうかは疑問だった。
この世界は弱肉強食だ。向こうが殺す気でいる以上こちらが手加減をする必要はなかった。
「ノゾミ!」
馬に乗ったミーシャが駆けつけてきてくれた。
「もう、一人で飛び出してどうするつもりなのよ!」
ミーシャの後ろにはマヤがしがみついている。
そうだった。考えてみれば武器がない。
(戦闘準備。剣を転送します)
右手に漆黒の剣が現れた。
「空中から剣が!」
男たちは怯んだがこちらとしては好都合。
一気に懐に飛び込む。
男の腹に柄の一撃。そのままこぶしをもう一人の男のあごに食らわせた。
男二人はその場に昏倒し崩れ落ちる。
まずは二人。
レベルは20前後が三人。こいつらは大したことない……残りのフードを被った残りの一人が問題だった。
男 剣士 LV62。
バージル卿よりはレベルが低い。しかし、その男から感じる剣呑とした雰囲気は彼が只者ではないことを示していた。
「ヤムダさん!」
男の言葉にヤムダと呼ばれた男は舌打ちした。
「愚か者め!」
はい。馬鹿決定。
せめて偽名ぐらい決めとけよ。
もしかして、こいつら雑魚?
イベントのモブキャラ的な?
ヤムダはオレの方に男を突き飛ばす。男の体は宙を飛びオレに向かって飛んでくる。
とんでもない力だ。
オレは後ろに飛び男を避けた。
一瞬オレの気が男に逸れる。
その一瞬を逃さず、ヤムダの鉤爪が肩を襲った。
鈍い痛みが肩に走る。
普通の服なら肩ごと持っていかれていた。
そう、敵の攻撃は剣ではない。鉤爪だ。
(警告。敵は人間ではありません)
ああ、知ってる――というより今知った。
「肩を奪ったつもりでいたが……」
ヤムダはフードを取り去った。
そこには黒髪の黒い肌。彼の頭にはアンナと同じような黒い二本の角が見えていた。
そして、腕の先だけが爬虫類のようなウロコに覆われた鉤爪付きのものになっていた。
「ノゾミ、気をつけろ竜人族だ!」
システィーナが駆けつけてくる。
彼女の手には剣はない。
(最適解。剣を転送します)
彼女の横に剣が現れた。
身の丈ほどもある巨大な剣。
あっ、それマヤの剣だぞ。
考えてみれば、剣はそんな簡単に構築できるものではない。急ぎでマヤの剣を転送したということか。
マヤにはあとで謝っておこう。
「システィーナすまないけどその剣で何とかしのいでくれ!」
「了解した」
大振りな剣だがシスティーナなら大丈夫だろう。
オレが倒した二人とヤムダの吹き飛ばした一人をシスティーナが拘束する。
「ミーシャは周囲を警戒していてくれ!」
「わかりました」
アンナとマヤが走り出した。
「なぜアンナを狙う?」
ヤムダは答えない。その代わりに鉤爪を振るってきた。
ガキッ!
剣と鉤爪がぶつかり合う。
剣が押される。レベルと筋力の補正がかかっていてなお押されている。
「人間にしては強いかもしれんが、相手が悪かったな!」
剣をで何度か打ち込むが、ことごとく鉤爪で弾かれてしまった。
弾かれながらももう片方の鉤爪が襲いかかる。
腕でガードするが、腕ごと体が吹き飛ばされた。盛大に地面に叩きつけられ、それでもなんとか起き上がる。
「我が名は黒竜族のヤムダ――死してこの名を冥府で誇るがいい!」
「嫌なこった!」
バージル卿との訓練を思い出せ。
剣は身体の一部だ。剣と一体となり、手足のごとく剣を振るう。
ヤムダの鉤爪が襲いかかる。
迎え撃つのではない。相手の力強いのであれば、その力を利用するのだ。
振り下ろされる鉤爪をオレは下から斬り上げた。しかし、鉤爪どころかヤムダの腕にすら傷をつけられていない。
斬り上げたスキをつかれ腹に一撃を食らう。
吹き飛ばされ家の壁に叩きつけられた。
壁どころか家まで半壊する。
漆黒の衣でなければ、今頃致命的なダメージを負っているはずだ。
「……弱い」
分かっとるわい!
