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第3巻第1章 ドワーフの内情

密輸入品を売る

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「いやー、すごい量持って来てくれたねー」

 ブランに手紙を出してから3日後、マヤの目の前には、SAMASサマスの隊員が持ってきてくれた農作物が、マヤたち3人が泊まっている宿の部屋に所狭し並べられていた。

「まだほんの一部ですよ。最低限身体強化と防御魔法が使えるだけの魔力以外は持物インベントリに回して持てるだけ持って来ましたから」

 ベッドの上まで使って置けるだけ置いたにも関わらず、それでもまだごく一部だということに、マヤはエルフの魔力量の多さを改めて実感した。

(これだけたくさんのものを運べるなら、もしかしてうちの国って運送業をやったら最強なんじゃ……)

「おいマヤ、何をボーッとしているのだ? 早くお前の収納袋にしまってやらんと、こいつも困っているぞ?」

「ごめんごめん、それじゃあ私どんどんしまっていくから、お兄さんは空いたところにどんどん出してくれるかな?」

「了解です、陛下」

 それから30分ほどかかって、マヤはすべての農作物をSAMASサマスの隊員から受け取った。

「遠いところありがとね。もしかしたらまたお願いするかもしれないから、そのときはよろしくね」

「とんでもないです! 陛下から直々のご命令とあらば喜んで」

「あはは、そんなに畏まらなくていいってば。帰ったらゆっくり休んでね。なんならちょっと休んでいってもいいんだよ?」

「いえ! すぐ帰還するように隊長から指示を受けておりますので、私はこれにて失礼させていただきます」

「そう? じゃあまたね。ファムランドにもよろしく」

「了解です! 失礼します!」

 SAMASサマスの隊員は、直立不動で挨拶すると、そのまま回れ右して部屋を出ていった。

「さて、これで農作物は準備完了だね。マッシュ、市場の場所はどうかな? 使えそうなところあった?」

「ああ、どうやらここ数日で里の上層部に申請せずに作られた市場がいくつかできているらしい」

 どうやら、ものがなくなったことで、いわゆる闇市が発生しているらしい。

 キサラギ亜人王国で同じようなことが起きたとすれば喜ばしくないが、今回この里で闇市ができたことはマヤたちにとっては好都合だった。

「それは助かるね。それじゃあその闇市で勝手にお店を開かせてもらおう」

 マヤは農作物が大量に入った収納袋を持つと、マッシュの案内で闇市へと向かったのだった。

***

「さあさあいらっしゃいらっしゃい! 安いよ安いよー!」

 闇市にやってきたマヤは、敷物を広げると、さっそく農作物を取り出して並べた。

 八百屋よろしくお決まりの文句をマヤが大きな声で言った途端、マヤたちが店を広げていた通りの客がマヤの前に殺到する。

「なあ嬢ちゃん、この値段、嘘じゃねーだろうな!?」

「ちょっと、買わないならどいてくれないかしら!? 店主さん、この小麦粉全部欲しいのだけど!?」

「おいこのあま! 一人で全部買う気か!? ふざけてんじゃねーぞ!?」

 マヤが十分利益を含めてつけた値段でも、今のこの里の人々からすれば安すぎたらしい。

 血走った目でマヤに紙幣や硬貨を差し出す人々を、マヤはなんとかなだめようとする。

「ちょっと皆さん、落ち着いて、ね? まだまだたくさんあるからさ、あーもうそこ! 勝手に手に取らないでー!」

 ついには商品を手に取りお金を置いて立ち去ろうとする者まで現れ、収拾がつかなくなっていく。
 
「マヤさん、困って、る?」

「うん、困ってるね!?」

「どうにか、しよう、か?」

「できるなら今すぐやってー!?」

「わかった」

 マヤの返事を聞いたカーサは、目にも留まらぬ早業で背中を剣を抜くと、勝手に商品を手に取っていたドワーフの首に切っ先を突きつける。

「マヤさん、困って、る、落ち着か、ないと、首、落ちちゃう、よ?」

「ひっ!」

 真顔で恐ろしいことを言うカーサに、マヤに詰め寄って騒いでいたドワーフたちは水を打ったように静まり返る。

「うん、静か、に、落ち、着いて、ね?」

 無表情ながらもわずかに微笑んで、いつもどおりゆっくりと語りかけるカーサに、ドワーフたちは冷や汗を浮かべながらコクコクとうなずく。

「あははは……ごめんね、うちの子が……。それじゃあ、みんな1列に並んでくれるかな? 十分あるから安心して並んで。でも、全部くれっていうのはなしだよ?」

 先ほどのカーサがよほど怖かったのか、ドワーフたちは先ほどの混乱が嘘のように大人しく、静かに、揉めることなく、1列に整列した。

「うんうん、ありがとね。それじゃ、最初の人どうぞー」

 それからは、なんの問題もなく進んでいった。

 途切れるどころかどんどんと長くなっていく列に、マヤたちは交代で農作物を売り続け、最後の一人になった頃にはすっかり日が沈んでしまっていた。

「いやー、まさか半分以上なくなるとは」

「恐ろしい売れ行きだったな。それだけものが不足してるんだろうが」

「うん、みんな、必死、だった、ね」

「だよねー。カーサが止めてなかったら――あっ!」

 マヤが商品をしまっていると、小さな影が横切って果物が2つなくなっていた。

「子供、だね。泥棒、よくない、捕まえる?」

「うーん、わざわざ盗むってことは訳ありっぽいよね……。マッシュ、追っかけて様子だけ見てきてくれる?」

「取り戻さなくていいのか?」

「それはマッシュに任せるよ。「へへっ、あの店ちょろいぜー。またパクってやろうかな、ははっ」みたいなゲスな子供なら取り返して引きずってきてもいいよ」

「了解だ」

 マッシュが暗闇に消えると、片付けをしているマヤをカーサが後ろから抱きしめてきた。

「カーサ? どうしたの、突然」

「あの、ね、私、マヤさんが、王様で、良かった、って、思う、よ」

「そうかな? もっと優秀な人もいたと思うけど?」

「ううん、それでも、マヤさんが、王様の、方が、いい」

「嬉しいこと言ってくれるね。でもどうして急にそんなこと言い出したの?」

「うーん…………なんと、なく?」

 本当はなんとなくなどではなく、マヤがさっきの泥棒の子供をすぐに咎めなかったから、カーサはマヤが自分の主で良かったと思ったのだ。

 しかし、それを伝えるのはなんとなく恥ずかしかったので、カーサは誤魔化した。

「なにさそれー。ほら、さっさと片付けて宿に戻ろ? カーサも手伝って」

「うん、わかった」

 マヤとカーサは協力して全ての商品と敷物をしまい、宿へと帰ったのだった。
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