20 / 29
第三部 大迷子編
二十話 爆風のシマパンダー(7)
しおりを挟む
沈む夕陽を背に受けて、ビロン兄弟…姉妹は、ようやく入谷家前に駐車する更紗専用ハイエースに到着する…直前で、独特の民間戦隊と対面する。
四本の十字架に磔られ、今まさに処刑されそうな、絶体絶命の戦隊戦士四人組と対面し、ビロン姉妹はリアクションに困る。
「弟よ。これはシマパンダーの仕業だろうか? 兄さんだっけ貴様?」
「兄さん。シマパンダーのシマパンを狙う者は、こうして見せしめに磔にされるのかも。弟だろ白状しろよ」
寄り道ばかりして土産も紛失し、無駄に歩き疲れたビロン姉妹の苛々は相当なものだが、待たされた四人のストレスの方が、更に上だった。
「五時間だぞ」
磔の一番右。
磔《はりつけ》戦隊シビレンジャーのリーダー、シビレレッドは、磔にされたまま、恨み言を吐き出す。
「貴様たちの予測進路上に、こうして五時間も磔状態で待っていたのに…予想では十五分で来るはずだったのに…」
磔にされても貧乏揺すりを辞めないシビレグリーンが、リーダーに続く。
「貴様達のせいで、俺のオムツパックは満杯だ。溢れたら大惨事だぞ!? 大惨事未遂だぞ、貴様達の責任で!」
そんな隣から可能な限り遠ざかろうと磔の上で身を捩るシビレブルーが、恨み言を重ねる。
「僕はサイボーグだから便意は大丈夫だけど、ここでジッとしながら空を見上げるだけなのはキツかった。上空を飛んでいるカラスと深夜アニメの話をしようにも、寄って来ないし。ああいう無視は良くないね。ハトは寄って来たけど、気持ち悪いから食べちゃった」
最後に、眠って時間を潰していたシビレピンクが、締めに入る。
「…あー…トロイのね、あんた達。超トロいわ。無職でしょ?」
時間のルーズさを指摘されて、ビロン兄弟…姉妹はモジモジする。
「どうやら、彼らを倒さないと更紗様のハイエースまで到着出来ないようだ、弟よ。以下略」
「でも、倒すも何も、既に磔にされているよ、兄さん。以下略」
アホな民間戦隊を相手にせず、そのまま通り過ぎようとするビロン姉妹。
だが、ビロン姉妹が背を向けた瞬間、四本の磔は、姑息に後方三メートルの位置に移動した。
四人の超電磁サイボーグ戦士が、磔型超電磁ブースターと同調し、攻撃用超電磁エネルギーを最大に凝縮して標的に放つ超絶必殺奥義『テトラ・スクエア・テスラ』は、縦横三メートル四方の攻撃範囲内に絶命必死の轟雷を発生させる。
芸風は卑怯で姑息で馬鹿丸出しでも、相手を油断させて足止めして超絶必殺奥義を浴びせる磔戦隊シビレンジャーは、無敵だ。
この瞬間までは。
上級ヴィランの格付けに恥じず、ビロン姉妹は背後から喰らった超絶必殺奥義に対応する。
カマキリ型怪人ビバ・ビロンは、最低限の動きだけで対応する。
全身十六箇所から伸ばした超合金の刃に体内のエネルギーを乗せ、バリアを形成して超絶必殺奥義『テトラ・スクエア・テスラ』の轟雷を斬り裂いて寄せつけない。
牛鬼型怪人バビ・ビロンは、一切動かずに対応する。
全身を覆う神牛皮製の装甲は、轟雷であろうと水滴のように弾いて中身を傷つけさせない。
装甲に覆われていない隙間に入った雷の束も、バビ・ビロンの強靭な筋肉に少々の火傷を負わせるのみで消える。
この姑息な超絶必殺奥義で三十五人の怪人を葬って来た磔戦隊シビレンジャーは、無力な結果に固まる。
相手が無傷&軽傷のまま睨み付けて来たので、弁明を始める。
シビレレッド「い、今のは素振りだから」
シビレグリーン「我々が本気であれば、君たちはアニメイトのゴールドカードも残さずに消滅しているぞ!」
