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リチタマ騒動記1 2章 アキュハヴァーラのイージス忍者

三十四話 アキュハヴァーラのイージス忍者(13)

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【一級河川・ガンダ川 ネリマ堤防付近】

 喫茶店『柏サンドイッチ』から1キロは離れた河岸まで走り、クロイスは追手が来ない事に気付く。
「無理に追わずに、宿泊場所で捕縛する気か? まあ、小官は、その方がやり易い」
 まだ武鎧は解除せずに、人目の少なそうな河岸を逃走ルートに決めると、クロイスは河原沿いに走りを続ける。
 その足元が、何かの着弾で爆発し、雷撃の混ざった水柱が上がる。
 続いて、飛来物が接近する音響が、届く。
「砲撃?! 音より先に来た?」
 振り返らずに加速しようとしたクロイスの背中に、ユーシア(ゴールドスクリーマー)が放った手裏剣が、三つ命中する。
 それが、10%の力で投擲された、ユーシア(ゴールドスクリーマー)の雷撃帯同手裏剣だとは知らずに、クロイスの武鎧と肉体は爆散し、水柱と共に川へと消えていった。



【アキュハヴァーラ上空】

 クロイスの死亡を確認したユーシア(ゴールドスクリーマー)は、そのまま上空で1キロ射程の雷撃帯同手裏剣について、思案する。
「五本投げて三本命中。精度悪いなあ、長距離だと」
『おいおい、ベテランのS級騎士を手裏剣だけで仕留められたのに、採点が辛いぞ』
「街中では使いたくない威力と知った。以後は、封印」
 街中で使えば、外れた雷撃帯同手裏剣は、大惨事を引き起こしただろう。
 後で損害賠償を求められそうな戦闘をする気はない、ユーシアだった。
『まあ良い。ここで調子に乗らぬ者だからこそ、選んだ』
「さて、帰るけれど…」
 ユーシアは、確かめるのが怖い事を口にする。
「ねえ、クロウって装備を解除する度に、まさか…」
『最初だけだから、安堵せよ。二回目からは、通常の武鎧と同じく、無痛で瞬時に装着可能だ』
「よかった~~。これで安心して、使える」
『既に我々は、子宮内の双子のように、同化した』
「それは、比喩的表現だよな?」
『既に我々は。子供を五人儲けた夫婦のように、深い仲だ』
「宣戦布告か、それは?」

 飛行して仕事場の屋上に着陸するまでに、銀行の後始末はシーラ・イリアスが一手に引き受けたと知らされる。
(ああ、ここで大手銀行に恩を売ろうと。助かる)
 再起動したエリアス・アークが、端末に追加情報を流す。
『死者の内訳は、警備十四名、銀行員六名、重傷者は十八名。黒夜叉隊は、二人が投降し、イリアス商会とユリアナ様で再雇用。他は逮捕と戦死です』
「エリアス! 起きていて大丈夫か?」
『寝ていると、エリアスは置き去りにされると分かりましたので』
「どこで合流する?」
 飛行するゴールドスクリーマーの右肩に、エリアス・アークが停まる。
 身体の各所に、まだヒビがタトゥーのように残っているが、笑顔は元に戻っている。
「今度は頑丈そうな武鎧ですね、ユーシア」
「胸には触るなよ、エリアス」
「言われると却って、突きたくなります」
「痺れるぞ」
「もうセルフで揉み揉みを?」
「しないよ、俺は真人間だし」



【バッファロービル屋上 ラスター号発着場】

 ユーシアがバッファロービルの屋上に着地したのは、ラスター号が着陸した三分後だった。
 レリーはダルそうに機内で仮眠を続け、フラウはユリアナの元へ直行し、リップとイリヤはジュースの自販機前で、ホットココアと飲みながら休んでいた。
 ラスター号の運転後点検をしていたカルタ・ベルナが、ゴールドスクリーマー状態のユーシアを、眩しげに見物する。
「まだ中身はユーシア? ユリアナ様の時と、区別が付かない」
「ほら、紛らわしい。解除、解除」
 ゴールドスクリーマーが真っ二つに割れ、雷系聖剣クロウの人間形態に収縮する。
 変身が解除された途端、ユーシアは貧血を起こして、よろめく。
 クロウより早く、リップがダッシュで駆け寄り、ユーシアを抱き抱える。
 全身を触診しまくり、傷が開いていないかどうか確認する。
「疲れただけ~」
「七階でハヤシシェフに、スタミナ料理を沢山作ってもらおう」
「うん、食べてから、ユリアナ様の所に行く」
「まだ仕事するの?」
 不満そうに、リップがユーシアの頬を、鼻先で突つく。
「だって、重要な話が有るって」
『食べて休んでからでいい』
 エリアス・アーク経由で、ユリアナからの指示が届く。
『ユリアナさんも、食事を済ませて一息ついてから、話そう。二時間後、十八時に五階で。リップとイリヤも、同席するように。重要な話なので、欠席は許しません』
 言われて、ユーシアは、今が十六時だと気付く。
 事件が起きてから、一時間しか経っていない。
 一時間しか。
 傷は塞がっていても、余計に疲れが増していく錯覚が。
(序の口だ。これはまだ、序章だ)
 ユーシアの勘が、そう告げている。
(そして、これからユリアナ様が話す事が…)
 立ち止まっていると、リップが背後から肩を揉んでくる。
「早く食べに行こう。あたしもお腹空いちゃったよ。右手が痛くなってきたし」
「自分も久しぶりの本格戦闘で、空腹であります」
 イリヤが、ひもじそうに追随する。
「ハイボール飲み放題」
 エリアス・アークが、ユーシアの頭の上に乗りながら、うっとりと五分後の食事を夢想する。
「カトンボ乗りにも、何か届けてね」
 カルタが、屋上から去る一同に、差し入れをお願いしておく。
「レリーの分も」
 レリーが返事も怠る程に疲れているので、カルタが気を利かせる。
 一同が従業員用エレベーターに消えてから、カルタはラスター号の後部座席裏から、マニュアルを引っ張り出す。
「久しぶりに、兵装を元に戻すか。うろ覚えだと、危ねえ」
 コノ国空軍中尉は、慣れている作業でも、マニュアルを欠かさない人だった。
 伊達に長生きはしていないので、戦争の始まる前は、自然とスイッチが入る。


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