上 下
274 / 324
第6巻第4章 セシリオの狙い

エスメラルダの居場所

しおりを挟む
「結局、エスメラルダさんがどこに行っちゃったのかはわからないのかあ……」

 エスメラルダの襲撃に対応してくれた全員の話を聞き終えたマヤは、深くため息をついた。

「原初の魔王はルーシェ殿以外全員居場所を隠しているからな。マルコス殿がルースの力を使わないとたどり着けない異空間に城を構えていたところを見ると、セシリオ殿も同じように普通のやり方ではたどり着けない場所に城を構えていてもおかしくない」

「だよねえ……」

 マッシュの推測が正しいとすると、セシリオのところに一方的に乗り込むのはほぼ不可能と言っていいだろう。

 その上乗り込めたとして、原初の魔王であるセシリオに勝つことができるとは思えないので、セシリオに気が付かれないようにシャルルを取り戻す必要がある。

 乗り込む方法に目処がつけばそれで解決、というわけではないのだ。

「とりあえずエメリンさんが帰ってきたら、セシリオさんの居場所について聞いてみるとして……もう一つの気になるのは、セシリオさんが何をしようとしてるかってことだよね」

「それは私も気になっていました。シャルルさんが言っていたオーガに伝わる伝説が本当なら、聖剣とオーガの王族が揃うと原初の魔王を倒せるほどの力が手に入る、ってことですけど、セシリオ様はすでに原初の魔王ですし、そんな力を手に入れても意味がないと思うんですよね……」

「もしか、して、ほかの、原初の、魔王、様を、倒そうと、してる?」

「セシリオさんが、ルーシェさんやマルコスさんを倒そうとしてるってこと?」

「うん。原初の、魔王様、同士は、互いに、不干渉、だけど、シャルルさん、に、やらせ、れば、関係、ない。それに、ついでに、マヤさんに、罪を、なすりつけ、られる」

「確かに……キサラギ亜人王国所属のオーガがルーシェさんとマルコスさんを殺せば、私が下剋上をしたって思われるわけか。元はといえば私を過去に送ってまでオーガの王族であるシャルルさんを連れてきたマルコスさんが悪いわけだけど、そのマルコスさんは殺されちゃってるから、なんの証言もできない……」

「うん、死人に、口無し」

「それじゃあセシリオ様は、他の原初の魔王を排除して、あわよくばマヤさんも一緒に排除して、唯一最強の魔王になろうとしてるってことですか?」

「うーん、それはどうなんだろう? 正直そんなことをしたから何になるんだっていう気はするんだよね。だってセシリオさんって、今でもすでに世界でたった3人の原初の魔王の一人なわけじゃん? それに、あの3人って、相互監視とか言ってる割にはみんな好き勝手やってるよね?」

 不干渉と言いつつお忍びで部下に変装してキサラギ亜人王国に遊びに来ているルーシェや、マヤを過去に送ったマルコス、エスメラルダを使ってゾグラス山を混乱に陥れた挙げ句、キサラギ亜人王国からシャルルをさらっていったセシリオ。

