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第6巻第1章 ドラゴンの住まう山

龍の民の村

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「龍の民ではない女性と少年、ですか……そんな話は聞いていませんね」

「そうですか……」

 マヤはダンカンの案内でやってきた村長の家で、ステラとオスカーの手がかりがないか確認していた。

 しかしながら、少なくともこの村の住人は、ステラとオスカーを見ていないらしい。

「狩りに出かける者に、そのような2人組がいたら知らせるように伝えておきましょう」

「ありがとうございます」

 ひとまずステラとオスカーの捜索をこの村の人々も手伝ってくれるようで、マヤは一安心する。

「村長殿、この村はいつもこうにぎやかなのか? いや、活気があっていいとは思うんだが……」

「お兄、ちゃん、素直に、うるさい、って、言えば、いい、のに」

「こらカーサ! そういうことを直接言うんじゃない」

「どう、して? だって、お兄ちゃん、うるさいって、思ってる、でしょ?」

「それはそうだが……あっ! いやっ、これはその……」

「はははは、いいですよ別に。今この村が騒がしいのは事実ですからね」

 耳を澄ますまでもなく家の中まで聞こえてくる街の喧騒は、確かにキサラギ亜人王国などと比べると遥かにうるさいだろう。

 とはいえ、元々はもっとうるさい現代日本の町中で暮らしていたマヤからすれば、昼間であればこの程度のうるささは特に気にするものでもなったりする。

「今うるさい、ってことは、いつもはもっと静かなの?」

「ええ、いつもならこの時間は狩りにでかけたり畑仕事に行ったりで、聞こえるのは子供が遊ぶ声くらいです」

「じゃあなんで今はこんなにうるさいのだ? 祭でもあるのか」

 ちなみにマッシュはこういうときのために耳カバーを携帯しており、本当うるさいときはそれをつけて騒音をやり過ごしている。

 今もいつの間にやら耳カバーをつけていた。

「少し違うかもしれませんが、まあお祭りのようなものですね。4年に一度行われる、最強のドラゴン使いを決める大会が近々行われる予定なんです」

「最強のドラゴン使いを決める大会?」

「聞いたことがあります。四皇と呼ばれる4匹のドラゴンがそれぞれに治める村から代表を派遣し、ドラゴン使いとしての実力で優劣を競う大会があると」

「おや、外の方なのによくご存知ですね」

 スラスラと話すエスメラルダに、村長は関心した様子だ。

 そこらのメイドがそんなことまで知っているだろうか、と疑問に思うマヤだが、ひとまず追及は後にすることにする。

「恐縮です」

 スカートの前できれいに手を合わせてお辞儀するエスメラルダは、心なしか嬉しそうだった。

「それで、その準備のためにこの村も騒がしくなっている、と」

「まあそういうことです。ですからまだしばらくはうるさいかと思いますが、お許しください」

「いやいや、私達が突然来ただけだし、別に村長さんが気にすることじゃないよ」

「マヤ様は寛容でいらっしゃる」

「そういう敬語とかもいいから……」

 マヤは最初の自己紹介で、キサラギ亜人王国国王だと名乗ってしまったことを後悔し始めていた。

 その方が信用を得られると思っての行動だったが、いらぬ尊敬まで得られてしまったのは誤算だったのだ。

「それより、村の人たちがこんなに必死になる理由って何なの? なにかすごい景品がもらえるとか?」

「そうですね、なにせ龍帝様がご用意される景品ですから、毎回凄いものですよ。前回が大豪邸、その前が龍帝様の財宝一握、その前は――」

 その後も村長はあげていく過去の景品はどれもこれもびっくりするくらいの豪華さだった。

 だが、マヤが本当に驚いたのは、それらの豪華すぎる景品ではなかった。

「――――後は、優勝者の証である旗と、白銀の剣を次の大会まで持っておくことができます」

「ふーん、旗と白銀の剣、ありきたりな優勝者の証だね…………って、うん? ねえ村長さんが、優勝すると、景品の他に、旗と白銀の剣を次回大会までに持ってられるって言った?」

「ええ、そう言いましたが……それがどうかしましたか?」

 村長の言葉に、マヤはゴクリとつばを飲む。

「その白銀の剣だけどさ、なにか言伝えがあったりするのかな?」

「言い伝えですか? 確かあの剣は、その昔単身このゾグラス山に乗り込んできた剣士が持っていた剣だそうです。圧倒的強さでドラゴンもその頃はまだたくさんいたドラゴンライダーたちも、すべてを蹴散らし、最終的に龍帝様の一騎打ちを挑んだそうです」

「すごいねその人……」

(ほぼ確定かな、たぶん。その単身乗り込んできたっていう剣士が、最後の聖剣所持のオーガの王族だろうね)

「そして三日三晩続いた決闘により、剣士は龍帝様に負けました。その後龍帝様がその剣士の勇気を高く評価なさり、今では大会の優勝者に貸し出される仕組みになっている、と聞いています」

「なるほど」

(その龍帝ってのには気をつけておいたほうが良さそうだね)

 原初の魔王を倒すことができるほどの力を得ると言われている聖剣を手にした状態のオーガの王族が、全力で戦って勝てなかった相手なのだ。

 用心してしすぎることはないだろう。

「しかしマヤ、こうなると聖剣を手に入れるにはその大会で優勝しないといけないわけだが、どうするつもりだ?」

「おや、マヤ様たちはその白銀の剣をお求めなのですか?」

「まあね。ちょっと事情があってさ」

「それでしたら、みなさんもドラゴン使いとして参加すればよいのではないですか?」

「ドラゴン使いとして? そんなことできるの?」

「当然です。ドラゴン使いと言っても、特別な才能が必要なわけではありません。ただ、ドラゴンに主と認めてもらえれば、それで良いのです」

 村長が言うには、ドラゴン使いになれるかどうかは、相性のいい、自分を主と認めてくれるようなドラゴンが見つけられるかどうかだけらしい。

 そして大抵の場合、ゾグラス山にたくさんいるドラゴンの中には、1匹くらいは相性のいいドラゴンがいるということだった。

「自分で出るのか……確かにその方が手っ取り早くて良さそうだね」

「そうだな。その方が俺たちらしい」

「強い、人と、戦える、なら、私も、やって、みる」

「カーサよ、おそらくカーサ自身が戦うわけでは無いないと思うぞ?」

「そう、なの?」

 こうしてマヤたちは、最強のドラゴン使いを目指すことになったのだった。
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