上 下
59 / 324
第2巻第2章 バニスターの宣戦布告

マヤの解決策

しおりを挟む
「あそこにつかまってる兵士たちがいるの?」

「ええ、そのはずです。ほら、あそこで遊んでるのとかそうじゃないですか?」

 オリガの指さす先では、子供のオークたちとボールで遊んでいる人間たちの姿があった。

 マヤ以外は基本亜人のキサラギ亜人王国においては、人間というだけで少々目立つ存在立ったりする。

 おそらく新興国であるキサラギ亜人王国の国王の顔など、末端の兵士は知らないだろうし、一緒に遊んでいるオークの子供たちもまだマヤの顔は知らないだろう、その上都合よく見張りもいない。

 マヤはこの状況を最大限利用して、ただの少女としてバニスター兵に話しかけることにした。

「こんにちは、バニスター兵のお兄さん」

「おう、こんにちは嬢ちゃん。珍しいなこの国に人間の子供がいるなんて」

「私はこの国に来てる商人の娘なの。ねえねえ、お父さんからお兄さんたちはバニスターって国の兵隊さんだって聞いたけど、どうして兵隊さんがこんなところで子供たちと遊んでるの?」

「ああ、実はお兄さんたちな、この国の兵隊さんに負けちまってよ。それで捕まって暇だからここで子供たちと遊んでたのよ」

 あくまでも一人の少女として話しているマヤの質問に、兵士たちは和やかな雰囲気だ。
 
「そうなんだー。でもさあ、今お兄さんたちって誰かに見張られてたりするの? 誰もいないみたいだし逃げちゃえばいいんじゃない?」

 マヤの質問に、バニスター兵たちは顔を見合わせる。

「お兄さん達な、バニスターでも捕虜ってやつでな。家族を人質にされて無理やり戦わされてたんだ」

「そうなんだ……大変だね、お兄さん達」

「ははははっ、そうでもねえさ。ここにいれば家族も安全だろうしな」

「どうして?」

「そりゃあ、バニスターの奴らには俺たちがキサラギに捕まってることなんてわからねえからさ。バニスターはまだ俺たちが戦ってると思ってるだろうさ」

「そうそう、だからここにいる間はバニスターの命令に従ってるってことになる」

「バニスターの命令を聞いてるうちは、家族の安全は約束してくれるって話だしな」

「なるほど、なら安心なんだ」

「あー、まあ、安心、とまではいかねえかな? な?」

「ああ、バニスターの奴らのことだ、約束を守ってんのかはなんとも言えねえな」

「そうだな、俺たちが死んだと思って用済みになった家族も殺されてるかもしれねえし」

「ええっ!? 大変じゃん!」

「まあ、あくまでそうかもしれねえってだけだよ。あーあ、いっそ家族と一緒にここに来ちまえばよかったかもな」

「全くだ。エルフもオークも優しいしよ。誰だよ亜人は人間を見たら襲いかかってくるとか言ったやつ」

 バニスター兵たちの言葉に、マヤはあることをひらめいた。

「ねえお兄さんたち、もし家族とここで住めるなら住みたい?」

「ん? そうだな、もしそれができるならそれが理想だな。急にどうしたんだ嬢ちゃん?」

「ううん、なんでも。ありがとね色々教えてくれて」

 マヤはバニスター兵たちに大きくて手を振ると、オリガたちのところに戻っていった。

「結局、何だったんだ、あの嬢ちゃん」

「「さあ?」」

 後には手を振りながら去っていくマヤに手を振り返しながら首を傾げるバニスター兵達が残されていたのだった。

***

「なるほど、あの兵たちは無理やり参加させられた捕虜たちだったわけですか」

「それなら、やる気ないの、納得」

 マヤからバニスター兵の話を聞いたオリガとカーサは、バニスター兵の戦いぶりを見て感じていた違和感の正体を知り、納得した様子だった。

「それで、ちょっと思ったんだけどさ――」

「どうせ、バニスター兵の家族を助けに行こう
 、とか言い出すんでしょう?」

 自分が言おうとしたことをそのまま先に言われたマヤは、オリガに驚愕の表情を向ける。

「ちょっ、なんでわかったの? 心を読む魔法まで使えるの?」

「魔法じゃないですよ。私がエルフなの忘れたんですか? マヤさんがバニスター兵達と話しているのが聞こえてただけです。マヤさん、最後に家族と一緒にこの国に住みたいか、みたいなこと聞いてたじゃないですか。流石にこれから何しようとしてるのかくらい予想できます」

「オリガさん、すごい。私だったら、聞こえてても、そんなこと、予想できない。国王が、敵国の捕虜の、人質の家族を、乗り込んでいって、助けるとか、普通、しない、し」

「その普通しないことをするのがマヤさんなんですよ。まあそのおかげで私も助けてもらえたわけですが」

「いやー、それほどでも」

「褒めてないですからね?」

 オリガはマヤにジト目を向ける。

「あれ、そうなの?」

「そうですよ、まったく……。それで、助けに行くって言っても具体的にはどうするんです?」

「どうって、普通にシロちゃんに乗って行こうかと……」

「いやそれはわかってますけど……そういうことじゃなくてですね、バニスター国内でどこにその兵士さんたちの家族がいるとか、そういうことはわかってるんですか?」

「あー、それは……」

「はあ、やっぱり無計画じゃないですか」

「マヤさん、無計画でも、自信満々、だった。すごい」

「カーサさんも感心してどうするんです」

「うーん、困ったね。何か情報収集も手段があれば……あっ!」

「何か思いついたんですか?」

「うん、上手くいくかわからないけど。ちょっとマッシュのところに行って来るよ! 2人はここで待っててー!」

 マヤは言うやいなや、シロちゃんに跳び乗って走り去ってしまう。

「ここで待ってて、ってこんななにもないところで待っとくんですか?」

「せめて、椅子くらい、ほしい……」

 何も考えずにマヤが走り去ったあとには、何もない道端で待つしかなくなってしまったオリガとカーサの姿があったのだった。

***

「それでどうかなマッシュ、できそう?」

「ああ、おそらく可能だろう。それで、どうしてお前はさっきから私を膝に乗せて撫で回しているのだ?」

「え? もふもふで気持ちいいからだけど?」

「はあ、もう今さら注意する気も起きんな。それで魔物の話だが材料さえあれば今すぐにでも作れるだろう。魔物使いのお前なら視覚共有もできるだろうし、いいアイデアだな」

「でしょ? でも、それならもっと早く誰かがやってそうだけどね?」

「実際やっている者もいるのではないか? ただ、魔物使いは絶対数が少ない上、普通は数匹しか操れない魔物のうちの1匹を情報収集専用にするやつはそう多くないだろう」

「まあそうかもね。それじゃあサクッと捕まえてくるよ。生きてても死んでてもいいんだっけ?」

「いや、できれば生きている方が助かる。その方が早く終わるしな」

「了解、それじゃあ行ってくる」

 マヤはマッシュの家を飛び出すと、腕輪を使って数十匹の魔物を一気に呼び出した。

 数十分後、マヤの周りにはくわえたり、寮前足で挟んだりといった思い思いの持ち方で、バサバサ暴れるカラスを持った魔物たちが帰ってきたのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……  しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!  とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?  愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語

京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。 なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。 要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。 <ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。

異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。 息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。 壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。 茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。 そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。 明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。 しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。 仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。 そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。

かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

処理中です...