オレはどっちかっていうとバトル向きじゃないんだよ。大体、オレの戦闘経験っていってもゴブリンだよ?
レベルだって20以上の開きがあるって反則じゃない?
剣を横に払う。それはあっさりとつかまれ逆にオレの体が吹き飛ばされた。
家の壁を突き抜け埃が舞った。
飛び出しながら突きを放つが、それすらあっさりとかわされる。
「ノゾミ! 助太刀する!」
「来るな!」
駆けつけようとするシスティーナを止めた。
こいつは強い。
レべルだけでなく種族としてのアドバンテージがさらに強さを押し上げている。
「次で一気にカタをつけようぞ!」
ヤムダの体躯が膨れる。
靴が弾け鋭い爪が現れる。背中からは黒々とした翼が服を突き破って現れる。
「完全なる竜人化は選ばれた戦士の証だ」
顔が変形し竜のそれになる。
目の前に竜がいた。大きさで言えば大人の二倍ほどだが……その姿から感じる戦闘力はその比ではない。
(推測。現在の力では敵の表皮を突破できません)
分かってます。
今のオレの剣のウデでは攻撃を当ててもヤムダに傷すらつけられないだろう。
全身を鱗に覆われた姿はまさしく竜そのものだ。
「くっ……!」
システィーナが悔しそうに唇を噛みしめた。
「竜人族はその並外れた戦闘力故に世界最強種と言われている」
「じゃあ、魔人族は?」
「あれは別格。挑もうとするなど愚か者のすることだ!」
いや、オレ訓練受けてますけど。
システィーナの言葉を信じるのならば、目の前のヤムダには絶対に勝てないということだ。
「さて、見られた以上お前たちは殺すしかないのだが、お前は見どころがある。オレたちの仲間にならないか?」
何を馬鹿なこと言っているんだ?
アンナを誘拐するようなやつの仲間になるつもりは毛頭ない。
オレの沈黙を迷っていると勘違いしたのか、ヤムダがさらに言葉を続ける。
「仲間になれば何もかも自由だぞ! 女も抱き放題だ」
そ、それは本当なのか……!
システィーナに睨まれた。
じ、冗談ですよお嬢様。
でもなあ。
なんだか、まともに戦っても勝てる気がしない。
さて、どうしたものか。
悩んでいると唐突にオレを抱きしめる者があった。
「お兄ちゃんをいじめないで!」
マヤだ。いつの間にかここに駆け付けてきたらしい。
見ればミーシャもオレの後ろで杖を構えている。
「あれは……なんですか……」
ミーシャが振るえながら問いかける。
「黒竜族だ」
「黒竜族……暗黒魔法を行使する種族です……それにしてもすごい邪気」
さすが魔法使い。ヤムダから何かしらを感じているらしい――オレは何も感じないけど。
「おい、そこの子供……運がなかったな。お前もそいつもここで死ぬことになる」
「そんなのイヤ!」
オレに抱きつき泣きじゃくる無力な少女――誰の目からもそう見えるはずだ。
そう、オレ以外には――
「もう、離れないんだからね!」
マヤと目が合う。
よし。作戦は決定した。
「ごめん。もう飽きた」
「なに?」
ヤムダはいぶかしむ。
考えてみれば、真面目に相手する必要なんてない。
オレは剣を収納した。
「「ノゾミ!」」
システィーナとミーシャが悲鳴を上げる。戦場での武器放棄は敗北を意味する。
しかし、オレにそれは当てはまらない。
「戦意喪失か……相手が悪かったな! ならば妹ごと血祭りにあげてくれる!」
ヤムダの鉤爪がオレに襲いかかる。
確かに相手が悪かったな。
オレが相手でなければ、お前は死ぬことはなかったのにな!
ヤムダの鉤爪がオレの首に届く。当然だ。首から上が一番防御が薄い。
だが、鉤爪は虚しく空振りしオレの姿はその場から消えた。
「な、なんだと!」
馬鹿だねえ。戦闘系ってどうして正面から戦おうとするのかねえ。
まともでやって勝てないなら、まともじゃない手段で勝てば良いでしょうが。
ゴゴゴゴゴ!
地響きが轟く。
音の源は地面に空いた穴からだった。
「穴だと?」
ヤムダが穴をのぞき込むよりも早く、マヤを抱きかかえたオレは穴から飛び出した。足元から大量の水を噴射して。
「お前の……」
呆けたようにオレを見上げるヤムダ。
「負けだぁぁぁ!!!」
オレはマザーさんに合図する。
(了解。空間転移を開始します)
瞬間。ヤムダの頭上に突如として50mの石柱が出現した。
ゴッ!
鈍い音と共に石柱がヤムダの頭を叩き潰す。
悲鳴はなかった。
雄叫びも、呪詛の叫びも何もなかった。
ただ結果のみがそこにあった。
種も仕掛けもある簡単なトリックだ。
靴ごと足元の土を異空間に吸収して地中に潜り、前回吸収していた水を足元から噴射。予備で作成していた石柱をヤムダの頭上に出現させたのだ。
いかに竜人族といえども、巨大な質量体をまともにくらえばひとたまりもない。
(報告。生命反応の消失を確認。個体名「ヤムダ」の死亡を確認しました)
石柱が消滅する。
ヤムダの体も同時に吸収・消滅した。
(報告。個体名「ヤムダ」の解析を開始します)
死んだ死体は物質と同じ。
だから、異空間に転移できる。
マザーさんえげつないッス。
「勝ったのか?」
そこには呆然とたたずむシスティーナ。
「ああ。勝った」
オレはシスティーナにうなずき返した。
昨日のバージル卿との訓練に比べればこんなのは何でもなかった。
しかし、相手はアンナを誘拐した犯人だ。彼女を人質にでも取られたらこちらに打つ手はない。
「なんだなんだ?」
「け、剣を抜いているぞ!」
「誰か、衛兵を呼んでくれ!」
まずい、周囲に町人が集まり始めた。
敵は剣を手にこちらに近づいてくる。
殺気がびりびりと伝わってくる。
相手さんはやる気満々だ。
「みんな、安全なところへ!」
周囲に叫び身構える。
武器はないが、相手の剣を奪うことができれば勝機はある。
問題はどうやって剣を奪うかだ。
今のオレの力で手練れのこの男たちから剣を奪えるかどうかは疑問だった。
この世界は弱肉強食だ。向こうが殺す気でいる以上こちらが手加減をする必要はなかった。
「ノゾミ!」
馬に乗ったミーシャが駆けつけてきてくれた。
「もう、一人で飛び出してどうするつもりなのよ!」
ミーシャの後ろにはマヤがしがみついている。
そうだった。考えてみれば武器がない。
(戦闘準備。剣を転送します)
右手に漆黒の剣が現れた。
「空中から剣が!」
男たちは怯んだがこちらとしては好都合。
一気に懐に飛び込む。
男の腹に柄の一撃。そのままこぶしをもう一人の男のあごに食らわせた。
男二人はその場に昏倒し崩れ落ちる。
まずは二人。
レベルは20前後が三人。こいつらは大したことない……残りのフードを被った残りの一人が問題だった。
男 剣士 LV62。
バージル卿よりはレベルが低い。しかし、その男から感じる剣呑とした雰囲気は彼が只者ではないことを示していた。
「ヤムダさん!」
男の言葉にヤムダと呼ばれた男は舌打ちした。
「愚か者め!」
はい。馬鹿決定。
せめて偽名ぐらい決めとけよ。
もしかして、こいつら雑魚?
イベントのモブキャラ的な?
