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リチタマ騒動記1 3章 燃えるような赤い薔薇、夢に添えて
五十三話 光り輝く夢を見るなら
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【地球 日本 東京都千代田区 マーチエキュート神田万世橋】
動画配信で十五年前の話をリップがしているので、ユーシアは懐かしく拝聴する。
神田川の川沿い、廃止された万世橋駅を改築して作られた商業施設『マーチエキュート神田万世橋』の飲食店で、ユーシアはレリーと二人でリップの話をリアタイしている。
十五年でリップの人気は、文字通り、異世界すら跨いでしまった。
二十五歳のユーシア・アイオライトは、神田川を間近に臨む客席で、私服の金髪巨乳美人の姿で寛いでいる。
ゴールドスクリーマ―としてコチラの世界に来ても、ユーシアは私服姿で遊ぶだけに留め、レリーが何を言ってもどう仕向けても、誰かを処分しようとはしなかった。
ユーシアは十五年間、ただの観光客として訪問している。
悪質な客人への、当てつけかも知れない。
彼がリチタマで断罪し、転移不可能に追い込んだ客人は、三桁に及ぶ。
コチラの世界でもその実績を知る者は稀に存在するが、接触・交渉はレリーだけに任せて済ませている。
そのレリーが、テーブル席に備えられた端末から流れるリップの話にツッコミを入れる。
「高垣ダーナがレイピア(細剣)『七夕』を鍛えて渡すイベントが、省かれちゃった。あれ好きなのに。なんで省くかなあ。わたしの夢渡りのイベントを盛った反動?」
レリーの容姿は、初めて会った十五年前と、全然変わっていない。
十六歳のポニーテール美少女にしか、見えない。
リチタマとコチラの世界の違いは、着ている服がメイド服から学生のブレザー制服に変わった事だ。
レリーだけは、この世界でも客人のように振る舞う。
幾年経とうと、女子校生のまま。
「レリーだけは、何処の世界でも本体で全開なような気がする」
「何だよう、奥さんの仕事中に、女子校生の素性を探ろうとするなよ、エロスケベ」
そう言ってユーシアの食べている創作おでんから、こんにゃくを盗み食いしようとして、拒まれる。
「もう一つ頼めよ、奢ってやるから」
「盗んで奪って喰らい尽くす楽しみを、奪うな」
「その峰不二子スタイルは、治らないのか?」
「そっちこそ、この近辺の店に固執する飲食スタイル、治らないの?」
「食って黙れ、無粋者め」
ユーシアは、創作おでんを二皿追加注文しながら、神田川に視線を戻す。
対岸の娯楽街・秋葉原の光り輝く夜景を一望しつつ、視線が夜の川に吸い込まれないように、ユーシアは少し気を張る。
夜の川を見詰めても、良い事は何も起きない。
酒を飲みながら、ユーシアは寛ぐよう努める。
対岸の古いアパートの上層階の一室の窓から、機嫌の猛烈に悪そうな人物が、ユーシアの方を見下ろしている。
室内が暗いので性別も年齢も不詳だが、悪い酒で酔っているように見える。
神田川に向けて、空の酒瓶を手早く何本も放り投げて、恥じていない。
ゴミの不法投棄なのか、ユーシアに向けての嫌がらせなのか、謎である。
その行為も含めて、ユーシアは景色の全てを酒の肴に加えて、過ごしている。
レリーもその光景を見ながら、届いた創作おでんに箸を付ける。
「そういえば、ユーシアがこの辺で遊ぶようになってから、アルビオンがリチタマで暴れなくなったね」
「なんだよ、そのお粗末な陰謀論は? 俺はアイツの蓋じゃねえ」
「だって、不自然だよう、アルビオンが暴れないなんて。死亡説まで流れ始めたし」
「アルビオンの事情なんぞ、知らないよ」
ユーシアは平気で嘘を吐くと、大ジョッキのハイボールを飲み干す。
胸元の蝶の形のアクセサリーが振動し、ハイボールの追加を促す。
ゴールドスクリーマーの装甲経由で、エリアス・アークにもハイボールが流入する仕組みである。
『そろそろラストオーダーの時間です』
「じゃあ、あとはリチタマで飲もう」
『コチラのハイボールの方が、味が濃くて好きです』
「じゃあ、あと一杯だけ」
テーブルの端末にラストオーダーを注文すると、リチタマにいるリップの方も動画配信を終わらせる所だった。
「ご視聴、ありがとうございます。
次回は、五月雨の季節を終えたアキュハヴァーラに巻き起こる、欲と色気と新人声優ユニットの騒動を、毎度お馴染み、美少年忍者が解決する話をします。
では、これにて。
再会したら、あなたの時間を、いただきます」
ユーシアが、慌て気味に動画配信を十秒巻き戻して次回予告を聞き返す。
「ヤバい、あの話は、して欲しくないのに! できれば可能な限り!」
「なになに? お前やっぱり、あの新人声優ユニットに、唾付けていたの?」
「それだったら、俺が既にリップに殺されとるわ、秒で!」
「…まあ、そうだけど。で、何をした? 何をされた? どうなった??」
リップがネタにする話なので、レリーは血の匂いを嗅いだ鮫のように、ユーシアを鼻で突く。
ユーシアは何も言わずに客席の端末で会計を済ませると、サンダルの踵を鳴らしてから、ウサギ跳びでリチタマに戻る。
レリーは、挨拶もなしに逃げたユーシアの空席を睨み、夜の神田川を睨み、対岸の古いアパートを睨む。
何処にもハーフ吸血鬼の視線を受ける者は居らず、店内には閉店十五分前を告げる洋楽が流れてくる。
