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第5巻第1章 ヘンダーソン王国にて
魔王ステラ
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「これが魔王ステラのお城かあ」
屋敷を出て数日後、マヤはようやくたどり着いた城を見上げていた。
巨大すぎる樹と一体化しているルーシェの城と比べれば迫力に欠けるが、ステラの城も十分に大きかった。
「あの……」
門の前で城を見上げていたマヤたちに、控えめな感じで声をかけてくる人物がいた。
声の高さから女性かな、と思ってマヤが視線を下げると、そこには10歳になるかどうかといった年の頃の少年の姿があった。
「どうしたのかな、僕? 君も魔王ステラに用があるの?」
「い、いえ、そうではなくて……」
「マヤさん、この子制服みたいなの着てませんか?」
「制服? 言われてみれば確かにそんな感じするけど……」
オリガの言葉に改めて少年の服装を確認したマヤは、少年が衛兵が着るような制服に身を包んでいることに気がついた。
「もしかして、君はこのお城の衛兵さんなのかな?」
「はいっ! よかったあ……気がついてくれて……」
マヤの言葉に少年はほっと胸をなでおろすと、そのまま敬礼した。
「改めまして、僕はこのお城で門番をしている衛兵の1人です。失礼ですが、あなた方はなんの用でここに来られたのか教えてください」
「私はマヤ。キサラギ亜人王国っていう最近できた国の王様で、この前魔王にもなったんだけど、知ってるかな?」
「ええっ!? 魔王様だったんですか!? ど、どどど、どうしよう!? 僕もしかして今すぐ殺されちゃうんじゃ!?」
マヤの自己紹介を聞いて腰を抜かして震え始めてしまった少年に、マヤは思わず苦笑する。
「あはは……別に殺したりなんてしないって。それより、ちょっと急用で魔王ステラに会いたいんだけど、できるかな?」
「ステラ様に、ですか? ちょっと待ってください……」
少年はなんとか立ち上がると、まだ震える足で門の脇にある小さいドアから城内に入っていった。
少年衛兵が城内に消えた数分後、マヤは城の上部から何かが飛び出して来るのが見えた。
その何かは、マヤたちのいる方へと飛んできており、その姿はどんどん大きくなっていく。
よく見ると、その何かはヤギのような巻角が生えた女性と、その女性に抱えられた子供だった。
「よくも私のかわいいかわいい衛兵ちゃんを泣かしたわねえええええ!」
それは先程の衛兵を抱えて飛んできたステラだった。
ものすごい剣幕でマヤを怒鳴りつけながら、ステラは轟音とともにマヤの目の前へと着地する。
相変わらず大きく胸元の開いたドレスを着ているステラは、その胸に頭が当たる形で先程の少年衛兵を抱っこしていた。
結果として直接ステラの豊かな胸に顔を押し付ける形となっている少年衛兵は、耳まで顔を赤くしている。
「私は名乗っただけなんだけど?」
「そんなことどうでもいいのよ! 魔王マヤ、あなたが私のかわいこちゃんを泣かせた事が重要なの!」
「えー……それはさすがの理不尽じゃないかな?」
「理不尽じゃないわよ! ほら、さっさとこの子に謝って!」
「はあ……わかったよ。でもその前に、いい加減その子おろしてあげたら? 刺激が強すぎて気絶しちゃいそうだよ?」
マヤが指差す先では、ステラの胸に挟まれた少年衛兵が、真っ赤になって目を回していた。
「きゃっ! 大丈夫!?」
ステラは慌てて少年衛兵を開放すると、地面に横たわらせる。
「私が見ておきましょうか?」
「え? あ、うん……ありがと……」
自然に少年衛兵の介抱を始めたオリガに、ステラ思わず任せてしまう。
気勢を削がれたステラは、仕切り直すように1つ咳払いした。
「それで、魔王マヤが私に何の用なの?」
「実は、ちょっと助けてほしいことがあってさ」
マヤはジョンの肩に手を置くと、そのままステラの前まで連れてきた。
「マヤさん、この人が魔王様なのか?」
「うん、この人が魔王ステ――」
「きゃああ! なになになに!? 何この子!? めちゃくちゃ可愛いじゃない! あー、はいはいはい、そういうことね。マヤ、あなたわかってるじゃない!」
突然奇声を発してジョンと目線を合わせるようにしゃがみこんだステラは、その顔を色々な方向から眺めてうんうんと頷いた。
「えーっと、何が?」
「つまりマヤはこの子を私に差し出すかわりに、何か私に頼みたいことがあるってことでしょう?」
「え? なんでそういう話に……」
「あら? 違うのかしら?」
首を傾げるマヤに対し、ステラも同じく首を傾げる。
何かが噛み合わない2人に、少年衛兵を介抱していたオリガが助け舟を出した。