ヤムダはオレの方に男を突き飛ばす。男の体は宙を飛びオレに向かって飛んでくる。
とんでもない力だ。
オレは後ろに飛び男を避けた。
一瞬オレの気が男に逸れる。
その一瞬を逃さず、ヤムダの鉤爪が肩を襲った。
鈍い痛みが肩に走る。
普通の服なら肩ごと持っていかれていた。
そう、敵の攻撃は剣ではない。鉤爪だ。
(警告。敵は人間ではありません)
ああ、知ってる――というより今知った。
「肩を奪ったつもりでいたが……」
ヤムダはフードを取り去った。
そこには黒髪の黒い肌。彼の頭にはアンナと同じような黒い二本の角が見えていた。
そして、腕の先だけが爬虫類のようなウロコに覆われた鉤爪付きのものになっていた。
「ノゾミ、気をつけろ竜人族だ!」
システィーナが駆けつけてくる。
彼女の手には剣はない。
(最適解。剣を転送します)
彼女の横に剣が現れた。
身の丈ほどもある巨大な剣。
あっ、それマヤの剣だぞ。
考えてみれば、剣はそんな簡単に構築できるものではない。急ぎでマヤの剣を転送したということか。
マヤにはあとで謝っておこう。
「システィーナすまないけどその剣で何とかしのいでくれ!」
「了解した」
大振りな剣だがシスティーナなら大丈夫だろう。
オレが倒した二人とヤムダの吹き飛ばした一人をシスティーナが拘束する。
「ミーシャは周囲を警戒していてくれ!」
「わかりました」
アンナとマヤが走り出した。
「なぜアンナを狙う?」
ヤムダは答えない。その代わりに鉤爪を振るってきた。
ガキッ!
剣と鉤爪がぶつかり合う。
剣が押される。レベルと筋力の補正がかかっていてなお押されている。
「人間にしては強いかもしれんが、相手が悪かったな!」
剣をで何度か打ち込むが、ことごとく鉤爪で弾かれてしまった。
弾かれながらももう片方の鉤爪が襲いかかる。
腕でガードするが、腕ごと体が吹き飛ばされた。盛大に地面に叩きつけられ、それでもなんとか起き上がる。
「我が名は黒竜族のヤムダ――死してこの名を冥府で誇るがいい!」
「嫌なこった!」
バージル卿との訓練を思い出せ。
剣は身体の一部だ。剣と一体となり、手足のごとく剣を振るう。
ヤムダの鉤爪が襲いかかる。
迎え撃つのではない。相手の力強いのであれば、その力を利用するのだ。
振り下ろされる鉤爪をオレは下から斬り上げた。しかし、鉤爪どころかヤムダの腕にすら傷をつけられていない。
斬り上げたスキをつかれ腹に一撃を食らう。
吹き飛ばされ家の壁に叩きつけられた。
壁どころか家まで半壊する。
漆黒の衣でなければ、今頃致命的なダメージを負っているはずだ。
「……弱い」
分かっとるわい!
オレはどっちかっていうとバトル向きじゃないんだよ。大体、オレの戦闘経験っていってもゴブリンだよ?
レベルだって20以上の開きがあるって反則じゃない?
剣を横に払う。それはあっさりとつかまれ逆にオレの体が吹き飛ばされた。
家の壁を突き抜け埃が舞った。
飛び出しながら突きを放つが、それすらあっさりとかわされる。
「ノゾミ! 助太刀する!」
「来るな!」
駆けつけようとするシスティーナを止めた。
こいつは強い。
レべルだけでなく種族としてのアドバンテージがさらに強さを押し上げている。
「次で一気にカタをつけようぞ!」
ヤムダの体躯が膨れる。
靴が弾け鋭い爪が現れる。背中からは黒々とした翼が服を突き破って現れる。
「完全なる竜人化は選ばれた戦士の証だ」
顔が変形し竜のそれになる。
目の前に竜がいた。大きさで言えば大人の二倍ほどだが……その姿から感じる戦闘力はその比ではない。
(推測。現在の力では敵の表皮を突破できません)
分かってます。
今のオレの剣のウデでは攻撃を当ててもヤムダに傷すらつけられないだろう。
全身を鱗に覆われた姿はまさしく竜そのものだ。
「くっ……!」
システィーナが悔しそうに唇を噛みしめた。
「竜人族はその並外れた戦闘力故に世界最強種と言われている」
「じゃあ、魔人族は?」
「あれは別格。挑もうとするなど愚か者のすることだ!」
いや、オレ訓練受けてますけど。
システィーナの言葉を信じるのならば、目の前のヤムダには絶対に勝てないということだ。
「さて、見られた以上お前たちは殺すしかないのだが、お前は見どころがある。オレたちの仲間にならないか?」
何を馬鹿なこと言っているんだ?