その音楽をサビまでは聴いてから、レリーは夜の川面に溶けるように、姿を眩ました。
スガヲノ忍者 リチタマ騒動記1 (完)
スガヲノ忍者 リチタマ騒動記2 (始)
動画配信で十五年前の話をリップがしているので、ユーシアは懐かしく拝聴する。
神田川の川沿い、廃止された万世橋駅を改築して作られた商業施設『マーチエキュート神田万世橋』の飲食店で、ユーシアはレリーと二人でリップの話をリアタイしている。
十五年でリップの人気は、文字通り、異世界すら跨いでしまった。
二十五歳のユーシア・アイオライトは、神田川を間近に臨む客席で、私服の金髪巨乳美人の姿で寛いでいる。
ゴールドスクリーマ―としてコチラの世界に来ても、ユーシアは私服姿で遊ぶだけに留め、レリーが何を言ってもどう仕向けても、誰かを処分しようとはしなかった。
ユーシアは十五年間、ただの観光客として訪問している。
悪質な客人への、当てつけかも知れない。
彼がリチタマで断罪し、転移不可能に追い込んだ客人は、三桁に及ぶ。
コチラの世界でもその実績を知る者は稀に存在するが、接触・交渉はレリーだけに任せて済ませている。
そのレリーが、テーブル席に備えられた端末から流れるリップの話にツッコミを入れる。
「高垣ダーナがレイピア(細剣)『七夕』を鍛えて渡すイベントが、省かれちゃった。あれ好きなのに。なんで省くかなあ。わたしの夢渡りのイベントを盛った反動?」
レリーの容姿は、初めて会った十五年前と、全然変わっていない。
十六歳のポニーテール美少女にしか、見えない。
リチタマとコチラの世界の違いは、着ている服がメイド服から学生のブレザー制服に変わった事だ。
レリーだけは、この世界でも客人のように振る舞う。
幾年経とうと、女子校生のまま。
「レリーだけは、何処の世界でも本体で全開なような気がする」
「何だよう、奥さんの仕事中に、女子校生の素性を探ろうとするなよ、エロスケベ」
そう言ってユーシアの食べている創作おでんから、こんにゃくを盗み食いしようとして、拒まれる。
「もう一つ頼めよ、奢ってやるから」
「盗んで奪って喰らい尽くす楽しみを、奪うな」
「その峰不二子スタイルは、治らないのか?」
「そっちこそ、この近辺の店に固執する飲食スタイル、治らないの?」
「食って黙れ、無粋者め」
ユーシアは、創作おでんを二皿追加注文しながら、神田川に視線を戻す。
対岸の娯楽街・秋葉原の光り輝く夜景を一望しつつ、視線が夜の川に吸い込まれないように、ユーシアは少し気を張る。
夜の川を見詰めても、良い事は何も起きない。
酒を飲みながら、ユーシアは寛ぐよう努める。
対岸の古いアパートの上層階の一室の窓から、機嫌の猛烈に悪そうな人物が、ユーシアの方を見下ろしている。
室内が暗いので性別も年齢も不詳だが、悪い酒で酔っているように見える。
神田川に向けて、空の酒瓶を手早く何本も放り投げて、恥じていない。
ゴミの不法投棄なのか、ユーシアに向けての嫌がらせなのか、謎である。
その行為も含めて、ユーシアは景色の全てを酒の肴に加えて、過ごしている。
レリーもその光景を見ながら、届いた創作おでんに箸を付ける。
「そういえば、ユーシアがこの辺で遊ぶようになってから、アルビオンがリチタマで暴れなくなったね」
「なんだよ、そのお粗末な陰謀論は? 俺はアイツの蓋じゃねえ」
「だって、不自然だよう、アルビオンが暴れないなんて。死亡説まで流れ始めたし」
「アルビオンの事情なんぞ、知らないよ」
ユーシアは平気で嘘を吐くと、大ジョッキのハイボールを飲み干す。
胸元の蝶の形のアクセサリーが振動し、ハイボールの追加を促す。
ゴールドスクリーマーの装甲経由で、エリアス・アークにもハイボールが流入する仕組みである。
『そろそろラストオーダーの時間です』
「じゃあ、あとはリチタマで飲もう」
『コチラのハイボールの方が、味が濃くて好きです』
「じゃあ、あと一杯だけ」
テーブルの端末にラストオーダーを注文すると、リチタマにいるリップの方も動画配信を終わらせる所だった。
「ご視聴、ありがとうございます。
次回は、五月雨の季節を終えたアキュハヴァーラに巻き起こる、欲と色気と新人声優ユニットの騒動を、毎度お馴染み、美少年忍者が解決する話をします。
では、これにて。
再会したら、あなたの時間を、いただきます」
ユーシアが、慌て気味に動画配信を十秒巻き戻して次回予告を聞き返す。
「ヤバい、あの話は、して欲しくないのに! できれば可能な限り!」
「なになに? お前やっぱり、あの新人声優ユニットに、唾付けていたの?」
「それだったら、俺が既にリップに殺されとるわ、秒で!」
「…まあ、そうだけど。で、何をした? 何をされた? どうなった??」
リップがネタにする話なので、レリーは血の匂いを嗅いだ鮫のように、ユーシアを鼻で突く。
ユーシアは何も言わずに客席の端末で会計を済ませると、サンダルの踵を鳴らしてから、ウサギ跳びでリチタマに戻る。
レリーは、挨拶もなしに逃げたユーシアの空席を睨み、夜の神田川を睨み、対岸の古いアパートを睨む。
何処にもハーフ吸血鬼の視線を受ける者は居らず、店内には閉店十五分前を告げる洋楽が流れてくる。
その音楽をサビまでは聴いてから、レリーは夜の川面に溶けるように、姿を眩ました。
スガヲノ忍者 リチタマ騒動記1 (完)
スガヲノ忍者 リチタマ騒動記2 (始)
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