「マヤさん、ステラ様はその……少年好きで有名な方でして、その……頼み事をするときは男の子を献上するのが良いとされているそうなんです」
「ええー」
オリガの説明に、マヤは思わず冷ややかな視線をステラへと向ける。
要するにこの美人でちょっとエッチな魔王様は、重度のショタコンというわけだ。
「そうよ、流石はルーシェのところで副官をしてたエメリンの娘ね。それでマヤ、この子はもらっていいのよね?」
「いやいやいや、普通にだめだから。そもそも今の話の流れ的に、私がステラへのお願い事があるときは男の子を献上しないといけない、って今初めて知ったのわかったでしょ? そんな私が献上する用の男の子なんて連れて来てるわけ無いじゃん?」
「なーんだ、かわいい子だからこの子を近くにおけるなら、どんなお願いでも聞いてあげようと思ったのに」
ステラがジョンから離れると、すかさずクロエがジョンを後ろから、抱きしめる。
「ちょ、ちょっとクロ姉!」
恥ずかしがるジョンを無視して、クロエはギュッとジョンを抱きしめていた。
「でも、その子が貰えないんじゃ、衛兵ちゃんを泣かしたマヤのお願いなんて聞いてあげる気ないわよ?」
途端に興味を失った様子のステラは、オリガから少年衛兵を引き取り、早々に踵を返してしまう。
「ステラ様、ちょっと待ってください」
「何かしら、オリガ」
立ち止まったステラに、オリガは近づいて行くと、その耳元で何かを囁いた。
瞬間、ステラの顔が真っ赤になったことが、後ろから見えている耳だけからでも十分わかった。
そのままその場で何度か深呼吸して、なんとか落ち着いたステラは、再び踵を返すと、すたすたとマヤの目の前まで戻ってきた。
「ほら、何してるの、早く行くわよ?」
「行くって、どこに?」
「決まってるじゃない、私の城の中に、よ。頼み事があるんでしょ?」
「聞いてくれるの?」
「とりあえず聞くだけよ、私にどうこうできるとは限らないわ。私、ルーシェやマルコスみたいに万能じゃないだからね?」
「とりあえず聞いてもらえるだけで十分だよ! よっし、みんな行くよ!」
ステラに続いて城の中へと歩き出したマヤに、一行はぞろぞろとついて行く。
「なあマッシュ殿」
「なんだ、ウォーレン殿」
「オリガは何を言ったのだ?」
「あー……その、だな、うん。ウォーレン殿の身の安全のためにも、知らないほうがいいと思うぞ?」
そう言って身震いするマッシュに、ウォーレンはますますオリガが何を言って魔王ステラの気を変えさせたのか気になってしまうのだった。
屋敷を出て数日後、マヤはようやくたどり着いた城を見上げていた。
巨大すぎる樹と一体化しているルーシェの城と比べれば迫力に欠けるが、ステラの城も十分に大きかった。
「あの……」
門の前で城を見上げていたマヤたちに、控えめな感じで声をかけてくる人物がいた。
声の高さから女性かな、と思ってマヤが視線を下げると、そこには10歳になるかどうかといった年の頃の少年の姿があった。
「どうしたのかな、僕? 君も魔王ステラに用があるの?」
「い、いえ、そうではなくて……」
「マヤさん、この子制服みたいなの着てませんか?」
「制服? 言われてみれば確かにそんな感じするけど……」
オリガの言葉に改めて少年の服装を確認したマヤは、少年が衛兵が着るような制服に身を包んでいることに気がついた。
「もしかして、君はこのお城の衛兵さんなのかな?」
「はいっ! よかったあ……気がついてくれて……」
マヤの言葉に少年はほっと胸をなでおろすと、そのまま敬礼した。
「改めまして、僕はこのお城で門番をしている衛兵の1人です。失礼ですが、あなた方はなんの用でここに来られたのか教えてください」
「私はマヤ。キサラギ亜人王国っていう最近できた国の王様で、この前魔王にもなったんだけど、知ってるかな?」
「ええっ!? 魔王様だったんですか!? ど、どどど、どうしよう!? 僕もしかして今すぐ殺されちゃうんじゃ!?」
マヤの自己紹介を聞いて腰を抜かして震え始めてしまった少年に、マヤは思わず苦笑する。
「あはは……別に殺したりなんてしないって。それより、ちょっと急用で魔王ステラに会いたいんだけど、できるかな?」
「ステラ様に、ですか? ちょっと待ってください……」
少年はなんとか立ち上がると、まだ震える足で門の脇にある小さいドアから城内に入っていった。
少年衛兵が城内に消えた数分後、マヤは城の上部から何かが飛び出して来るのが見えた。
その何かは、マヤたちのいる方へと飛んできており、その姿はどんどん大きくなっていく。
よく見ると、その何かはヤギのような巻角が生えた女性と、その女性に抱えられた子供だった。
「よくも私のかわいいかわいい衛兵ちゃんを泣かしたわねえええええ!」
それは先程の衛兵を抱えて飛んできたステラだった。
