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第一部 悪役令嬢ってなんなんですの?!
公爵令嬢と姫の同盟…なるか?!
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シャーロット姫は、地上でどのような商品に需要があるのか調査するという名目で、しばらく帝国にとどまることとなった。
「つまり、悪役令嬢カナリア様も皇子との婚約破棄を狙ってるってことなんだな?じゃあ僕達の目的は同じじゃねーか。仲間ってことになるな」
シャーロット姫は、カナリアの部屋でクッキーをつまみながら言う。
ライバル校のキャッチャーに、まさか「仲間」と言われる日が来るとは。
もし今も道野龍としての人生が続いていたら、プロ入り後に鮫島と同じチームに入団し、本当の「仲間」になっていた可能性もある。
そう考えると、少しだけ鼻の奥がツンとした。
「その…悪役令嬢っていうのやめてくださいます?」
「はいはい。まあお前、今となっては全然僕のこといじめそうにないもんな」
公爵家のクッキーをすべて食らいつくす勢いのシャーロット姫。特にジャム入りのものが好きらしい。
「最初からあなたをいじめるつもりなんてありませんでしたわ」
「”アマヒメ”ではカナリア様は持ち前のきつさでサメ姫をいじめ抜くんだよ。温厚なアイラッドがぶち切れる程度にはな」
“アマヒメ”とは、『甘えJAWS(ジョーズ)なお姫様』というタイトルの乙女ゲームのことらしい。カナリアはいまだに、乙女ゲームについて深く理解できずにいた。
道野龍だった前世で、いつメジャー球団からオファーがきても良いように英語を勉強しようとしたことがあったが、その時と同じくらい理解できない。英語と乙女ゲームは宇宙語だと思う。
「そ、それより…アイラッド殿下を呼び捨てにするなんて、不敬ですわ!」
「はいはい。公爵令嬢様はいちいちうるせーな」
シャーロット姫は、完全にカナリアを道野龍だと認識して話しかけている。カナリアには前世の記憶があるものの、記憶がないまま公爵令嬢として過ごしてきた時間が長く、道野龍としての感覚は薄い。
一方のシャーロットは、生まれた時から前世の記憶があったため、鮫島鮫太としての自我が強く残っているのである。
「あーあ、それにしても、まさか甲子園に隕石が降ってくるなんてなあ」
シャーロット姫と出会って、一つ分かったことがある。
甲子園の開会式で突然上空が暗くなったのは、隕石が降ってきたかららしい。
「くそー、甲子園で超絶プレーを見せてプロ入りして妹を大学に行かせてやりたかったのに」
シャーロットの前世・鮫島には妹がいた。その妹がやっていた乙女ゲームの世界がこの世界のようだ。
「お前は?進路どうするつもりだったの?」
まさかこの世界で進路の話をすることになろうとは。幼い頃から皇太子の婚約者として生きてきたカナリアには、未来の選択肢などなかった。
前世でも将来のことを深く考えていたわけではない。
「花蓮さんと同じ大学に行くつもりだった」
カナリアの前世・道野龍が憧れていたマネージャーの花蓮さん。彼女が通う大学はいわゆる名門で、大学野球リーグを構成する学校の一つだった。
「カナリア様のタメ口初めて聞きましたわ!」
シャーロットはからかうように言う。カナリアはむっとして、シャーロットの前にあるクッキー入りの皿を取り上げた。
「食べすぎですわ!帝国の貴賓を醜く太らせるわけにはまいりません」
「返せよ!普段ぬめぬめしたものばっか食ってるからそういうもんが食いたいんだよ!」
どうやら海底王国アトラントの主食はぬめぬめしたものであるらしい。かわいそうなので、クッキーの皿を姫の前に戻してやった。
「ああ、早く皇后になって帝国で暮らしたい。無限にクッキー食いたいし」
シャーロットは、わざとらしくため息をついてそう言って、言葉を続ける。
「なあ、カナリア様も花蓮さんを探したいんだろ?皇后になりたいわけじゃないんだろ?」
姫の問いに、カナリアは即答できなかった。花蓮さんのことは探したいし、彼女と今度こそ結ばれたい。
でも、アイラッド皇太子の隣にシャーロット姫がいる姿を想像するのは少しだけつらい。
皇太子が彼女を見ていた視線を思い出す。
カナリアには見せたことのない、恋をした人のまなざしであった。
「アイラッドも良い奴そうだし。それに、あいつの前世って観月だろ。観月とは幼馴染だったんだよ」
「でも、彼には記憶がありませんわ。彼を観月藍良だと思うのはどうかと思いますの」
観月と鮫島が幼馴染だったとは知らなかった。観月と道野龍が通っていた敬愛学園は関東の高校だったが、鮫島が通っていた野田商業は東北だ。
「そうはいっても観月は観月だろ。あいつのことならお前よりずっと僕の方が分かってるから」