シビレブルー「威嚇射撃だけ済んでよかったね。僕たちの優しさに包まれて、改心するといいな」
シビレピンク「大丈夫よ。土下座して命乞いすれば、許してあげるわ。私たち、様式美に弱いの」
ビロン姉妹は、磔戦隊に対する判決を下す。
「謝ってあげるとしよう、弟によく似た人」
「本気の謝罪を見せてやろうぜ、兄さんによく似た人」
バビ・ビロンは、シビレレッドを磔型超電磁ブースターごと横倒しにすると、頭部めがけて頭を丁寧に下げた。
トンカチで打たれた釘の如く、シビレレッドは頭から道路の中に突き刺さる。
「見たか弟よ。道に開けた穴に要らない戦士を埋め込む、環境に優しい謝罪を」
ドヤ顔の兄貴…姉に、弟…妹は返事をしなかった。
喉元に大太刀を突き付けられて、身動きが取れなかった。
「謝罪の仕方を、体に刻み込むであります」
まぬけなので『ま性の戦士』とも言われるシマパンダーでも、自宅前の戦闘には迅速かつ精密に対応した。
「あと十五分で笑点の大喜利が始まるので、早く済ませるであります」
喋らなければ、パーフェクトだったのに。
昨日、巨大ロボさえ寸刻みにしたシマパンダーの大太刀である。
絶大な防御力を保持するビロン姉妹でさえ、迂闊に動けなかった。
身動き取れないので、口だけ動かす。
「我々兄弟は、深夜にこっそり、シマパンダーのタンスからシマパンを全て盗み出すだけのサンタクロース的な存在。騒がず慌てず、黙認がオススメ。…姉妹だっけ?」
「僕たち兄弟は、物理的にも精神的にも性的にもネット的にも、シマパンダーを傷付けるつもりはない。シマパンさえ貰えれば、ガンダムのリアタイを逃しても悔いはない。…姉妹だよ、きっと」
シマパンダーは、ビロン姉妹の主張を二秒吟味した上で、再決断する。
「戦闘開始であります」
四本の十字架に磔られ、今まさに処刑されそうな、絶体絶命の戦隊戦士四人組と対面し、ビロン姉妹はリアクションに困る。
「弟よ。これはシマパンダーの仕業だろうか? 兄さんだっけ貴様?」
「兄さん。シマパンダーのシマパンを狙う者は、こうして見せしめに磔にされるのかも。弟だろ白状しろよ」
寄り道ばかりして土産も紛失し、無駄に歩き疲れたビロン姉妹の苛々は相当なものだが、待たされた四人のストレスの方が、更に上だった。
「五時間だぞ」
磔の一番右。
磔《はりつけ》戦隊シビレンジャーのリーダー、シビレレッドは、磔にされたまま、恨み言を吐き出す。
「貴様たちの予測進路上に、こうして五時間も磔状態で待っていたのに…予想では十五分で来るはずだったのに…」
磔にされても貧乏揺すりを辞めないシビレグリーンが、リーダーに続く。
「貴様達のせいで、俺のオムツパックは満杯だ。溢れたら大惨事だぞ!? 大惨事未遂だぞ、貴様達の責任で!」
そんな隣から可能な限り遠ざかろうと磔の上で身を捩るシビレブルーが、恨み言を重ねる。
「僕はサイボーグだから便意は大丈夫だけど、ここでジッとしながら空を見上げるだけなのはキツかった。上空を飛んでいるカラスと深夜アニメの話をしようにも、寄って来ないし。ああいう無視は良くないね。ハトは寄って来たけど、気持ち悪いから食べちゃった」
最後に、眠って時間を潰していたシビレピンクが、締めに入る。
「…あー…トロイのね、あんた達。超トロいわ。無職でしょ?」
時間のルーズさを指摘されて、ビロン兄弟…姉妹はモジモジする。
「どうやら、彼らを倒さないと更紗様のハイエースまで到着出来ないようだ、弟よ。以下略」