ものすごい剣幕でマヤを怒鳴りつけながら、ステラは轟音とともにマヤの目の前へと着地する。
相変わらず大きく胸元の開いたドレスを着ているステラは、その胸に頭が当たる形で先程の少年衛兵を抱っこしていた。
結果として直接ステラの豊かな胸に顔を押し付ける形となっている少年衛兵は、耳まで顔を赤くしている。
「私は名乗っただけなんだけど?」
「そんなことどうでもいいのよ! 魔王マヤ、あなたが私のかわいこちゃんを泣かせた事が重要なの!」
「えー……それはさすがの理不尽じゃないかな?」
「理不尽じゃないわよ! ほら、さっさとこの子に謝って!」
「はあ……わかったよ。でもその前に、いい加減その子おろしてあげたら? 刺激が強すぎて気絶しちゃいそうだよ?」
マヤが指差す先では、ステラの胸に挟まれた少年衛兵が、真っ赤になって目を回していた。
「きゃっ! 大丈夫!?」
ステラは慌てて少年衛兵を開放すると、地面に横たわらせる。
「私が見ておきましょうか?」
「え? あ、うん……ありがと……」
自然に少年衛兵の介抱を始めたオリガに、ステラ思わず任せてしまう。
気勢を削がれたステラは、仕切り直すように1つ咳払いした。
「それで、魔王マヤが私に何の用なの?」
「実は、ちょっと助けてほしいことがあってさ」
マヤはジョンの肩に手を置くと、そのままステラの前まで連れてきた。
「マヤさん、この人が魔王様なのか?」
「うん、この人が魔王ステ――」
「きゃああ! なになになに!? 何この子!? めちゃくちゃ可愛いじゃない! あー、はいはいはい、そういうことね。マヤ、あなたわかってるじゃない!」
突然奇声を発してジョンと目線を合わせるようにしゃがみこんだステラは、その顔を色々な方向から眺めてうんうんと頷いた。
「えーっと、何が?」
「つまりマヤはこの子を私に差し出すかわりに、何か私に頼みたいことがあるってことでしょう?」
「え? なんでそういう話に……」
「あら? 違うのかしら?」
首を傾げるマヤに対し、ステラも同じく首を傾げる。
何かが噛み合わない2人に、少年衛兵を介抱していたオリガが助け舟を出した。
「マヤさん、ステラ様はその……少年好きで有名な方でして、その……頼み事をするときは男の子を献上するのが良いとされているそうなんです」
「ええー」
オリガの説明に、マヤは思わず冷ややかな視線をステラへと向ける。
要するにこの美人でちょっとエッチな魔王様は、重度のショタコンというわけだ。
「そうよ、流石はルーシェのところで副官をしてたエメリンの娘ね。それでマヤ、この子はもらっていいのよね?」
「いやいやいや、普通にだめだから。そもそも今の話の流れ的に、私がステラへのお願い事があるときは男の子を献上しないといけない、って今初めて知ったのわかったでしょ? そんな私が献上する用の男の子なんて連れて来てるわけ無いじゃん?」
「なーんだ、かわいい子だからこの子を近くにおけるなら、どんなお願いでも聞いてあげようと思ったのに」
ステラがジョンから離れると、すかさずクロエがジョンを後ろから、抱きしめる。
「ちょ、ちょっとクロ姉!」
恥ずかしがるジョンを無視して、クロエはギュッとジョンを抱きしめていた。
「でも、その子が貰えないんじゃ、衛兵ちゃんを泣かしたマヤのお願いなんて聞いてあげる気ないわよ?」
途端に興味を失った様子のステラは、オリガから少年衛兵を引き取り、早々に踵を返してしまう。
「ステラ様、ちょっと待ってください」
「何かしら、オリガ」
立ち止まったステラに、オリガは近づいて行くと、その耳元で何かを囁いた。
瞬間、ステラの顔が真っ赤になったことが、後ろから見えている耳だけからでも十分わかった。
そのままその場で何度か深呼吸して、なんとか落ち着いたステラは、再び踵を返すと、すたすたとマヤの目の前まで戻ってきた。
「ほら、何してるの、早く行くわよ?」
「行くって、どこに?」
「決まってるじゃない、私の城の中に、よ。頼み事があるんでしょ?」
「聞いてくれるの?」
「とりあえず聞くだけよ、私にどうこうできるとは限らないわ。私、ルーシェやマルコスみたいに万能じゃないだからね?」
「とりあえず聞いてもらえるだけで十分だよ! よっし、みんな行くよ!」
ステラに続いて城の中へと歩き出したマヤに、一行はぞろぞろとついて行く。
「なあマッシュ殿」
「なんだ、ウォーレン殿」
「オリガは何を言ったのだ?」
「あー……その、だな、うん。ウォーレン殿の身の安全のためにも、知らないほうがいいと思うぞ?」
そう言って身震いするマッシュに、ウォーレンはますますオリガが何を言って魔王ステラの気を変えさせたのか気になってしまうのだった。
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