シャーロットの言葉に、ざわつくカナリアの心。なぜこんなにもモヤモヤとした気持ちになるのか分からなかった。
「つまり、悪役令嬢カナリア様も皇子との婚約破棄を狙ってるってことなんだな?じゃあ僕達の目的は同じじゃねーか。仲間ってことになるな」
シャーロット姫は、カナリアの部屋でクッキーをつまみながら言う。
ライバル校のキャッチャーに、まさか「仲間」と言われる日が来るとは。
もし今も道野龍としての人生が続いていたら、プロ入り後に鮫島と同じチームに入団し、本当の「仲間」になっていた可能性もある。
そう考えると、少しだけ鼻の奥がツンとした。
「その…悪役令嬢っていうのやめてくださいます?」
「はいはい。まあお前、今となっては全然僕のこといじめそうにないもんな」
公爵家のクッキーをすべて食らいつくす勢いのシャーロット姫。特にジャム入りのものが好きらしい。
「最初からあなたをいじめるつもりなんてありませんでしたわ」
「”アマヒメ”ではカナリア様は持ち前のきつさでサメ姫をいじめ抜くんだよ。温厚なアイラッドがぶち切れる程度にはな」
“アマヒメ”とは、『甘えJAWS(ジョーズ)なお姫様』というタイトルの乙女ゲームのことらしい。カナリアはいまだに、乙女ゲームについて深く理解できずにいた。
道野龍だった前世で、いつメジャー球団からオファーがきても良いように英語を勉強しようとしたことがあったが、その時と同じくらい理解できない。英語と乙女ゲームは宇宙語だと思う。
「そ、それより…アイラッド殿下を呼び捨てにするなんて、不敬ですわ!」
「はいはい。公爵令嬢様はいちいちうるせーな」
シャーロット姫は、完全にカナリアを道野龍だと認識して話しかけている。カナリアには前世の記憶があるものの、記憶がないまま公爵令嬢として過ごしてきた時間が長く、道野龍としての感覚は薄い。
一方のシャーロットは、生まれた時から前世の記憶があったため、鮫島鮫太としての自我が強く残っているのである。
「あーあ、それにしても、まさか甲子園に隕石が降ってくるなんてなあ」
シャーロット姫と出会って、一つ分かったことがある。
甲子園の開会式で突然上空が暗くなったのは、隕石が降ってきたかららしい。
「くそー、甲子園で超絶プレーを見せてプロ入りして妹を大学に行かせてやりたかったのに」
シャーロットの前世・鮫島には妹がいた。その妹がやっていた乙女ゲームの世界がこの世界のようだ。
「お前は?進路どうするつもりだったの?」
まさかこの世界で進路の話をすることになろうとは。幼い頃から皇太子の婚約者として生きてきたカナリアには、未来の選択肢などなかった。
前世でも将来のことを深く考えていたわけではない。
「花蓮さんと同じ大学に行くつもりだった」
カナリアの前世・道野龍が憧れていたマネージャーの花蓮さん。彼女が通う大学はいわゆる名門で、大学野球リーグを構成する学校の一つだった。
「カナリア様のタメ口初めて聞きましたわ!」
シャーロットはからかうように言う。カナリアはむっとして、シャーロットの前にあるクッキー入りの皿を取り上げた。
「食べすぎですわ!帝国の貴賓を醜く太らせるわけにはまいりません」
「返せよ!普段ぬめぬめしたものばっか食ってるからそういうもんが食いたいんだよ!」
どうやら海底王国アトラントの主食はぬめぬめしたものであるらしい。かわいそうなので、クッキーの皿を姫の前に戻してやった。
「ああ、早く皇后になって帝国で暮らしたい。無限にクッキー食いたいし」
シャーロットは、わざとらしくため息をついてそう言って、言葉を続ける。
「なあ、カナリア様も花蓮さんを探したいんだろ?皇后になりたいわけじゃないんだろ?」
姫の問いに、カナリアは即答できなかった。花蓮さんのことは探したいし、彼女と今度こそ結ばれたい。
でも、アイラッド皇太子の隣にシャーロット姫がいる姿を想像するのは少しだけつらい。
皇太子が彼女を見ていた視線を思い出す。
カナリアには見せたことのない、恋をした人のまなざしであった。
「アイラッドも良い奴そうだし。それに、あいつの前世って観月だろ。観月とは幼馴染だったんだよ」
「でも、彼には記憶がありませんわ。彼を観月藍良だと思うのはどうかと思いますの」
観月と鮫島が幼馴染だったとは知らなかった。観月と道野龍が通っていた敬愛学園は関東の高校だったが、鮫島が通っていた野田商業は東北だ。
「そうはいっても観月は観月だろ。あいつのことならお前よりずっと僕の方が分かってるから」
シャーロットの言葉に、ざわつくカナリアの心。なぜこんなにもモヤモヤとした気持ちになるのか分からなかった。
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