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第5巻第7章 オーガの姫

ルーシェの条件

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「私に何の用でしょう?」

 玉座の間にたどり着いたマヤたちは、荘厳な雰囲気をまとったエルフの女性と対面していた。

 彼女の名は魔王ルーシェ。

 原初の魔王の1人である。

 先ほどまでマヤたちを案内していたシェリルと同一人物なのだが、服装はもちろん、雰囲気や香り、魔力に至るまですべてを変えているので、まず気がつくことはできないだろう。

 ルーシェとシェリルが同一人物だと知っているマヤでも、別人だと感じてしまうほどだ。

「はじめまして、ルーシェ様。今日はお願いがあって参りました」

 マヤは恭しくルーシェの前で膝をつくと、頭を垂れる。

「なんでしょう」

「そこにいるシャルルさんはオーガ最後の王族なのですが、魔王マルコス様に命を狙われているのです。どうにかしていただけないでしょうか?」

「マルコスがその少女を? それに、オーガの王族ですか……」

 ルーシェは片目を閉じるとシャルルの過去の全てを一瞬で確認する。

「なるほど、確かにそのようです。しかし、私にはどうすることもできません」

「どうしてですか?」

「原初の魔王は世界に干渉してはならないからです」

「じゃあ、シャルルさんを見殺しにするっていうの?」

「私にはそうすることしかできないのです、エリーさん」

「どうして私の名前を……」

「ルーシェ様は過去と現在のすべてをいつでも観測できるんだよ。だからさっきシャルルさんの事情も知ってたでしょ?」

「なるほど……恐ろしい方ね……」

「ルーシェ様、それなら交換条件ならどうでしょうか」

「交換条件、ですか?」

「はい。私達がルーシェ様の要望を聞くかわりに、ルーシェ様はマルコス様からシャルルさんを守って下さい」

 原初の魔王とて、全く世界干渉しないわけではない。

 もし全く干渉しないのであれば、そもそもシャルルがマルコスに狙われることにないはずだ。

「それなら問題ないでしょう。ですが、私の要求に応えられますか?」

「当然です。何でも言ってください」

 マヤは内容を聞く前に、自信満々で応じて見せる。

 未来の世界で突然建国しろと言われたことのあるマヤにしてみれば、何が来ようが大したことはないからだ。

「大した自信です。それでは……この件をお願いしましょう」

 ルーシェが空中に手をかざすと、何もないところから紙が現れる。

 そのままふわふわとマヤの前に飛んできたその紙を、マヤは手にとって内容に目を通した。

「オークの村の救済、ですか?」

「ええ、近頃オークが暮らす一帯に、魔物が大量発生しているのです。その結果、オークの各村はそれぞれ孤立しており、それに伴う飢饉で死者も出始めています」

「なるほど。わかりました、すぐに解決して来ます」

 マヤは依頼内容が書かれた紙を懐にしまうと、さっそく玉座の間を出ていってしまう。

「行ってしまいましたね……」

「まあマヤなら一人で大丈夫でしょ。それよりルーシェ様、私たちにもなにかできることはありませんか?」

「そうですね……それではエリーさんは私の手伝いをしてもらえますか?」

「手伝い、ですか?」

「ええ、実は腕の立つ魔法使いが必要でして。エリーさんなら実力も申し分ないでしょう」

「そんな、ルーシェ様に比べたら私なんて……」

「私と比べるのは流石に間違いですよ? それからサミュエルさん、あなたにはオズウェルのことを色々教えていただければと思います」

「構いませんが、ルーシェ様は全てが見えているのでしょう? 私が知っている程度のことはご存知なのでは?」

「いえ、そうでもありませんよ? 考えていることまではわかりませんしね」

「そういうことでしたら」

「私はどうすれば……」

「シャルルさんは守られるのが仕事ですから、私から離れないようにしてもらえればそれで」

「そ、そうですか……」

 何もしないというのも落ち着かないのだが、確かに今はシャルルが狙われているわけなので、ルーシェの言うことも最もだ。

 とはいえ、マヤがルーシェを未来に連れ帰るつもりだということを知らないシャルルからすれば、どうして今更原初の魔王であるルーシェに相談する必要があったのかも、いつまでルーシェに守られていればいいのかもわからないわけで……。

 シャルルがなんとも腑に落ちないのも仕方がないことだった。

「それじゃあ私達は城で働いている人たちの手伝いでもしていましょうか」

「そうですね。僕らにできるのは単純作業くらいですし」

 エメリスとハイメは頷き合うと、ルーシェの返事を待たずに玉座の間を出ていく。

「私だけただルーシェ様の近くにいればいいだけって言うのもなあ……」

 守られるだけというのは何だか性に合わず戸惑ってしまうシャルルなのだった。

***

強化ブースト!!!!」

 マヤは目の前に迫る魔物の群れに、自分の魔物をぶつけて対抗する。

「それもういっちょ! 強化ブースト!!」

 マヤは動きが止まった野生の魔物たちにも強化魔法をかける。

 敵を強化しているわけなので、普通なら自殺行為だが、マヤの場合はこれで全て解決してしまう。

「よーしよしよし、いい子だねえ」

 程なくしてマヤに向かって頭を下げるようになった魔物たちを、マヤわしゃわしゃとなで回す。

 こんな調子で配下の魔物増やしながら戦うこと4日間。

 マヤは30近くのオーガの村を魔物から救っていた。

「これでだいたい半分か……よーっし、頑張るよ、みんな!」

「「「「「「「「「わふっ!!!」」」」」」」」」

「わわっ、すごい音だね……」

 いつの間にやら視界に収まらないほどの数になっていた魔物たちの返事に、マヤは耳がキーンとなりながら笑う。

 この時マヤが白銀の毛皮の魔物を引き連れてオークの村々を救ったことで、後々「予言の聖女」の伝説が生まれるわけだが、マヤは知る由もないのだった。
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