アンナを誘拐するようなやつの仲間になるつもりは毛頭ない。
オレの沈黙を迷っていると勘違いしたのか、ヤムダがさらに言葉を続ける。
「仲間になれば何もかも自由だぞ! 女も抱き放題だ」
そ、それは本当なのか……!
システィーナに睨まれた。
じ、冗談ですよお嬢様。
でもなあ。
なんだか、まともに戦っても勝てる気がしない。
さて、どうしたものか。
悩んでいると唐突にオレを抱きしめる者があった。
「お兄ちゃんをいじめないで!」
マヤだ。いつの間にかここに駆け付けてきたらしい。
見ればミーシャもオレの後ろで杖を構えている。
「あれは……なんですか……」
ミーシャが振るえながら問いかける。
「黒竜族だ」
「黒竜族……暗黒魔法を行使する種族です……それにしてもすごい邪気」
さすが魔法使い。ヤムダから何かしらを感じているらしい――オレは何も感じないけど。
「おい、そこの子供……運がなかったな。お前もそいつもここで死ぬことになる」
「そんなのイヤ!」
オレに抱きつき泣きじゃくる無力な少女――誰の目からもそう見えるはずだ。
そう、オレ以外には――
「もう、離れないんだからね!」
マヤと目が合う。
よし。作戦は決定した。
「ごめん。もう飽きた」
「なに?」
ヤムダはいぶかしむ。
考えてみれば、真面目に相手する必要なんてない。
オレは剣を収納した。
「「ノゾミ!」」
システィーナとミーシャが悲鳴を上げる。戦場での武器放棄は敗北を意味する。
しかし、オレにそれは当てはまらない。
「戦意喪失か……相手が悪かったな! ならば妹ごと血祭りにあげてくれる!」
ヤムダの鉤爪がオレに襲いかかる。
確かに相手が悪かったな。
オレが相手でなければ、お前は死ぬことはなかったのにな!
ヤムダの鉤爪がオレの首に届く。当然だ。首から上が一番防御が薄い。
だが、鉤爪は虚しく空振りしオレの姿はその場から消えた。
「な、なんだと!」
馬鹿だねえ。戦闘系ってどうして正面から戦おうとするのかねえ。
まともでやって勝てないなら、まともじゃない手段で勝てば良いでしょうが。
ゴゴゴゴゴ!
地響きが轟く。
音の源は地面に空いた穴からだった。
「穴だと?」
ヤムダが穴をのぞき込むよりも早く、マヤを抱きかかえたオレは穴から飛び出した。足元から大量の水を噴射して。
「お前の……」
呆けたようにオレを見上げるヤムダ。
「負けだぁぁぁ!!!」
オレはマザーさんに合図する。
(了解。空間転移を開始します)
瞬間。ヤムダの頭上に突如として50mの石柱が出現した。
ゴッ!
鈍い音と共に石柱がヤムダの頭を叩き潰す。
悲鳴はなかった。
雄叫びも、呪詛の叫びも何もなかった。
ただ結果のみがそこにあった。
種も仕掛けもある簡単なトリックだ。
靴ごと足元の土を異空間に吸収して地中に潜り、前回吸収していた水を足元から噴射。予備で作成していた石柱をヤムダの頭上に出現させたのだ。
いかに竜人族といえども、巨大な質量体をまともにくらえばひとたまりもない。
(報告。生命反応の消失を確認。個体名「ヤムダ」の死亡を確認しました)
石柱が消滅する。
ヤムダの体も同時に吸収・消滅した。
(報告。個体名「ヤムダ」の解析を開始します)
死んだ死体は物質と同じ。
だから、異空間に転移できる。
マザーさんえげつないッス。
「勝ったのか?」
そこには呆然とたたずむシスティーナ。
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