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リチタマ騒動記1 3章 燃えるような赤い薔薇、夢に添えて
四十九話 夜を駆け抜けろ、天使(1)
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【コウガ地方 山岳地帯 ガルド教団本部付近】
『鬼神の槌矛(デモンメイス)』は、装備者や所持した武器の能力の威力・効果範囲を、二段階以上激増させる武鎧だ。
装備者が回復能力を使えば、この世で最も優れた医療装置になるだろう。
そうは使わない装備者ばかりなので、異名が忌み言葉になってしまったが。
特にアルビオンは、この武鎧の悪名を最悪な地位に押し下げた。
両手に猛毒属性の戦斧を持つアルビオンが活用した場合、『鬼神の槌矛(デモンメイス)』は戦闘領域を即死級の毒ガスで満たす死地メーカーと化す。
この組み合わせの武具を用いて殺戮領域を創り出して戦う事に、アルビオンは全く遠慮をしない。
この時点で把握されているアルビオンが形成した猛毒の死地は、六ケ所に及ぶ。この死地を原因に死んだ者は総勢千五百人を超え、八万人を超す健康被害者が存在する。
国際指名手配死刑囚・捕殺優先順位第四位(賞金総額十七億円)のアルビオンは、それらの二次被害について、悔恨を一切示していない。
気侭に戦歴を重ね、悪名を厭わない雇用主の間を渡り歩いている。
ガルド教団は攻め込まれない為の最悪の牽制球を雇用したつもりだったが、他の雇用主と同様、アルビオンの踏み台にされただけだった。
犯罪ばかりしてきた組織なのに、宗教法人のフリをして逃げ続けてきたガルド教団の最後は、凶戦士の踏み台だった。
「レリー! 庇う余裕は無いから、先に逃げろ!」
「おう、よろしくね!」
レリーはマジで逃げ出した。
ユーシアはゴールドスクリーマーに変身し、アルビオンの迎撃に向かう。
最大出力での短期決戦を望んだが、クロウが苦しそうに現状を報告する。
『ごめん、聖刻弾の余波で、最大20%しか出せない』
「10%を防御に使って、10%は両手両足の攻撃用に割り振る!」
ゴールドスリーマー(ユーシア)の両手両足の装甲に、電光が集中する。
そこまで用意が整ってから、アルビオンは戦闘を開始する。
「ありがとう」
心から礼を述べてから、アルビオンは踏み込む。
武鎧の装甲でも腐食させ斬り裂く猛毒属性の戦斧『バイラス』の連続攻撃を、ユーシアは上空に逃れて回避する。
アルビオンは空中機動で、易々と追撃する。
「ありがとう」
必殺の勢いで致命的な武器を振るいながら、アルビオンは涼しい声で礼を言い続ける。
眼下では、毒気に充てられて多くの信者・僧兵が倒れていき、制圧しに来た警官やコウガ忍者が救出して運び出すという状況に。
それすら邪魔と考えて、アルビオンは『バイラス』を一振り、教団本部の中庭に放る。
その周辺の毒素レベルが上がり、武鎧を装備して来た警官や忍者たちまで、動きが鈍っていく。
「その必要あるのか?」
「救助と制圧が済めば、ボクを殺しに来る。邪魔だ。だから先に殺す」
「お前っ」
「同意は求めていない」
一振りだけになった『バイラス』を、アルビオンは薙刀のように柄を伸ばして振り回す。
「ボクとの戦いに専念しよう、ユーシア」
ユーシアは、眼下に降りると、『バイラス』を回収する。
その周辺の毒素は薄まったが、持っただけで、手の装甲が腐食されていく。
「クロウ、何秒保つ?」
『30秒は我慢してやる』
『バイラス』装備者同士の対決に、アルビオンは興を増やしてもらえて喜ぶが、歓喜は秒で狼狽に変わる。
上空に上がって来たユーシアは、アルビオンにではなく、アルビオンの持つ『バイラス』に『バイラス』を振るう。
二つの『バイラス』に、ヒビが入る。
「君、まさか、ボクのを」
「毒ガス攻撃は平気なのに、武器破壊攻撃は否定か?」
