上 下
17 / 406
第一章「いきなり冒険者」

第14話「領主との会合」

しおりを挟む
 オレたちは獣車から降ろされ、近衛兵の操縦する馬車へと乗せられた。
 馬車もあるんだとその時になって初めて知りました。

「すまない。なんだか大変なことになってしまったみたいだ」

 オットーが申し訳なさそうに言った。

「まあ、仕方ないさ」

 何かの誤解だろう。
 何も悪いことはしていない。
 オレたちは別に拘束されているわけでもなくアランたちは帯刀すらしたままで馬車に乗せられていた。
 どれほどの時間揺られていただろうか。おそらく一刻は過ぎていないだろうという頃になって大きな屋敷に到着した。
 ここが交易都市キリムを管理する三人の領主の一人、アイスクラ・マイスター卿の屋敷だということだった。

「どうぞ。こちらへ」

 執事らしき男が玄関で出迎えてくれる。
 ビシッとエレガントに礼服を着こなしたTHE執事だった。
 そのまま応接室に通される。

「えーっと、私達これからどうなるんですか?」

 ミーシャが不安げにオレに問いかける。
 それはオレが知りたいくらいだ。
 屋敷なんてこれまで一度も入ったことないし、あるのは観光で行ったお城くらいだし。しかも「和」の方だ。

「アイスクラ・マイスター卿様、システィーナ・マイスター様、入室いたします」

 メイドの女性の声。
 どうやら、領主様のお出ましらしい。
 ん? どっかで聞いた名前が聞こえたような。
 オレたちはアランにならって、その場に膝まづいている。
 お屋敷に入る前に「決して許しがあるまで顔を上げてはいけない」と再三アランとオットーに言われていた。
 領主はいわば小規模とはいえ王族と同じくらいの権力を持つ。下手なことをして罪人になどなりたくはない。

「面を上げなさい」

 若い女性の声で、オレたちは顔を上げる。
 顔を上げ目の前の女性を見るとオレはやはりと心の中で頷いた。

「シ、システィーナ!」

 ミーシャが驚きの声を上げた。
 アランとオットーはある程度の予想があったのだろう。オレたちの都入りを知っている貴族なんて一人しかオレは知らない。
 できれば外れて欲しい予想ではあったが……

「昨日ぶりです、システィーナ様」

 オレは観念して目の前のシスティーナお嬢様に挨拶をした。

「そんな呼び方をしないで、あなた方は命の恩人。今まで通りでいい」

 くだけた感じでシスティーナが言った。

「システィーナって領主のお嬢様だったんですね」

 ミーシャが感動したように呟いた。領主のお嬢様で女聖騎士か……スペック高すぎだろ。
 それに美人だしスタイルもいい。
 あの柔らかな感触は今でも覚えてまっせ!

「今、変な事考えなかった?」

 システィーナが疑わしげな眼でオレをねめつける。
 な、なんのことだかな。
 別にぃ……平常心だしぃ。

「そ、そ、そんなことない……ぞ」

「怪しいな……」

「おほん。君達がシスティーナを助けてくれた冒険者だね」

 誰だこのオッサン? などということをオレは言わない。
 どう考えてもこの初老の男がアイスクラ・マイスター卿だろう。
 交易都市キリムを代表する三人の領主の内の一人。その権力は強大だ。特に都市中心部の管理はマイスター卿が執り行っているということだ。地方の領主とは比べるべくもないだろう。

「よくぞ娘を救ってくれた」

 第一声はねぎらいの言葉だった。よかった。娘の件でいきなり罵倒されるのかと思ったよ。いや、オレはシスティーナのことを信じていたよ。

「君達には何かお礼をしたいのだが……何か望みはあるかね?」

 アランとオットーは顔を見合わせる。それからオレを見た。オレは黙って頷く。

「ありがたい申し出ですが、辞退させていただきます」

 アランは静かな声で言う。

「私達は冒険者として当然のことをしたまでのこと。それがたまたま領主様のお嬢様だっただけでございます」

 アランの言葉にオレ達は頷いた。
 そう。相手が誰であろうとやることは変わらなかった。だから、何もいらない。

「ふむ。そうか……しかし、聞けばそこの二人は冒険者ギルドにこれから登録をするとか、その便宜をはかるくらいのことはさせてもらえないかね」

 これは嬉しい申し出だった。
 冒険者登録の事に関しては、キリムの街に入る時にオットーから説明してもらっていたことだ。直ぐに領主の耳にまで入るとは情報の統制がしっかり差されているという証拠だった。
 情報は宝だ。営業においても人・金・情報というものは重要視される。
 領主からのお墨付きとあれば冒険者登録は容易にできるだろう。

「よかったですね」

 ミーシャが嬉しそうに言ってくれた。
 そういったことであればありがたく受け取っておこう。

「ありがとうございます。その件につきましては甘えさせて頂きます」

 何が問題となるかは分からない。身元の保証のないオレたちにとって領主という後ろ盾があるのは正直ありがたかった。

「分かった。手配しよう。こちらの要件で遅くまで引き止めてしまったな。今屋は屋敷に泊まっていくといい。娘もその方が喜ぶだろう」

「お、お父様!」

 システィーナが慌てたように叫んだ。
 よかった。昨日の件で罰せられるかと思った。
 いやあねぇ。ほら、知らなかったとはいえ、フェロモンでずっと悶絶させてたみたいだし。
 そうなのだ。双子の姉妹丼を頂いている時に、オレはその事実を知った。いや思い知らされた。
 いやほんと、なんかゴメン!

「すぐに夕食の準備をさせよう。それまで部屋でくつろいでくれたまえ」

 アイスクラ卿とシスティーナが部屋を退出する。
 オレたちは一気にその場にへたりこんだ。

「き、緊張したぁ~」

 オットーが額の汗をぬぐう。

「さすがは領主、凄い風格だった」

 アランも緊張していたようだ。

「冒険者の皆様。お部屋へとご案内致します」

 メイドが無機質な声で言った。ここでくつろぐなということらしい。
 オレたちはメイドに案内されて、各々部屋へと押し込められた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

処理中です...