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第4巻第4章 初代剣聖

カーリの実力

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「ほう……」

 最初の激突から数合の鍔迫り合いを経て、カーリは感嘆の声を上げた。

「貴様、本当にウォーレンか?」

「正真正銘俺がウォーレンだとも。あれだけ長く俺に取り憑いておいて、まさか初代剣聖ともあろう者が見間違えるわけあるまい?」

「それもそうだな……」

 カーリはウォーレンの言葉に、思わず自分の手を見下ろした。

 剣を握る手が微かに震えているのを見て、カーリはわずかに口角を上げる。

(あいつにあそこまでの力はなかったはずだが、一体どういうからくりだ?)

 ウォーレンに再び剣を向けたカーリは、心底楽しそうに笑う。

「いいぞ、ウォーレン! よもやお前がこれほどの剣士になるとはな!」

 一瞬のうちに距離を詰めて放たれる斬撃を、ウォーレンは難なく受け止める。

「それなら、俺の体に戻ってきたらどうだ?」

「なに?」

 鍔迫り合いの最中、ウォーレンの言葉にカーリは思わず問い返す。

「俺がカーサを超える剣士なら、再び俺に取り付けば良いと言っているのだ」

「貴様それは一体……いや、そういうことか」

 カーリはようやっとウォーレンの意図が読めたのか、得心がいった様子で頷いた。

「貴様、妹のために再び我を受け入れようと言うのだな?」

「…………」

 改めて「初代剣聖を受け入れるのか」と確認されたウォーレンは、目を伏せて沈黙する。

「沈黙は肯定とみなすぞ?」

「……そうだ、俺がお前を受け入れる。そのために、俺は強くなったのだ!」

 顔を上げ、カーリの目を真っ直ぐに見つめ、ウォーレンははっきりとそう告げた。

 覚悟を示したウォーレンに、カーリは1つ頷くと、大きく剣を振り抜いてウォーレンと距離をとる。

 そして剣をしまうとやれやれと頭を振った。

 その様子に、ウォーレンは思わず動きを止めてしまう。

「お前の覚悟は認めるが、ウォーレン、お前は1つ大きな勘違いをしている」

「どういうことだ?」

「確かに、我は最も強いオークに取り憑き、我の目的を達するための力を得ることを望んでいる」

「目的だと?」

 カーリにも強くなる以外に目的があったのだという初めて聞く事実に、思わず尋ねたウォーレンをカーリはしまったという様子で見返す。

 どうやらその部分について話すつもりはなかったらしい。

「……それについて貴様らに教えるつもりはない。ともかく、我は貴様の予想通り、最も強いオークに取り憑くのだ。しかしな、重要なのは今の力ではない」

「今の力じゃない……ってことは、才能とかそういうこと?」

「その通りだ、魔王マヤ。私は初め、このウォーレンが最も才ある者と見込んで取り憑いた、しかし……」

 その後に続く言葉は、ウォーレンが誰よりもよくわかっていることだった。

「すぐにカーサの方が才があることがわかった、というわけか」

「然り。ただし、我の力も無尽蔵ではない。所詮はただの意識体だ。そう何度も別の者に取り憑き直していては、すぐに消えてしまう」

 そこでカーリは、ウォーレンを指さした。

「だから貴様の中で再び取り憑く相手を見定めていた。そして十分力が回復したのを見計らい、カーサに取り憑いた」

「それでは俺の努力は……」

「ああ、お前の目的のためには無駄だっただろうな」

 ウォーレンが剣神のところで修行していたのは、ウォーレンが最強のオークであり続けることで、カーサに初代剣聖が取り憑いてしまうのを防ぐためだ。

 しかし、初代剣聖が取り憑く条件が、生まれ持っての才能のみを基準にしているのであれば、ウォーレンの努力はなんの意味もない。

「しかし、我の力を回復するのには大いに役立ったぞ? 我の力の源は剣を振るうことだからな」

「そんな……」

 自らの行為がむしろ初代剣聖を手助けしてしまっていたという事実に、ウォーレンは絶望を滲ませる。

 その手に握った剣も、ウォーレンの絶望を示すように、切っ先を地面へとつけてしまった。

「そうだ、もしかするとこちらも勘違いしているかもしれんな?」

 その瞬間、カーリの姿が完全に消えた。

 刹那の後響き渡った轟音にマヤが音の方向に視線をやると、完全に戦意を喪失したと思われるウォーレンへカーリが踵落としを入れたところだった。

 地面に叩きつけられたウォーレンの前に、カーリが軽やかに着地する。

「我は取り憑いた者の潜在能力を最大限に引き出すことができる。もちろん、お前のように我を全力で拒絶するような奴に取り憑いていてはそれも難しいが」

 その点カーサは素直で騙しやすくて助かった、とカーリはクツクツと笑った。

 そんなカーリの様子を見ながらマヤは、自身への強化魔法をかけている状態にも関わらず、一瞬完全にカーリを見失ったことに内心焦っていた。

(まだ私への強化魔法は強くできるけど、それにしたって完全に見失うとは思ってなかったなあ……ちょっとまずいかも?)

 マヤは焦りを表に出すことはせず、冷静に自分にかけている強化魔法を迷わず最大にしてかけ直す。

 一瞬淡い光に包まれたマヤが、カーリにも捉えられない程の速度で、ウォーレンとカーリの間に身を差し込んだ。

「なんのつもりだ?」

「もう勝負はついたでしょ?」

「ははっ、貴様はバカか? 殺すまでが勝負だろうに」

「やっぱりあなたはそうなんだね……。でも、カーサにお兄さんを殺させるわけにはいかないかなっ!」

 マヤは腰の剣に手をやると、居合の要領で抜刀とともにカーリを斬りつけた。

 放たれた衝撃波がカーリの後ろの木に傷をつけるが、その攻撃を真正面から受けたはずのカーリは、全てを剣でいなして無傷だった。

「面白い。剣士としてはまだまだ荒削りだが、流石は魔王といったところか、威力だけは凄まじいな」

「そりゃどうも。でもごめんだけど、今は一旦引かせてもらうよ」

「させると思うのか?」

「くっ! 強化ブースト! シロちゃん!」

 強化魔法を最大にしてもギリギリ目で追えるかどうかという速度で、マヤへと迫るカーリに、マヤは最大強化したシロちゃんに足止めを頼む。

「わふっ!」

「魔物ごときに何ができる!」

 シロちゃんを侮って斬り捨てようとしたカーリは、その斬撃をシロちゃんの防御魔法に受け止められて目を見張った。

「魔物ごときに、とは舐められたものなのです」

「ほう、なかなかやる。だが」

 カーリの斬撃を受け止めたシロちゃんの防御魔法だが、それはカーリが防御魔法を予想できていなかったからだ。

 カーリが防御魔法ごと斬ろうとすれば簡単に斬られてしまうため、時間稼ぎにしかならない。

「マスター、もうだめなのです!」

「わかってる! 戻っていいよ!」

 マヤはどこからともなく現れた純白のドアに転がり込むと、シロちゃんを腕輪の中に戻して勢いよくドアを閉めた。

「待てっ!」

 カーリが閉まったドアへと突っ込むが、その体が触れる前にドアは忽然と姿を消したのだった。
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