「…素敵なまでに、やな感じ」
アルビオンはお気に入りの『バイラス』の刃を合わせないように戦おうとするも、ユーシアは攻撃目標を変えない。
三回目の武器破壊攻撃で、迷惑千万な殺傷武器が、アルビオンの持つ方だけ砕け散る。
それを見届けてから、ユーシアは手元の『バイラス』を手刀で粉にする。
粉状と破片状に変わってしまった得意武器を見詰めながら、アルビオンは打開策を講じる。
正気の人間なら、絶対にしない打開策を。
『鬼神の槌矛(デモンメイス)』に、『バイラス』の粉と破片を吸収させ始める。
『バイラス』の猛毒属性が、『鬼神の槌矛(デモンメイス)』の追加属性となる。
これで毒ガス攻撃は続行可能だが、武鎧の内部に対毒仕様を施さないままの属性付与なので、アルビオンの顔色も悪くなっていく。
「雑な魔改造しやがって。死んじゃうぞ?」
「死刑囚の健康問題は、哲学で語るべきだ」
会話はしても、話にならない人物だった。
「『鬼神の槌矛(デモンメイス)』も破壊してやる」
ユーシア(ゴールドスクリーマー)の手刀が、電撃の刃となって圧力を増す。
ユーシアの電撃手刀を回避しながら、アルビオンは毒素の増した武鎧の装着具合を確認する。
「あと二分は、戦えるよ!」
猛毒属性になった拳で、ユーシア(ゴールドスリーマー)の手刀と激突する。
短時間で決着を付けたい者同士が、教団本部の上空で、ゼロ距離での壮絶な殴り合いを開始した。
双方の拳が、破損していく。
十秒は互角に殴り合っているように見えたが、徐々にアルビオンの両手の方が大きくひび割れていく。
ユーシア(ゴールドスリーマー)の方のひび割れは、ごく僅か。
「あっ、『鬼神の槌矛(デモンメイス)』の防御力そのものが、毒素で劣化した?」
「自滅だ、アルビオン」
両腕の装甲を破砕し、胸部の装甲も破壊する。
アルビオンの胸部の、嫋やかな肉の膨らみが露わになる。
アルビオンは、隠そうとはしなかったが、隠した方が良いかなと少しだけ迷って止まってしまう。
ユーシアは、迷わなかった。
アルビオンと違って、迷うような余裕が無かった。
晒されたアルビオンの胸の谷間に、ユーシア(ゴールドスリーマー)は電撃の籠った拳を叩き込む。
アルビオンの心臓が、急停止する。
『鬼神の槌矛(デモンメイス)』は、装備者が死亡したと判断し、装着を解く。
自壊しながら地上に落下する『鬼神の槌矛(デモンメイス)』には構わず、ユーシアは全裸になったアルビオンを抱き止める。
「ノーパンで武鎧を着るなよ」
再び胸部に、電撃の籠った拳を当てる。
アルビオンの心臓が、再始動する。
十五秒間、アルビオンは夜空の中で、ユーシアにお姫様抱っこされたまま、呼吸を整えた。
蘇生したアルビオンが、ユーシアに抱き付く。
「蘇生した以上、戦闘続行」
「真性だな」
首に腕を巻き付けて、締め落とそうとする。
ユーシア(ゴールドスクリーマー)の防御力に対しては、児戯にもならない。
呆れて振り解こうとするが、ゴールドスクリーマーの出力が下がって、うまく力が出せない。
上空を移動する力も減っていき、落下していく。
「クロウ、限界なら、せめて一分前には言ってよ」
『エリアスを守っていた分を、計上していなかった』
胸部装甲の隙間からエリアスが、申し訳なさそうに頭を下げる。
着地点は毒素に満ちているので、ユーシアは教団の敷地外へと大きく軌道を逸らして、着地する。
人気のない着地点を選んだつもりだったが、そこはコウガ忍者達の本陣だった。
全裸の高額賞金首(賞金総額十七億円)を抱えて降下したので、ギラつく視線が集まる。
流石にアルビオンも、ユーシアとの交戦を中止して、背中に抱き付いたまま様子を見る。
黒焦茶色彩の武鎧に身を包んだ望月ライトが、周囲を制してユーシアに問う。
「独り占めですか? 妬けますね、美少年忍者」
ユーシアは、ライトに返事をしなかった。
