過負荷

硯羽未

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第14話 覚悟と抵抗

14-2

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 ちゃんとパジャマを着てから同じベッドの中に入り込み、冷えた竜司の体を温めるようにぴたりとくっついてやる。
 手のやり場に困ったのか、竜司はもぞもぞと何度か体勢を入れ替えていたが、やがて落ち着くポジションを見極めたようで、動くのをやめた。

「竜ちゃん……今度ちゃんと、ギター、弾こうか」
「え? なんだ急に」
「俺、竜ちゃんが入院してからずっと、歌ってないんだ。そろそろ、歌いたい」
「俺のギター、変じゃなかったか?」
 元々の音を忘れている竜司は、自信がなさそうに壱流の目を覗き込んだ。その瞳に映っている自分の姿が認識出来るほど、竜司の顔がすぐ近くにあるという現状が不可解で、変な気分になった。

「問題ないよ。きっと」
 静かに笑んだ壱流に、何故か体を密着させている男がまた落ち着きなく身じろぎした。
「……え」
 さっき、今日は許して、と言ったのに。またパジャマの中に手が入り込んできたので壱流は困惑した。
「や、ちょっと」
 ごそごそと腰の辺りをまさぐられて焦る。性懲りもなくまた何かしようとしている竜司に、続けて2回はさすがにきつい、と壱流は軽く抵抗した。

「壱流が好きで仕方ないんだ」
「……いや、あの。だから、今は」
「眠気も覚めちまったし。壱流は壱流で、ぴったりくっついてくるし。我慢しろってのが無理だ。さっきは最初で、俺もちょっと緊張してたから。壱流落ち着いたみたいだし、何度かした方が慣れると思うんだよな。……壱流、やっぱ処女だったりしたのか? 初めてだったか?」
「当たり前のことを聞くな……」

 妙なことを言われ、恥ずかしくなって顔に血が昇る。処女とか言わないで欲しい。当たり前と聞いて妙に嬉しそうになった男に、どうリアクションを取って良いものか迷った壱流の脚を押し広げて、竜司がまた上に乗ってきた。
「竜司っ……やだっ。節操ってもんがないのか」
「歌いたいんだろ? 俺のために歌って。声、いっぱい出して」
「何言ってんだ……っ」

 誰が声なんか出すか。
 あんまりな展開に今度こそ泣きそうになる。全然シャイなんかじゃない。誰だこの無節操な男は。甘い顔をしたらいけなかったのか。
 それとも記憶をなくす前も、竜司とそうなっていたなら、やはりこんな感じだったのだろうか。ただ単に、今までこういうことがなかったから夜の事情を知らなかっただけで。

「なるべく痛くないように、優しくするから。……な?」
「な、じゃない……ほんと、許して。明日があるだろう!?」
 このままでは本当に2回戦になだれ込んでしまう。軽かった抵抗は強くなり、顔も必死になる。頼むから眠らせてくれと真剣に願った。
 ふと、竜司の手が緩んだ。にい、と笑って、悪びれもせずにつまらないことを言う。

「朝が来たら明日ってことでいいのか?」
「……う」
「おやすみ、壱流。また明日」
 竜司はパジャマの中から手を抜いて、壱流の上から退くとかさばる体を横たえて目を瞑った。
 なんだか墓穴を掘った気がした。しかし今は本当に勘弁して欲しかったので、一旦保留にしてくれたのはありがたかった。
 朝が怖かったが、今は眠ることにした。
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