上 下
133 / 324
第4巻第1章 魔王会議

剣神VSマヤ

しおりを挟む
 円卓とその後ろに控える従者を入れてもまだまだ余裕のある明らかに不要というほかないほど広い部屋と、見上げて初めて視界に入るほど高い天井によって形作られる広大な空間に、マルコスの声が響く。

「久々の再開を嬉しく思う。前回から1名欠員が出たことは悲しいことだが、残りの皆が壮健で何よりだ」

「おいおいマルコス、そんな固っ苦しい挨拶はなしにしようぜ? どうせお互いにずっと監視しあってんだ、元気なことくらいわかってただろ? さっさと本題に入っちまえって」

 セシリオはマヤに視線を投げる。

「セシリオ、これは魔王会議の伝統だ。お前も原初の魔王の端くれなら邪魔をするな」

「へいへい、わかりましたよおじい様」

 マルコスの重苦しい声に、セシリオはひらひらと手を振って引き下がった。

「お前というやつは……。まあいいだろう、セシリオの言うことも一理ある。今回集まってもらったのはほかでもない。そこの少女がベルフェゴールを殺したことによる魔王の欠員の件だ」

 マルコスの言葉で一同の視線が一斉にマヤへと集中する。

 魔王5人とそれぞれの5人ほどの従者の視線にさらされ、マヤは居心地が悪くなる。

「ベルフェゴールは決して弱くはなかったはずだが……それがこの少女にな」

 マヤの隣に座る老齢の男性が今まで閉じていた目をかすかに開いてマヤを見やる。

 マヤはそれだけで背筋に冷や汗が流れる。

「剣神さん、あまりマヤをいじめないで下さい」

 マヤの隣の老人をルーシェが剣神と呼んだ瞬間、マヤの後ろに控えていたカーサの眉がわずかに動いた。

「おや、ルーシェ殿はこいつの味方ですかな?」

「この場でマヤに肩入れする気はありませんよ。ですが、マヤは私のお友達ですから」

 ルーシェの言葉に反応したのは、マヤの老人と反対隣に座っていた大きく胸元の開いたドレスに身を包んだ妙齢の女性だった。

「まあ! ルーシェにお友達なんて珍しい! 精神支配でもしてるんじゃないの?」

 頭にヤギのような巻き角があるので、おそらく悪魔なのだろう。

「あら、ステラちゃんったら酷いですね。私はステラちゃんのこともお友達だと思っていたのですが」

「誰が友達よ、この年増女! あんたなんかさっさと隠居しちゃえばいいのよ」

「いつからそんな口汚くなったんです? 昔はルーシェお姉ちゃんルーシェお姉ちゃんと私の後ろをついてきてくれていたのに……」

「いつの話よ!?」

「ははっ、俺がガキの頃よりは最近だろ? 俺も覚えてるぜ、ステラちゃん?」

「セシリオまで! 今の私はもう立派な魔王なの! いつまでも子供扱いしないでほしいわ!」

 ステラと呼ばれた悪魔は、勢いよく座るとそっぽを向いてしまう。

「ルーシェ、セシリオ、ステラをいじめるのはそれくらいにしろ、話が進まん」

「はい」

「へーい」

「それで、マヤとやら、貴様が我らが同胞ベルフェゴールを殺したのは事実か?」

 マルコスとしては特に何をしたわけでもないのだろうが、マヤは質問されただけで身体が重くなるのを感じた。

 マヤが一瞬顔をしかめたのを見逃さなかったルーシェがパチンッと指を鳴らすと、マヤはマルコスの重圧から開放される。

「マルコス、まだマヤは一般人です。少しは魔力を抑えたらどうです?」

「これから魔王になる者にそのような配慮は不要と思ったが……まあいい、マヤよ質問に答えてもらおう」

「事実だよ。もう火葬しちゃったから首とかは持ってないけどね」

「そうか。それでは私は貴様を新たな魔王として推薦する。異論のある者は?」

 マルコスは円卓をぐるりと見渡す。

 しばらくして、先ほど剣神と呼ばれた老人が手を上げた。

「いいだろうか」

「なんだデリック」

「ベルフェゴールは先程も申したように、決して弱いわけではなかった。しかし、魔王でなくとも場合によっては倒せない相手ではない、程度の強さであったことは事実だ」

「何が言いたいんだよデリック?」

 相変わらず軽い調子のセシリオが、デリックの言わんとしていることがわかっていながらあえてそんな質問をする。

「そうだな、単刀直入に言おう、マヤは私よりも強いのか?」

「マヤの実力を疑うのですか?」

「ルーシェ、あなたの言葉を疑うわけではありませんが、この目で確かめねば納得できない性分でしてな」

「戦ってみればいいんじゃない? それで死んだらその程度のやつだったってことでしょ?」

 いつの間に取り出したのか、やすりで爪を磨きながらステラがとんでもないことを言う。

「いいこと言うじゃねえかステラちゃん。おっし、じゃあ俺が一肌脱ごうじゃねーか」

「わわっ!?」

 マヤの同意どころか剣神デリックの同意も得ないままステラの提案に乗っかったセシリオによって、マヤとデリックは何もない空間へと転移させられる。

 一瞬で目の前の景色が変わったマヤはキョロキョロと当たりを見回す。

 マヤが同じ空間にデリックしかいないことを確認した頃、頭上からマルコスの声が聞こえた。

「セシリオ、どういうつもりだ?」

「なに、ここで戦ってもらうわけにはいかんだろ? だから適当に作った空間に飛ばした」

 こともなげに空間を作ったなどと言うセシリオに、マルコスはため息をつく。

「そういうことを聞いているのではない……ルーシェ、あのマヤとやらは大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫じゃないですか? デリックにやられるほど弱くないと思いますよ?」

「ちょっ!? ルーシェ! そこは止めてよ!」

 マヤの叫びはどうやらルーシェには届いていないようで、ルーシェから返事はなかった。

 円卓がある部屋とこの空間の声の伝達が、円卓の部屋からこの空間への一方通行なのか、ルーシェが無視しただけなのかは分からないが。

「そうか、そういうことならいいだろう。デリック、好きにやっていいぞ」

 マルコスのその言葉で、2人の戦闘が始まった。

(はやっ! なにこれ? えっ?)

 マヤは早速仕掛けて来たデリックの動きを見て驚愕する。

 今のマヤは自身に強化魔法をかけている状態で、思考速度も大幅に強化されている。

 そのため並の相手なら簡単に動きを見切ることができるのだが、デリックは強化状態のマヤが見ても捉えるのがやっとなほど速かった。

(落ち着け私……。デリックとか言う人は剣を抜いてないから、たぶん抜刀術みたいな剣技を使うはず……だったら直前でかわすのはほとんど無理だから)

 マヤはなんとか思考を巡らせ打開策を考える。

 だが、高速で思考できているはずのマヤから見ても速く動くデリックは、もうすぐそこまで迫っていた。

「仕方ない! 強化ブースト!」

 マヤは最大出力で自分へと強化魔法をかけると、そのまま向かってくるデリックへと突っ込んだ。

「愚かな」

 マヤがデリックの間合いに入った瞬間、デリックの剣撃が、未だ強化魔法の光の粒子を吸収し続けているマヤを襲う。

 狙い過たずマヤの首へと迫った剣閃に、しかして絶体絶命のはずのマヤの口元には笑みが浮かんでいた。

「っ!?」

「私の勝ちだね」

 自らの腕でデリックの剣を受け止めたマヤは、もう片方の手で作った手刀をデリックの首筋に当て、苦痛に少し顔を歪めながらも不敵に笑ってみせたのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...