「エリアス、飯」
エリアスはテキパキと携帯食を用意しながら、ユーシアがコウガともやり合いそうなので、武者震いに見舞われた。
『鬼神の槌矛(デモンメイス)』は、装備者や所持した武器の能力の威力・効果範囲を、二段階以上激増させる武鎧だ。
装備者が回復能力を使えば、この世で最も優れた医療装置になるだろう。
そうは使わない装備者ばかりなので、異名が忌み言葉になってしまったが。
特にアルビオンは、この武鎧の悪名を最悪な地位に押し下げた。
両手に猛毒属性の戦斧を持つアルビオンが活用した場合、『鬼神の槌矛(デモンメイス)』は戦闘領域を即死級の毒ガスで満たす死地メーカーと化す。
この組み合わせの武具を用いて殺戮領域を創り出して戦う事に、アルビオンは全く遠慮をしない。
この時点で把握されているアルビオンが形成した猛毒の死地は、六ケ所に及ぶ。この死地を原因に死んだ者は総勢千五百人を超え、八万人を超す健康被害者が存在する。
国際指名手配死刑囚・捕殺優先順位第四位(賞金総額十七億円)のアルビオンは、それらの二次被害について、悔恨を一切示していない。
気侭に戦歴を重ね、悪名を厭わない雇用主の間を渡り歩いている。
ガルド教団は攻め込まれない為の最悪の牽制球を雇用したつもりだったが、他の雇用主と同様、アルビオンの踏み台にされただけだった。
犯罪ばかりしてきた組織なのに、宗教法人のフリをして逃げ続けてきたガルド教団の最後は、凶戦士の踏み台だった。
「レリー! 庇う余裕は無いから、先に逃げろ!」
「おう、よろしくね!」
レリーはマジで逃げ出した。
ユーシアはゴールドスクリーマーに変身し、アルビオンの迎撃に向かう。
最大出力での短期決戦を望んだが、クロウが苦しそうに現状を報告する。
『ごめん、聖刻弾の余波で、最大20%しか出せない』
「10%を防御に使って、10%は両手両足の攻撃用に割り振る!」
ゴールドスリーマー(ユーシア)の両手両足の装甲に、電光が集中する。
そこまで用意が整ってから、アルビオンは戦闘を開始する。
「ありがとう」
心から礼を述べてから、アルビオンは踏み込む。
武鎧の装甲でも腐食させ斬り裂く猛毒属性の戦斧『バイラス』の連続攻撃を、ユーシアは上空に逃れて回避する。
アルビオンは空中機動で、易々と追撃する。
「ありがとう」
必殺の勢いで致命的な武器を振るいながら、アルビオンは涼しい声で礼を言い続ける。
眼下では、毒気に充てられて多くの信者・僧兵が倒れていき、制圧しに来た警官やコウガ忍者が救出して運び出すという状況に。
それすら邪魔と考えて、アルビオンは『バイラス』を一振り、教団本部の中庭に放る。
その周辺の毒素レベルが上がり、武鎧を装備して来た警官や忍者たちまで、動きが鈍っていく。
「その必要あるのか?」
「救助と制圧が済めば、ボクを殺しに来る。邪魔だ。だから先に殺す」
「お前っ」
「同意は求めていない」
一振りだけになった『バイラス』を、アルビオンは薙刀のように柄を伸ばして振り回す。
「ボクとの戦いに専念しよう、ユーシア」
ユーシアは、眼下に降りると、『バイラス』を回収する。
その周辺の毒素は薄まったが、持っただけで、手の装甲が腐食されていく。
「クロウ、何秒保つ?」
『30秒は我慢してやる』
『バイラス』装備者同士の対決に、アルビオンは興を増やしてもらえて喜ぶが、歓喜は秒で狼狽に変わる。
上空に上がって来たユーシアは、アルビオンにではなく、アルビオンの持つ『バイラス』に『バイラス』を振るう。
二つの『バイラス』に、ヒビが入る。
「君、まさか、ボクのを」
「毒ガス攻撃は平気なのに、武器破壊攻撃は否定か?」
「…素敵なまでに、やな感じ」
アルビオンはお気に入りの『バイラス』の刃を合わせないように戦おうとするも、ユーシアは攻撃目標を変えない。
三回目の武器破壊攻撃で、迷惑千万な殺傷武器が、アルビオンの持つ方だけ砕け散る。
