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第2巻第3章 キサラギ亜人王国戦争

オリガとカーサの力

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「まさか、ここまでは強えとはな……」

 ファムランドは目の前でバニスター兵を次々と無力化していくオリガとカーサを見て、呆然とつぶやいていた。

 妖精の杖を装備したバニスター兵は、貴重な装備を渡されているだけあって、実戦経験豊富な精鋭が多く、訓練を積んだとはいえまだまだ実戦経験が足りないSAMASサマスの隊員が1対1では厳しい戦いを強いられるくらいには強い。

 しかしながら、オリガとカーサはそんな精鋭たちを複数相手にして余裕を持って戦っているのだ。

「この! 水銃ウォーターバレット!」

「だから、その程度の魔法は効きませんって言ってるじゃないですか」

 バニスター兵が妖精の杖で発動した魔法の水弾を、オリガが常時発動している防御魔法で難なく防ぐ。

「防御魔法を発動しっぱなしなのに、2個も3個も他の魔法を使うような化け物相手にどう戦えってんだ」

「ひどいですねー。そんな外道を武器を使っている人に化け物とか言われたくないんですけど?」

 身体強化を発動し、バニスター兵が防御魔法を発動するより早くバニスター兵に肉薄したオリガが、トンッとその胸に触れる。

「な、にを……っ!?」

「あなたの体内の魔力をギリギリまで奪わせてもらいました。これでしばらくは動けないでしょう」

 オリガが言い切る前に、バニスター兵の体から力が抜け、オリガに覆いかぶさるように倒れて来る。

「って、もう聞こえてませんか。こんなものを平気で使うような人間、本当なら殺してしまいたいんですが、マヤさんのお願いですから、生かしておいてあげます。うちの優しい王様に感謝して下さいね」

 オリガは渋々バニスター兵を受け止めると、ゆっくりと地面におろした。

「かわいそうに……何をされたらこんなことになってしまうんでしょうね……」

 妖精の杖に拘束され、生気が感じられない瞳をしたエルフの少女を、オリガはバニスター兵から引き剥がし魔物を収納している運籠キャリーの中にひとまずしまっておく。

「さて、次は誰が相手ですか?」

 金瞳を妖しく輝かせるエルフの少女に、対峙するバニスター兵たちはどうやったら勝てるのか皆目検討もつかないのだった。

***
 
 オリガが魔法でバニスター兵を圧倒しているもう一方では、カーサが純粋な剣技のみで、数多の魔法を行使できるはずのバニスター兵を圧倒していた。

「くそっ! 当たれよっ! 火球ファイアボール!」

「こっちか! 氷槍アイスランス!」

「ここだ! 風刃ウィンドブレード!」

 強化魔法などではない身体能力のみで、バニスター兵の周りを高速で動き回るカーサに、バニスター兵たちは矢継ぎ早に魔法を打ち込んでいく。

「遅い。そんな、遅い、魔法、私には、当たら、ない」

 高速で動き回りながらも、いつも通りゆっくり話すカーサに、バニスター兵たちは余計に焦りを感じていた。

「何だよあのオーク! 俺たちのごときの攻撃なら余裕だってのか?」

「落ち着け! それが相手の作戦かもしれないだろ!」

「もう、終わり?」

「なっ!?」

 魔法が飛んでこなくなったなったため足を止めたカーサに、バニスター兵たちは驚愕とともに、激しい屈辱を感じる。

「調子に乗るなよ、亜人風情があ!」

 激昂したバニスター兵たちが、立ち止まったままのカーサへと一斉に魔法を放つ。

 魔法がカーサに向けて一斉に襲いかかるが、カーサはかわそうとしない。

「これ、くらい、なら、大丈夫。ふんっ!」

 カーサが気合いの声とともに、カーサの剣が鋭い一閃を放つ。

 カーサに殺到した数多の魔法が、カーサの斬撃によって例外無く真っ二つに切り裂かれる。

「な、なん、だと?」

「そんなのありかよ……」

「ありえない、魔法を切るなんて……」

 マ魔法を両断するというと異次元の剣技を見せつけられたバニスター兵たちは、驚きと絶望で開いた口が塞がらない。

「もう、おしまい? じゃあ、今度は、私の、番」

 カーサの姿がかき消えたかと思うと、次の瞬間にはバニスター兵の前に現れる。

「殺さない、から、安心、して」

 一瞬で肉薄されたバニスター兵は、声を出す間もなく、カーサに剣の腹で殴られて気絶する。

「エルフの子の、回収は、後で、いい、かな」

 カーサは振り返ると、バニスター兵たちをぐるりと見回す。

「じゃあ、次、行くね」

 再びカーサの姿が掻き消え、バニスター兵への攻撃が始まったのだった。

***

「いやー、まさかお嬢とカーサがあそこまで強いとはな」

 近場のバニスター兵をすべて無力化し、次の戦場へと移動している最中、ファムランドはオリガとカーサと話していた。

「そんなことありませんよ、ファムランドさんならあれくらいできますって」

「うん、ファムランドさんも、とっても、強いと、思う」

「はははは……、お嬢たちにそんなこと言われると、なんて答えたらいいかわからねえな……」

 正直、ファムランドはどうやってもオリガとカーサに勝つ方法が思いつかなかった。

 オリガの魔法は突破できる気がしないし、カーサの動きにはついていくのがやっとだろう。

 それほどまでに2人の実力は圧倒的だ。

(この2人に勝てるのなんて、姐さんくらいじゃねーか? いや、マヤのやつも全部の魔物を本気で強化すりゃあ勝てるかもしれねえが)

 マヤの魔物は1匹1匹が一騎当千の強さを誇っていることを、ファムランドはよく知っている。

 ただでさえ人に勝る身体能力を持つ動物が、魔物化した上にマヤの規格外の強化魔法を受けて大幅に強化されているのだ。

 その上、マヤの強化魔法には魔物を治癒する力もあるという。

 そんなマヤなら、オリガやカーサを相手にしても勝つことができそうである。

「それでファムランドさん、次はどうしますか?」

「ああ、そうだな――」

 オリガとカーサのあまりの強さに、思わず考え事をしてしまっていたファムランドは、頭を切り替えて次の戦場について説明を始めたのだった。

***

「陛下、どうして私と一緒なのですか?」

 シロちゃんの後ろに乗ったレオノルは、次の戦場へ移動する間に、前に乗るマヤへと話しかけていた。

「うーん? さっき言ったとおりだよ? なんとなくだよ、なんとなく」

「そんなことで私とファムランドさんを引き離したんですか?」

「え? 気にするとこそこ?」

 マヤの反応で自分の失言に気がついたレオノルは、慌てて取り繕おうとする。

「……っ!? いえ、深い意味はないですよ? ただ、私とファムランドさんは一緒に部隊を率いてきたんです。だから陛下とよりファムランドさんとの方がうまく連携できると、そう思っただけで……」

「いやいや、そんなに慌てて否定しなくても……まあ今はいいや。でも本当になんとなくだよ。なんとなく、レオノルさんが私と2人っきりになりたがってる気がしたから、さ?」

「……何を、言っているんですか?」

「あはは、ごまかすならもっと上手にやらないとね。って言っても、って気がついてなかったら、今のくらいじゃ不自然にも思わなかったんだろうけど」

「…………」

「沈黙は肯定の証、だよ。それで、本当の目的は何なのかな、レオノルさん?」

 マヤの問いに、レオノルはしばらく無言のままだった。
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