上 下
37 / 55
リチタマ騒動記1 2章 アキュハヴァーラのイージス忍者

三十五話「正確には、聖剣同化型武鎧を装備する、美少女戦士」

しおりを挟む
【バッファロービル二階 メイド喫茶『百舌鳥亭』パーティ&ライブフロア】

 同時刻。
 サラサ・サーティーンは、流したゴールドスクリーマーの動画への反響に、首を傾げていた。
 閲覧数は、過去最大の伸びを見せている。
 高評価も、過去ベスト3に入る勢いだ。
 だが、反響がボヤけて、妙な方向に行っている。
 開店準備で忙しい同僚たちの視線を流しながら、サラサは違和感を突き止めようと、ネットの書き込みを注視する。

【~とあるネットの片隅で~】
「おいおい、今日のサラサ・チャンネル、マーベル化が酷いぞ」
「ヒーロー着地を素でやったよね?」
「揺れたな」
「ミニスカの魔法少女スタイルの方が、良いよね、やはり」
「ぴっちりスーツ型だと、パンチラのロマンが無いものね」
「小童どもめ。ナイスボディの薄型武鎧ぞ? 世界国宝だ」
「あれ、ユリアナ様じゃね?」
「別人だろ」
「あれから十五年も経っているし」
「え? ユリアナ様が魔法少女だったのって、そんなに前?」
「正確には、聖剣同化型武鎧を装備する、美少女戦士」
「細かい!!」
「そんな武鎧が在るの?」
「ウルトラレア物か」
「昔はコミケで、ユリアナ様の同人誌を買い漁ったなあ…」
「そして、お世話になった」
「今夜、世話になろう」
「もう十五年前か」
「ゴールデン・ユリアナ様が爆誕したのは、十五年前か」
「十五年前連呼、やめて、心臓が」
「アニメ化が立ち消えになってから、もう十年か」
「あの顔は二次装甲だから、中身はユリアナ様とは限らない」
「おお、二代目なら、辻褄が合う」
「中身は美少年忍者って情報、ソースは?」
「はああ!????」
「夢も希望も破壊するなよ」
「戦死して空に舞っていたのに?」
「死んでねえよ」
「あのダメージで?」
「詐欺だ」
「くっ、あの巨乳が飾りとか」
「あの巨乳は、ウェポン・ラックだよ」
「すると、揉むと爆発?」
「夢と希望を破壊して楽しいのか?!」
「楽しい!!」
「決闘だ、ばかやtロー」
「誤字が(笑)」
「噛んだ(笑)」
「リップが、ゴールドスクリーマーと命名しとるぜよ?」
「? 本当だ」
「リップ、平気そうだね」
「恋人、存命?」
「死んでいたら、こんな投稿していないだろ」
「ゴールドスクリーマー?」
「確かに、めっちゃ叫んで飛んで行ったな」
「投降勧告も、煩いし」
「騒音被害で起訴されるレベル」
「投降勧告の声、完全に美少年忍者と一致(データ併記)」
「あ、うわっ」
「マジで同一人物だ」
「女装平気だものなあ、ユーシア」
「だが、それはそれで」
「問題はない」
「良い戦闘ユニットだ」

 サラサは、一度スレの閲覧を止めて、整理する。
(聖剣同化型武鎧の存在を知っている? 明かしていないだろ、ユリアナ様が使っていた頃は。バレたとしたら、今日、ユーシアが都会の屋上で変身したからだ。逆算して推測? いや、そうだとしても、食い付き方と断言の仕方が、おかしい。
 まるで…経験者)
 サラサは、「正確には、聖剣同化型武鎧を装備する、美少女戦士」という書き込みをした人物の特定を図る。
 実はユリアナの書き込みというオチだと話は楽だったのに、海外のサーバーを複数経由した、匿名の利用者だった。
 サラサが手繰ろうとすれば、難なく姿を眩ますだろう。
(ユリアナ様にだけ、話しておくか)
 不確定ながら無視できない要因に、サラサがシリアスになっている隙に、ネットの書き込みは他所の方向へと流れていく。

「で、結局、ユーシアの事は、これからゴールドスクリーマーと呼べばいいの?」
「ゴールデン・ユーシア?」
「いや、滅多に変身しないだろう。ユリアナ様と勘違いされるし」
「つーか、ユーシアのフォームチェンジ、多くね?」
「日に何度も変装して、アキュハヴァーラを巡回するし」
「俺は『佐助』呼びしたい」
「通だね」
「ユーシアだって、いつまでも美少年忍者じゃないだろ」
「呼び名が複数になるのも、有名人らしいのでは?」
「覚えるのが面倒だから、看板になる名前だけ知りたい」
「何だろうな」
「本当に暇だな、我々は」
「ふむ、暇が民草の本分か」
「では名付けておこう。新しいヒーローに。名付けておこう、敵に回るかもしれない者に。
 アキュハヴァーラのイージス忍者と」
「なんかラスボス口調の人いるけど、大丈夫?」
「おかあさーん、ラスボスっぽい人がいるよ~?」
「ダメよ、視線を合わせちゃいけません!」


 サラサは珍しく、真面目な顔のまま、パソコン機材を仕舞った。


 ある時は、生身の美少年忍者。
 ある時は、女装した神出鬼没の忍者。
 ある時は、武鎧『佐助』を装備した漆黒の忍者。
 ある時は、雷系聖剣クロウで変身したゴールドスクリーマー。
 姿と戦闘力のバリエーションをコロコロと変えていくユーシア・アイオライトに対し、アキュハヴァーラの人々は個別に呼び分けるのを面倒に感じ、統一したヒーロー名で呼ぶようになる。

 アキュハヴァーラのイージス忍者、と。

 名付け親の名をサラサが知るのは、もう少し後になる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...