それを見届けてから、ユーシアは手元の『バイラス』を手刀で粉にする。
粉状と破片状に変わってしまった得意武器を見詰めながら、アルビオンは打開策を講じる。
正気の人間なら、絶対にしない打開策を。
『鬼神の槌矛(デモンメイス)』に、『バイラス』の粉と破片を吸収させ始める。
『バイラス』の猛毒属性が、『鬼神の槌矛(デモンメイス)』の追加属性となる。
これで毒ガス攻撃は続行可能だが、武鎧の内部に対毒仕様を施さないままの属性付与なので、アルビオンの顔色も悪くなっていく。
「雑な魔改造しやがって。死んじゃうぞ?」
「死刑囚の健康問題は、哲学で語るべきだ」
会話はしても、話にならない人物だった。
「『鬼神の槌矛(デモンメイス)』も破壊してやる」
ユーシア(ゴールドスクリーマー)の手刀が、電撃の刃となって圧力を増す。
ユーシアの電撃手刀を回避しながら、アルビオンは毒素の増した武鎧の装着具合を確認する。
「あと二分は、戦えるよ!」
猛毒属性になった拳で、ユーシア(ゴールドスリーマー)の手刀と激突する。
短時間で決着を付けたい者同士が、教団本部の上空で、ゼロ距離での壮絶な殴り合いを開始した。
双方の拳が、破損していく。
十秒は互角に殴り合っているように見えたが、徐々にアルビオンの両手の方が大きくひび割れていく。
ユーシア(ゴールドスリーマー)の方のひび割れは、ごく僅か。
「あっ、『鬼神の槌矛(デモンメイス)』の防御力そのものが、毒素で劣化した?」
「自滅だ、アルビオン」
両腕の装甲を破砕し、胸部の装甲も破壊する。
アルビオンの胸部の、嫋やかな肉の膨らみが露わになる。
アルビオンは、隠そうとはしなかったが、隠した方が良いかなと少しだけ迷って止まってしまう。
ユーシアは、迷わなかった。
アルビオンと違って、迷うような余裕が無かった。
晒されたアルビオンの胸の谷間に、ユーシア(ゴールドスリーマー)は電撃の籠った拳を叩き込む。
アルビオンの心臓が、急停止する。
『鬼神の槌矛(デモンメイス)』は、装備者が死亡したと判断し、装着を解く。
自壊しながら地上に落下する『鬼神の槌矛(デモンメイス)』には構わず、ユーシアは全裸になったアルビオンを抱き止める。
「ノーパンで武鎧を着るなよ」
再び胸部に、電撃の籠った拳を当てる。
アルビオンの心臓が、再始動する。
十五秒間、アルビオンは夜空の中で、ユーシアにお姫様抱っこされたまま、呼吸を整えた。
蘇生したアルビオンが、ユーシアに抱き付く。
「蘇生した以上、戦闘続行」
「真性だな」
首に腕を巻き付けて、締め落とそうとする。
ユーシア(ゴールドスクリーマー)の防御力に対しては、児戯にもならない。
呆れて振り解こうとするが、ゴールドスクリーマーの出力が下がって、うまく力が出せない。
上空を移動する力も減っていき、落下していく。
「クロウ、限界なら、せめて一分前には言ってよ」
『エリアスを守っていた分を、計上していなかった』
胸部装甲の隙間からエリアスが、申し訳なさそうに頭を下げる。
着地点は毒素に満ちているので、ユーシアは教団の敷地外へと大きく軌道を逸らして、着地する。
人気のない着地点を選んだつもりだったが、そこはコウガ忍者達の本陣だった。
全裸の高額賞金首(賞金総額十七億円)を抱えて降下したので、ギラつく視線が集まる。
流石にアルビオンも、ユーシアとの交戦を中止して、背中に抱き付いたまま様子を見る。
黒焦茶色彩の武鎧に身を包んだ望月ライトが、周囲を制してユーシアに問う。
「独り占めですか? 妬けますね、美少年忍者」
ユーシアは、ライトに返事をしなかった。
「エリアス、飯」
エリアスはテキパキと携帯食を用意しながら、ユーシアがコウガともやり合いそうなので、武者震いに見舞われた。
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