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魔王様、一緒に国を滅ぼしましょう!

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「魔王様!一緒に私の国を滅ぼしましょう!」

魔王の執務室に乗り込んだミスティは、元気よく告げる。

魔王は頭を抱えてため息をついた。

「断る」

「アウィスさんに話を聞きました!ジョアンさんの話です!」

慌ててミスティを追いかけてきたアウィスは、ミスティの言葉に小さく悲鳴を上げる。

「い、言わないでくださいと…伝えましたよね…?」

「アウィス…」

魔王はじとりとアウィスをにらみつけた。アウィスは大きな身体を小さく縮めてしゅんとする。

「ジョアンさんは魔王様のことを信頼してましたよね?それなのに、どうして魔王様はご自分が愛情を与えた魔族たちのことを信じられないのでしょうか」

ミスティは魔王に問う。魔王は、目をしばたたいてミスティを見た。

「魔王様が人間界との交流を避けているのは、魔族たちが人間を傷つけないか心配に思っているからですよね?」

「あ、ああ…」

魔王は、持っていたペンを置いてミスティの話を聞く。

「”母”の愛とやらを知らない魔族たちも、魔王様の愛ならすでに十分感じていたのではないでしょうか。魔王様のお姿はまるで聖母のようですから…」

「キティ、こいつは何を言っているんだ」

「にゃーには難しい言葉はわかりませんにゃ」

うっとりと言うミスティに怪訝な顔をする魔王。キティはあきらめたように首を振る。

「それに魔王様、人間の中にも攻撃的な人はいるしゴミクズだっているんです」

うちの国王とかね。

「ジョアンさんが信じたように、魔王様も魔族のみんなを信じてみましょうよ!魔王様が信じられないというのなら、私がその分信じますから」

その言葉にはなんの根拠もない。魔王がその言葉を真に受けて動くには、ミスティはあまりにも幼すぎた。

「だめだ、ミスティ。やはりボクは人間界との交流なんて反対だ」

「魔王様…?!ぼ、ボク…?!か…かわいすぎる…何からなにまで…っ!」

魔王の一人称を聞いて悶絶するミスティ。魔王は呆れて何も言えなくなった。

彼女が魔界にきてから、何十回ため息をついたか分からない。

ミスティははっとして咳払いをする。

「あまりのかわいさに取り乱しました!魔王様、これを見てください」

そう言ってミスティは、最近覚えた魔法を使った。光を使って映像を壁に映すという魔法だ。

「な、なんだこれは…?!」

面食らう魔王と、剣を抜くアウィス。キティは映像を追いかけて猫パンチを繰り出している。

「ご安心ください。これは遠くの光景を映し出すことができる私の魔法です。原理はよく分かりませんが、光を行き来させることでこのように動く絵として映し出すことができるようになったのです」

この魔法は、他の人に見せたことはない。たぶんまた仕事が増えるから。

その映像には、ニークアム王国の民が、食べるものもなく具なしのスープとわずかな芋を大切そうに食べる姿と、王が何人もの女を侍らせて風呂の湯につかって酒を飲む姿が交互に映し出された。

「タイミングが悪くて汚い男の醜い裸をお見せしてしまったこと、お詫び申し上げます」

魔法を解除したミスティは言う。魔王は映像を見て、何やら考えている様子だ。

「…つまりミスティは、自分の国を救いたいのだな」

「はい!…ん?そうなのかな?とにかく国王を殺したいです!」

「殺すのはやめろ。平和的に解決しようじゃないか」

魔王はようやく重い腰を上げた。ミスティは飛び上がって喜ぶ。

「やったー!王は私が殺しますから魔王様は手を出さないでくださいね!」

「…殺したら二度と口きかない」

「殺すのやめます」

殺意は消えないが、仕方がない。あんな男のせいで魔王様と口がきけなくなるのは耐えられない。
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