 正直、今でも好き勝手やっているようにしか思えなかった。

 他の2人の監視があってもこれだけ自由に好き放題やっているというのに、わざわざセシリオがルーシェとマルコスを排除する理由が分からない。

「だから、それが理由じゃなくて、何か別の理由があるんだと思うんだよね」

「別の理由、ですか?」

「うん。例えばそうだなあ……他の2人を殺してその力を吸収すると、その力を自分のものにできる、とかさ」

「本当にそんなことできるんですか?」

「さあ? わかんない。でも、原初の魔王だよ? それくらいできそうじゃない」
 
「それはたしかにそうですね。もしそれができるなら、セシリオ様が力を求めて他の2人を手にかけた、ってことで説明もつく? んでしょうか?」

「まあ一応はそうかもしれんが、あくまでマヤの推測にすぎん。本当のところは本人に聞いてみるしかないだろう」

「できれば本人と会わずにシャルルさんを取り返せればいいんだけど……」

 マヤが乾いた笑いしていると、屋敷のドアが勢いよく開け放たれた。

「大変っす! ルーシェ様のお城が、謎の仮面をつけた剣士に襲われてるっす!」

「え? シェリルさん!? 何、どういうこと?」

「襲撃があったと聞きました! 私が護衛についていながら申し訳ございませ――シェリル、どうしてあなたがここにいるのかしら?」

「わっ!? エメリン様!? いつからそちらに?」

「いえ、ついさっきですけど……それより、なぜあなたがここにいるんですか?」

「そっ、そうでしたっ! マヤ様! ルーシェ様のお城が謎の仮面の剣士に襲われてるんです! 助けに来て欲しいです!」

「ルーシェさんのお城が謎の剣士に襲われているから助けてほしい、ね」

 マヤはルーシェの城を襲っているのが剣士だということに引っかかりを覚える。

(もしかして、もう聖剣を持ったシャルルさんが戦力として実戦投入されてる? いや、もしそうだとしたら準備期間が短すぎる。だってシャルルさんが攫われたのは昨日なはずだからそれから丸一日すらかかってないことになるけど……)

 マヤは顎に手を当てて考えをめくらせる。

 ちなみにマヤがなぜこのようにのんきに考え事ができるのかといえば理由は単純だ。

 おそらく襲撃者の一番の狙いであるルーシェは、こうして今目の前にいるからだ。

「シェリルさん?」

「ひいぃ!?」

 シェリルは、後ろから肩を掴まれて短く悲鳴を上げる。

 それも無理からぬことで、肩を掴むのに合わせてシェリルを呼んだエメリンの声には、思わず震え上がってしまうような迫力があった。

「な、何でしょうか、エメリン様……」

「シェリルさん、あなたどうして持ち場を離れてこんなところにいるのかしら?」

「え? えーっとそれは……その……緊急事態だからで……」

「あなたの仕事は、緊急事態にマヤさんに助けを求めに来ることなのですか?」

 エメリンのその言葉は、明らかにシェリルではなくルーシェに向けられたものだった。

「だ、だって……お忍びで街で遊んで帰ろうとしたら、襲撃されてて、私がいなくてもうまく対応してたみたいだけど、何だか帰りづらくなっちゃって……」

「はあ、そんなことだろうと思いました。いいですか、ルーシェ様」

「うん、なあにエメリン……」

「ルーシェ様が襲撃中にのこのこ帰って来ても、配下の誰も怒ったりしません」

「エメリン……!」

「ルーシェ様が無茶苦茶なのはは以下全員がわかってますから」

「エメリン…………」

 とても悲しい信頼のされ方をしていたルーシェはガックリと肩を落とす。

 何はともあれ、マヤたちは襲撃を受けているというルーシェの城へと向かうことになったのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

外道魔法で異世界旅を〜女神の生まれ変わりを探しています〜

農民ヤズ―
ファンタジー
投稿は今回が初めてなので、内容はぐだぐだするかもしれないです。 今作は初めて小説を書くので実験的に三人称視点で書こうとしたものなので、おかしい所が多々あると思いますがお読みいただければ幸いです。 推奨:流し読みでのストーリー確認( 晶はある日車の運転中に事故にあって死んでしまった。 不慮の事故で死んでしまった晶は死後生まれ変わる機会を得るが、その為には女神の課す試練を乗り越えなければならない。だが試練は一筋縄ではいかなかった。 何度も試練をやり直し、遂には全てに試練をクリアする事ができ、生まれ変わることになった晶だが、紆余曲折を経て女神と共にそれぞれ異なる場所で異なる立場として生まれ変わりることになった。 だが生まれ変わってみれば『外道魔法』と忌避される他者の精神を操る事に特化したものしか魔法を使う事ができなかった。 生まれ変わった男は、その事を隠しながらも共に生まれ変わったはずの女神を探して無双していく

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

処理中です...