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第7巻第4章 亀裂と……

復権派と誤解

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「まさか創造神様が封印されてしまうとは……」

 創造神の行方がわからなくなってから1ヶ月。

 復権派の神々はようやく創造神がマヤに封印されてしまったことを突き止めた。

「だから我々も加勢したほうがいいと言ったのだ!」

「創造神様が再び封印されるなど誰が予想できたましたか? 魔神なき今、創造神様は最高位の神なのですよ? それが何でもない人間の少女に封印されるなど、誰が……」

「今はそんなことを言い争っている場合ではないのではないか?」

「…………っ。そうだな、それにあの創造神様だ、ただ封印されているだけであるはずがない」

「そうだ! そうに決まってる。だからこそ我々は、機を逃さないようにしなければ」

 周りにいた他の復権派の神々も口々に同意する。

「それでは具体的にどうするか話していきましょう」

「まず、今回創造神様が、封印されるに至ったのは、マヤという少女を中心として、魔神が残した原初の魔王と呼ばれる3人の魔王が協力したためです。裏を返すと、この協力が崩れれば、我々の敵ではない、ということです」

「なるほど。それでは奴らを仲間割れさせればいいわけだな」

「ええ、ですから――」

 復権派の神々は、それからマヤたちを打倒する方法を話し続けたのだった。

***

「………………」

 ウォーレンはキサラギ亜人王国を出発する直前まで、マヤの屋敷の方を見てボーっとしていた。

 その隣にはエスメラルダが立っている。

「どうしました?」

 何やら上の空なウォーレンに話しかけるエスメラルダは今回のウォーレンの旅の案内人だ。

「ああ、いや、何でもない……」

「そうですか? 何か気になることがあるなら出発を遅らせても問題ありませんよ?」

 エスメラルダの提案に、ウォーレンは黙って首を横に振った。

「ウォーレンさんがいいならいいですけど……それじゃあ行きましょうか」

 エスメラルダはそのままキサラギ亜人王国から隣国へと続く街道に進んでいく。

 ウォーレンもそれを追いかけながら、しかし意識はまだマヤの屋敷の方に向かっていた。

(マヤ……)

 マヤに笑顔で送り出してもらえなかったことを後悔しながら、ウォーレンはキサラギ亜人王国を出発した。

(あそこで変に恥ずかしがったりしなけりゃ、きっとマヤなら応援してくれたんだろうな……)

 今更そんなことを思っても遅すぎるが、ウォーレンはそう考えずにはいられない。

(こうなった以上、絶対マヤの隣にいるのにふさわしい男になって帰ってくるからな)

 ウォーレンは決意を新たに、エスメラルダの後を追う。

「ふふっ、きっと成れますよ、ウォーレンさんなら」

「なっ……もしかして、声に出てたか?」

「ええ、ばっちりと。お互い優秀すぎるパートナーを持つと苦労しますね」

 仲間を見つけたことが嬉しいのか、エスメラルダは楽しそうに笑う。

「そうだな、お互いに。でも、俺たちのパートナーだってできないことがある。だから、俺は少しでも役に立ちたいんだ」

「すごくわかりますよ、その気持ち。それだけマヤさんのことが好きなんですね」

「ああ、心の底から愛してる」

「あらあら、ごちそうさまです」

 エスメラルダとウォーレンは、そんな感じで談笑しながら、最初の目的地であるアンブロシア皇国へと向かった。

***

 ウォーレンがキサラギ亜人王国を出発する少し前、マヤは街道へと続く道の脇で、出発しようとするウォーレンを隠れて見ていた。

「………………」

 昨晩ウォーレンの前から逃げ出してしまった後、ウォーレンが今日にも出発するということを妹のカーサから聞いたマヤは、急いでここまでやってきたのだ。

 やってきたのだが……。

(話しかけづらいなあ……)

 昨日の今日で、何でもない風に話しかける勇気は、マヤには無かった。

 昨日の一件で愛想を尽かされてしまっていたら? そもそも、愛想を尽かされたから自分の前からいなくなってしまうのではないか? などと、様々な不安がマヤの頭に浮かんでは消えていく。

(でも、行かないと……今ここで話しておかないと、絶対後悔するよね……)

 マヤが何度か深呼吸して、やっとウォーレンに声をかけようとした瞬間、ウォーレンのところに一人の女性がやってきた。

(えっ……? なんでエスメラルダさんが……)

 エスメラルダの登場に、マヤは思わず姿を隠してしまう。

 そのまま気配も消したマヤは、話し始めた2人を観察する。

「ふふっ………………ウォーレンさん……」

「なっ……もしかして………………?」

(何を話してるんだろう?)

 距離があることに加え、風で木々の葉が擦れる音のせいで、マヤには2人の会話が途切れ途切れにしか聞こえない。

 強化魔法を使おうかとも思ったマヤだったが、この距離でそんなことをすれば、まず間違いなくウォーレンとエスメラルダにばれてしまう。

「ええ、………………お互い…………パートナー…………苦労……ね」

 何やらエスメラルダは楽しそうに笑っている。

 それを見たマヤは、胸が締め付けられるようだった。

「そうだな、お互いに。…………俺たちのパートナー…………できない…………から……俺は………………立ちたいんだ」

「すごく………………ますよ……………………さん…………好き…………です……」

「ああ、心の底から愛してる」

 エスメラルダに向けられたウォーレンのその言葉を聞いた瞬間、マヤは手足の先から冷たくなっていくのを感じた。

 なんだか地面もふわふわしている感じがして、かがんでいたマヤは思わず両手を地面についてしまう。

(な、なんで? なんでウォーレンさんがエスメラルダさんと……え? え? え? じゃ、じゃあ、キサラギ亜人王国を離れるのって……そういう……)

 セシリオの妻であるエスメラルダと結ばれるために、ウォーレンはエスメラルダと駆け落ちしようとしている、という仮説がマヤの中に浮かび上がる。

 しかしそれが正しければ、それすなわち、マヤもウォーレンから捨てられたということになるわけで……。
 
「えっ……? じゃあ私、振られた……の?」

 マヤが茂みの中でそんなことになっているとは露知らず、ウォーレンとエスメラルダは談笑しながら街道の方へと姿を消していた。

 会話が断片的にしか聞こえなかった上、エスメラルダとセシリオの仲睦まじさを、何よりウォーレンの自分への想いを知っているマヤなら、こんな勘違いをするはずはなかったのだが、マヤはどんどんと悪い方向へ悪い方向へと考えてしまう。

「2人とも、私を無視して行っちゃった…………そっか、私なんてどうでもいいんだ……」

 2人より実力が上のマヤが全力で気配を消していたのだから、2人は本当にただ単に気がついていなかっただけなのだが、今のマヤはそんな数分前のことも忘れてしまっていた――。
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