上 下
2 / 3

しおりを挟む
「朝から、作らされるなんて思わなかった。」
昨夜、何事もなく央未を抱き枕にして夜を明かして。

朝方はすっかり冷え込む。
小雪を過ぎた、勤労感謝の日。
つい、この間までは央未の素足が俺の足に
ひたりと絡むだけでも暑かったのに。

一緒に眠る事に、随分と慣れてしまったこの体は
央未の体の熱の心地よさを、よく知っている。

『あさって、言うけど…もう11時前だよ。朝ごはんも遅かったし。ずれ込んでるじゃん。』
「寒いと、起きたくないだろ?お前もしーっかり俺に抱き着いてたクセに。よく言う。」

央未の私服は、いつもどこか控え目で。
顔はどちらかと言えば華があるから、バランスが取れているのだと思う。
フランネルシャツの上に掛ける、タブリエ。
「・・・アラサーの男に言う様な事でも無い気がするけど、似合ってるよなぁソレ。」

俺が、先月に贈った一応、誕生日プレゼントだ。
『あー、コレね?・・・なんて言うんだっけ。呼び方、ほら・・・』
エプロン、とは違う呼び方をすっかり央未は忘れている様で。
「タブリエな。」

バックでクロスするタイプの、機能性も高いものを用意した。
『そうそう、あんまり聞きなれないからさ。一瞬何か分からなかったけど。使い勝手よくって気に入ってるんだ。』
これから、野郎2人でケーキを焼くんだって。
貴重な休日を使って。
明日、フツウに仕事なんだけど。

央未の提案なんだ、無碍にできるか。
「央未って、生地・・・混ぜたいタイプ?」
『・・・何それ。ハンドミキサーあるんでしょ?』
「いやぁさ~、いるじゃん。やたらと、泡だて器で生地とか混ぜたがる人。」
『あ~・・・。俺は、そこまででもないよ。』
「まぁ、俺なんだけどね。」

一瞬の間があってから、央未はニコニコ笑う。
『え~、かわいい。子供みたい。』
「姉貴と喧嘩しながら、お菓子作りしてたわ。」
『・・・楽しそう。』
テーブルの上に並ぶ材料を央未が計量しだす。
「何する?俺は」
『オーブンの予熱・・・は、もう少し早いか。じゃ、レシピ読んでくれる?』
「へーい。」

『あ、朔もエプロンして来なよ。』
「そんな、本格的にしないから要らないと思う。」
『はぁ?手伝ってくんないの?』
「俺は、見てるだけ。か、補助する。」
腕まくりをした央未が、もーもー言い出す。

念の為、昨夜にレシピと動画の確認はしておいた。
ドジする前に、俺がサポートするつもりではある。

真剣な表情で、央未がスポンジ生地を製作していく。
俺の為に、わざわざ休日返上してまでこんな時間からケーキを焼く恋人って。
出来過ぎている。
嬉しいのは通り越して、もう変わり者の様にさえ思えて来る。
『チョコの匂い、たまんないなぁ・・・。』
「甘い匂い・・・。メレンゲなら、立てるの手伝うか。」
『あ、本当?じゃ、お願い。』
オーブンの予熱をしてから、卵白でメレンゲを作る。
砂糖を途中に数回足しながらよく泡立てられて、ツヤを帯びた
綺麗なメレンゲが出来上がった。

「混ぜて焼くだけ、とは言うけど。不慣れだから、大変だよな。」
『ちょっとね。でも、朔が一緒だから。』
「・・・明日、本当は休もうかと思った。」
『珍しい事言うじゃん。でも、休まなかったんだろ?』

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孤独な戦い(5)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

保育士だっておしっこするもん!

こじらせた処女
BL
 男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。 保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。  しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。  園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。  しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。    ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?

孤独な戦い(6)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

孤独な戦い(3)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

孤独な戦い(2)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

孤独な戦い(8b)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

孤独な戦い(4)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

処理中です...