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大海原と大海賊編【世界軸α:バルサイド海】
黎明の月 8日 紅の魔女と最弱勇者!
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「【紅の魔女】を知っていますか?」
いよいよ旅立ちの日という時になって、その別れ際、ルカリオが望に質問した。
望は首を横に振る。
「彼女は400年以上も前に、この大陸の一国を滅ぼした魔女です」
昔、ここの大陸には8つの国があった。サラは望にそう説明してくれた。その内の一つの国はすでに滅んでいるとも。
「彼女は……いえ、その少女はあなたのように無尽蔵にあらゆる魔法を使いこなす魔女でした」
「あらゆる魔法を……」
ルカリオは、静かに頷いた。
「紅の魔女を崇拝する異教徒の事をご存知ですか?」
「ああ、知っているとも……」
苦虫を噛み潰したような顔で、望が吐き捨てるように言った。
忘れるはずがない。
湖の都でサラと望が対峙した魔の集団だ。
「気を付けて下さい。あなたが無尽蔵に魔法を使えば、紅の魔女の再来と思われるかもしれませんよ」
「ああ、分かった心に留めておく」
ルカリオの言葉は、望の胸に深く刻み込まれた。
「ノゾミン!」
サラの言葉に、望ははっと我に返った。
帆船の周囲、大砲とは思えない派手な水柱が立て続けに上がる。
「なんだ!」
「敵の……海賊船からの攻撃魔法なのです!」
サラの言葉に望は戦慄した。
サラの火系魔法は、水の多い海の上では威力が半減する。
かといって望も魔法を使うわけにはいかない。
いかんせん、周囲に人が多すぎた。
混雑に紛れて魔法を使い何とかこの場を乗り切れないかとも考えたが、冒険者たちがすでに甲板に集まっている。彼らの前で魔法を使うことはかなりの危険を感じていた。
「ノゾミン!腕輪を……!」
サラが腕輪に手をかける。腕輪の封印を解き力を解放しようとしているのだということが分かった。
しかし、一度封印を解いてしまえば腕輪は砕け散り再び封印をするまでしばらくの時間が必要となる。つまり、その間彼女の魔法力を抑えることができないということだ。
ルカリオと結魂し、望とサラは竜族の膨大な魔力を手に入れた。
しかし、その巨大すぎる力は、歯止めが効かず暴走する危険性があった。
今は「罪人の腕輪」によって魔力が抑えられ、並みの魔法使いと同等に抑えられている。
「今、封印を解かないとやられてしまうのです!」
「しかし!」
今度は陸に上がった時、強力すぎるが故に彼女は魔法が使えなくなる。
巨大すぎる力を彼女はまだ制御できないのだ。
それは望も同じ。
強力すぎるが故に逆に使うことができない。
「また撃ってきたぞ!」
冒険者の一人が叫んだ。
巨大な氷の矢が帆船に向かって飛んでくる。
「炎の壁!」
サラが呪文を放った。
前もって準備していた強化呪文だ。
氷の矢は炎に阻まれ蒸発していく。
「おお!」
冒険者、船員の間から歓声が漏れた。
「……このままではダメなのです」
サラは悔しそうだ。
火の精霊の力はわずかで済み、威力は絶大だが、呪文詠唱に時間がかかる。
冒険者の中には魔術師もいたが、火系の魔法は全く役に立たないと言っていい。
水系の魔術師もいたが、海賊船にさしたるダメージを与えることができず、防御に徹することしかできなかった。
「サラ、オレが出る」
「それはダメなのです!」
望の申し出をサラが遮った。望の存在を今ここで知られるわけにはいかない。
無事に海賊を撃退できたとしても、そのあとの問題の方が重要だった。
下手をすれば、世界中の敵になりかねない。それほど望に力は危険なのだ。
万策尽きたかに見えたその時。
「魔法使いってのは、力の出し惜しみをする人種なのかい?」
「なんですって!」
背後からかけられた声に思わずかっとなりサラは睨みつける。
「なあに、本当のことを言ったまでだ。怒ることはないだろ」
声の主は若い男のものだった。
蒼い髪の長身の若い男だった。
その隣には同じく蒼い髪の少女。
男は杖を持っていることから、魔術師であろうと予想がつく。
「君たちには力がある…なのに使わない。私はそんな君たちを見ていてイライラするんだよ」
蒼い髪の男は杖をかざす。
「ミルティーン!」
蒼い髪の男の声に、少女が動く。
少女は甲板の上を走り、そのまま海に向か合って飛び出していった。
「なんだ!」
周囲から驚きの声が上がる。
しかし、男はそんな声には見向きもせず、じっと大海原を凝視していた。
「サラ……あいつはいったい」
「見ているのです」
言いかけた望をサラが制した。
やがて、望たちの見ている前で海賊船が動きを止める。
氷の矢も止まり、静寂が訪れた。
「何が起こっているんだ……」
望たちが見守る中、変化が起こった。
ギギギギギギギ!
それは木がきしむ音、爆ぜる音。
巨大な力がじわじわと海賊船を締め上げている。
ガガガガ!
望たちの目の前で、海賊船の船体、その腹の部分が爆ぜた。木片が飛び散り、ぶつかり合った大砲の玉が爆発、誘爆を起こしやがて火の手が上がった。
一隻の海賊船が沈んでいく。
海賊たちはいっせいに海に飛び込み、その目の前で船が沈む。
「何が起こったっていうんだ!」
目の前の光景に、望は目を奪われたままだった。
海の中で何が起こっているのか、蒼い髪の少女が恐らくは関係しているだろうということは予想できたが、何がどうなっているのかまったくわからない。
「……妖精使い」
サラが呟いた。
「蒼い髪、水の妖精使い…賢者セリウス!」
サラの目の前で、賢者セリウスは対峙する。その横にいつの間にか蒼い髪の少女が立っていた。
「船は沈めました。これからどうしますか?」
少女が問う。
「海賊は海のクズだ。沈めてしまえ」
「了解しました。マスター」
命令を発する賢者、応える少女の声。
どちらも感情を挟む余地もなく、淡々としていた。
いよいよ旅立ちの日という時になって、その別れ際、ルカリオが望に質問した。
望は首を横に振る。
「彼女は400年以上も前に、この大陸の一国を滅ぼした魔女です」
昔、ここの大陸には8つの国があった。サラは望にそう説明してくれた。その内の一つの国はすでに滅んでいるとも。
「彼女は……いえ、その少女はあなたのように無尽蔵にあらゆる魔法を使いこなす魔女でした」
「あらゆる魔法を……」
ルカリオは、静かに頷いた。
「紅の魔女を崇拝する異教徒の事をご存知ですか?」
「ああ、知っているとも……」
苦虫を噛み潰したような顔で、望が吐き捨てるように言った。
忘れるはずがない。
湖の都でサラと望が対峙した魔の集団だ。
「気を付けて下さい。あなたが無尽蔵に魔法を使えば、紅の魔女の再来と思われるかもしれませんよ」
「ああ、分かった心に留めておく」
ルカリオの言葉は、望の胸に深く刻み込まれた。
「ノゾミン!」
サラの言葉に、望ははっと我に返った。
帆船の周囲、大砲とは思えない派手な水柱が立て続けに上がる。
「なんだ!」
「敵の……海賊船からの攻撃魔法なのです!」
サラの言葉に望は戦慄した。
サラの火系魔法は、水の多い海の上では威力が半減する。
かといって望も魔法を使うわけにはいかない。
いかんせん、周囲に人が多すぎた。
混雑に紛れて魔法を使い何とかこの場を乗り切れないかとも考えたが、冒険者たちがすでに甲板に集まっている。彼らの前で魔法を使うことはかなりの危険を感じていた。
「ノゾミン!腕輪を……!」
サラが腕輪に手をかける。腕輪の封印を解き力を解放しようとしているのだということが分かった。
しかし、一度封印を解いてしまえば腕輪は砕け散り再び封印をするまでしばらくの時間が必要となる。つまり、その間彼女の魔法力を抑えることができないということだ。
ルカリオと結魂し、望とサラは竜族の膨大な魔力を手に入れた。
しかし、その巨大すぎる力は、歯止めが効かず暴走する危険性があった。
今は「罪人の腕輪」によって魔力が抑えられ、並みの魔法使いと同等に抑えられている。
「今、封印を解かないとやられてしまうのです!」
「しかし!」
今度は陸に上がった時、強力すぎるが故に彼女は魔法が使えなくなる。
巨大すぎる力を彼女はまだ制御できないのだ。
それは望も同じ。
強力すぎるが故に逆に使うことができない。
「また撃ってきたぞ!」
冒険者の一人が叫んだ。
巨大な氷の矢が帆船に向かって飛んでくる。
「炎の壁!」
サラが呪文を放った。
前もって準備していた強化呪文だ。
氷の矢は炎に阻まれ蒸発していく。
「おお!」
冒険者、船員の間から歓声が漏れた。
「……このままではダメなのです」
サラは悔しそうだ。
火の精霊の力はわずかで済み、威力は絶大だが、呪文詠唱に時間がかかる。
冒険者の中には魔術師もいたが、火系の魔法は全く役に立たないと言っていい。
水系の魔術師もいたが、海賊船にさしたるダメージを与えることができず、防御に徹することしかできなかった。
「サラ、オレが出る」
「それはダメなのです!」
望の申し出をサラが遮った。望の存在を今ここで知られるわけにはいかない。
無事に海賊を撃退できたとしても、そのあとの問題の方が重要だった。
下手をすれば、世界中の敵になりかねない。それほど望に力は危険なのだ。
万策尽きたかに見えたその時。
「魔法使いってのは、力の出し惜しみをする人種なのかい?」
「なんですって!」
背後からかけられた声に思わずかっとなりサラは睨みつける。
「なあに、本当のことを言ったまでだ。怒ることはないだろ」
声の主は若い男のものだった。
蒼い髪の長身の若い男だった。
その隣には同じく蒼い髪の少女。
男は杖を持っていることから、魔術師であろうと予想がつく。
「君たちには力がある…なのに使わない。私はそんな君たちを見ていてイライラするんだよ」
蒼い髪の男は杖をかざす。
「ミルティーン!」
蒼い髪の男の声に、少女が動く。
少女は甲板の上を走り、そのまま海に向か合って飛び出していった。
「なんだ!」
周囲から驚きの声が上がる。
しかし、男はそんな声には見向きもせず、じっと大海原を凝視していた。
「サラ……あいつはいったい」
「見ているのです」
言いかけた望をサラが制した。
やがて、望たちの見ている前で海賊船が動きを止める。
氷の矢も止まり、静寂が訪れた。
「何が起こっているんだ……」
望たちが見守る中、変化が起こった。
ギギギギギギギ!
それは木がきしむ音、爆ぜる音。
巨大な力がじわじわと海賊船を締め上げている。
ガガガガ!
望たちの目の前で、海賊船の船体、その腹の部分が爆ぜた。木片が飛び散り、ぶつかり合った大砲の玉が爆発、誘爆を起こしやがて火の手が上がった。
一隻の海賊船が沈んでいく。
海賊たちはいっせいに海に飛び込み、その目の前で船が沈む。
「何が起こったっていうんだ!」
目の前の光景に、望は目を奪われたままだった。
海の中で何が起こっているのか、蒼い髪の少女が恐らくは関係しているだろうということは予想できたが、何がどうなっているのかまったくわからない。
「……妖精使い」
サラが呟いた。
「蒼い髪、水の妖精使い…賢者セリウス!」
サラの目の前で、賢者セリウスは対峙する。その横にいつの間にか蒼い髪の少女が立っていた。
「船は沈めました。これからどうしますか?」
少女が問う。
「海賊は海のクズだ。沈めてしまえ」
「了解しました。マスター」
命令を発する賢者、応える少女の声。
どちらも感情を挟む余地もなく、淡々としていた。
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