「でも、倒すも何も、既に磔にされているよ、兄さん。以下略」
アホな民間戦隊を相手にせず、そのまま通り過ぎようとするビロン姉妹。
だが、ビロン姉妹が背を向けた瞬間、四本の磔は、姑息に後方三メートルの位置に移動した。
四人の超電磁サイボーグ戦士が、磔型超電磁ブースターと同調し、攻撃用超電磁エネルギーを最大に凝縮して標的に放つ超絶必殺奥義『テトラ・スクエア・テスラ』は、縦横三メートル四方の攻撃範囲内に絶命必死の轟雷を発生させる。
芸風は卑怯で姑息で馬鹿丸出しでも、相手を油断させて足止めして超絶必殺奥義を浴びせる磔戦隊シビレンジャーは、無敵だ。
この瞬間までは。
上級ヴィランの格付けに恥じず、ビロン姉妹は背後から喰らった超絶必殺奥義に対応する。
カマキリ型怪人ビバ・ビロンは、最低限の動きだけで対応する。
全身十六箇所から伸ばした超合金の刃に体内のエネルギーを乗せ、バリアを形成して超絶必殺奥義『テトラ・スクエア・テスラ』の轟雷を斬り裂いて寄せつけない。
牛鬼型怪人バビ・ビロンは、一切動かずに対応する。
全身を覆う神牛皮製の装甲は、轟雷であろうと水滴のように弾いて中身を傷つけさせない。
装甲に覆われていない隙間に入った雷の束も、バビ・ビロンの強靭な筋肉に少々の火傷を負わせるのみで消える。
この姑息な超絶必殺奥義で三十五人の怪人を葬って来た磔戦隊シビレンジャーは、無力な結果に固まる。
相手が無傷&軽傷のまま睨み付けて来たので、弁明を始める。
シビレレッド「い、今のは素振りだから」
シビレグリーン「我々が本気であれば、君たちはアニメイトのゴールドカードも残さずに消滅しているぞ!」
シビレブルー「威嚇射撃だけ済んでよかったね。僕たちの優しさに包まれて、改心するといいな」
シビレピンク「大丈夫よ。土下座して命乞いすれば、許してあげるわ。私たち、様式美に弱いの」
ビロン姉妹は、磔戦隊に対する判決を下す。
「謝ってあげるとしよう、弟によく似た人」
「本気の謝罪を見せてやろうぜ、兄さんによく似た人」
バビ・ビロンは、シビレレッドを磔型超電磁ブースターごと横倒しにすると、頭部めがけて頭を丁寧に下げた。
トンカチで打たれた釘の如く、シビレレッドは頭から道路の中に突き刺さる。
「見たか弟よ。道に開けた穴に要らない戦士を埋め込む、環境に優しい謝罪を」
ドヤ顔の兄貴…姉に、弟…妹は返事をしなかった。
喉元に大太刀を突き付けられて、身動きが取れなかった。
「謝罪の仕方を、体に刻み込むであります」
まぬけなので『ま性の戦士』とも言われるシマパンダーでも、自宅前の戦闘には迅速かつ精密に対応した。
「あと十五分で笑点の大喜利が始まるので、早く済ませるであります」
喋らなければ、パーフェクトだったのに。
昨日、巨大ロボさえ寸刻みにしたシマパンダーの大太刀である。
絶大な防御力を保持するビロン姉妹でさえ、迂闊に動けなかった。
身動き取れないので、口だけ動かす。
「我々兄弟は、深夜にこっそり、シマパンダーのタンスからシマパンを全て盗み出すだけのサンタクロース的な存在。騒がず慌てず、黙認がオススメ。…姉妹だっけ?」
「僕たち兄弟は、物理的にも精神的にも性的にもネット的にも、シマパンダーを傷付けるつもりはない。シマパンさえ貰えれば、ガンダムのリアタイを逃しても悔いはない。…姉妹だよ、きっと」
シマパンダーは、ビロン姉妹の主張を二秒吟味した上で、再決断する。
「戦闘開始であります」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる