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リチタマ騒動記1 2章 アキュハヴァーラのイージス忍者

二十四話 アキュハヴァーラのイージス忍者(3)

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【スリーポイント銀行 アキュハヴァーラ支店 屋上 ヘリ発着場】

 十四時五十五分。

 着陸十秒前に、パイロットのカルタ・ベルナは一応の注意をする。
「着陸しますので、会話はしないように。着陸と同じタイミングで舌を噛んで病院に直行する羽目になった者が、二十年に一度は出ますので」
「そんなマヌケな事例をユリアナさんに当てはめ、もがもごっ」
 注意事項を守らずに会話をしようとしたユリアナの口を、鉄仮面メイドがハンカチで上品に塞ぐ。
 優雅にラスター号を着陸させると、カルタ・ベルナは後部座席で口にハンカチを突っ込まれたまま憮然とするユリアナに声をかける。
「もういいですよ」
「危うく、ご主人様が唯一の取り柄を噛みちぎるところでした。未然に防げましたので、フラウにボーナスを」
「ユリアナさんがフラウを褒め称えて、一生涯尊敬してあげよう。新しい星を見付けたら、フラウ万歳星と名付けると約束する」
「ボーナスの方が、適切です、ご主人様」
「カルタ・ベルナ、君が証人だ。フラウがユリアナさんを恐喝しようとした件を起訴する時は、是非にも証言を頼む」
「ボーナスをくれるなら、もっと嘘臭い証言でもしますけど」
「そのネタで弄るのは、無駄だぞ。ユリアナさんは、リップへの誕生日プレゼントを受け取りに来ただけだからな」
 ユリアナ・オルクベキは、メイドのフラウだけを伴って、ラスター号から降りる。
 迎えに来た銀行の支店長からの挨拶を笑顔で受けながら、ユリアナは用事をとっとと済ませにかかる。



【スリーポイント銀行 アキュハヴァーラ支店 三階 VIP室】

 十五時。

 銀行の一般窓口が閉まる頃に、ユリアナは支店長と警備のスタッフ三人が立ち会う中で、荷物の入ったカバン型金庫を受け取る。
「では、中身の確認をします」
 ユリアナの指紋で、カバン型金庫が解錠される。
 中には、アサキ帝国で流通している中でも最高品質の大型金貨が、ギッチリと詰まっていた。
「ん?」
 ユリアナが眉を顰めたので、支店長が狼狽する。
「な、何か、異常でも?」
「あー、いや。例年より、多めだったのでね。異常ではないよ」
 中に入っていた手紙を一読し、金額が多めの事情を読んだユリアナは、カバン型金庫を施錠すると、退室しようとする。
 隣りにはフラウがいるし、屋上までの帰り道は、銀行の用意した警備員で固められている。
 ユリアナは動揺せずに普通に立ち去ろうとするが、持ち運び出来る一個のカバンとしては、史上最高金額かもしれないという考えのせいか、ユリアナの歩きは、やや早めだった。
 その僅かな差で、ユリアナは助かった。



【スリーポイント銀行 アキュハヴァーラ支店 三階 VIP室付近 中央階段(三階~一階)前】



 その一団を眼下に観た瞬間、ユリアナ・オルクベキは所持している携帯端末の警報ボタンを入れた。
 部屋を出るのが三秒遅ければ、間に合わなかっただろう。
 三階から一階へ伸びる中央階段の前で、四人の集団が、警備員たちの制止を意に介さず、武鎧を装着して強行突破を図る。
 青いロングコートを武鎧状に展開した女魔法使いヴァラが、ごく小規模だが威力の大きい爆発魔法の連発で壁を作り、警備員たちを弾き飛ばしながら四人が階段を駆け上がるのを、ユリアナは見下ろす。
 警備員の中でB(バスター)級の実力者が武鎧を装着して四人を停めようとするが、爆発魔法に逆らって突き進もうとした間合いで、黄巾の武鎧を装備したニルサから、二条の布槍を頭部に刺されて即死した。
 武鎧は大きな回復能力を備えているが、装着者が死亡しては機能が働かない。
 三階で支店長の側に、まだ二人のB級騎士が控えていたが、一団の先頭に『黒夜叉』の武鎧を見ると、足が止まった。
 『黒夜叉』の威容は、武鎧を着て戦う者ならば、常識として知っている。
「勝てないから、戦わなくていい。ユリアナさんが話をつける」
 ユリアナは、彼らに危険を冒させない。
 二人のB級騎士はユリアナに任せて後方に控え、フラウも脇に控える。
 一団は階段を登りきる直前で、ユリアナの前で、立ち止まる。
 どちらも手を出せない、凪の時間が発生する。
 猛る黒い魔人を象った武鎧が、ユリアナの目前で軽く会釈をする。
「ご無礼を、皇女殿下。金目当ての銀行強盗です。手にした物が目当てです。此方にお渡しください。速やかに引き上げます」
 『黒夜叉』クロイスの提案に、ユリアナはカバンをしっかりと抱き締めて、階段の上でダンゴムシのように丸まる。
「…あのう、皇女殿下? 金貨の入ったカバン一つで、引きますので」
「ユリアナさんの身体を叩いて開いて強奪するがいい。その時に付けられた怪我をネットにアップして、お前らの評判を地獄の便所の配管並みに落としてやる」
 絶句するクロイスに代わり、ヴァラがユリアナの前に出る。
「傷痕は残らないな。カバンを貰った後は、全て吹き飛ばす」
「指は残せよ、鍵だ」
 ニルサが、ユリアナの指を得ようと、武鎧の布槍を放とうとする。
 二人のB級騎士がユリアナを守ろうと反応するが、『黒夜叉』クロイスが段違いに早く反応して、二人を瞬足の蹴り技で階段の下に叩き落とす。
 落下した二人に向けて、ヴァラが止めの爆発魔法を叩きつける。
 武鎧でも防ぎ切れない爆発魔法のダメージが、二人のB級騎士を回復不可能な肉塊になる程に破壊する。
「無駄死には、金銭で回避して欲しかったですね、皇女殿下」
「強盗殺人犯に対しては、毎度処刑で済ませているのでな。命乞いをするのであれば、武装を解きなさい。靴にはキスしなくてよい。その風習は嫌いだ」
 ダンゴムシ状態でも強気のユリアナを説得する自信がなくなり、クロイスはニルサに好きにさせる。
 黄巾騎士は、相手が皇女でも無造作に遠慮なく、布槍を伸ばそうとする。
 その不躾な布槍を、脇に控えていたフラウが、スカートの中から取り出した大鋏二本で迎撃する。
「メイドさん、生身で武鎧に立ち向かうなよ」
 冷やかしながら、ニルサは鉄仮面メイドが繰り出す大鋏を、余裕で捌く。
 それでもユリアナを守ろうとするフラウに、ニルサは感心を示す。
「あんた、すごいメイドだな。身体も」
 フラウのナイスボディに興が乗ったのか、メイド服を切り裂いて、中破状態を楽しむ。
 フラウはセクハラ行為を相手せずに、主人に断りを入れる。
「ユリアナ様、少し離れます」
 フラウは切り裂かれたメイド服の布地を黄巾の武鎧にわざと絡ませて、ニルサ諸共、階段の下へと落下する。
 フラウの落下に、ダンゴムシ状態だったユリアナが、思わず片手を伸ばしてしまう。
 ヤクサが、ユリアナの手に視線を向ける。
 若草色の武鎧は、ヤクサの視覚情報を自動で解析し、有益な情報をピックアップする。
 一瞥で、ヤクサの武鎧は、ユリアナの指紋を読み取った。
「もう鍵は移した。その皇女は、必要ないぞ」
 ヤクサがカバンを電磁鞭で突くと、カバン型金庫は開錠してしまった。
 中から、膨大な量の大型金貨の輝きが、漏れる。
 クロイスは、一応、ユリアナに会釈をしてから、告げる。
「強引にカバンを取るから、抵抗しないでくれ」
 クロイスの手が伸びる前に、ユリアナは命令を発する。

「先に倒すべきは、青い魔法使いだ」

 ユリアナが誰に命令を下したのか、クロイスは察して次の行動に移った。
 ヴァラの足元の影から伸びた二本の黒刀に対し、クロイスは全身で影に覆い被さる。
 『黒夜叉』クロイスの胸部と両腕の装甲が、肉ごと斬撃で斬り飛ばされる。
 ヴァラがクロイスを抱えながら、影に向かって爆発魔法を連発する。
 一瞬、ヴァラの影が、周囲から消えたようにも見えた。
 『黒夜叉』クロイスの背中に移動して張り付いていた影が、ヴァラを中に引き摺り込む。
「逃げな!」
 ヴァラは重傷のクロイスを突き放すと、影の中に姿を消した。
 替わりに影の中から、武鎧『佐助』を装着したユーシア・アイオライトが飛び出て、ユリアナの前に立つ。
「ユリアナ様。敵に聴かれる形で命令したら、相手に対策を取られてしまいます。以後は改良を」
「反省会は、フラウも助けてからにしろ」
 ユリアナはカバンを施錠し直すと、ひと息吐いた。
「あと、爆風でスカートが捲れて、黄色いパンツが丸見えです。早く隠した方が、エレガント」
「そういうのを言わずに『そっと』隠すのがエレガントなのだよ、バカ忍者!!」
 フラウに一刻も早く側に戻って来て欲しい、ユリアナだった。

 『黒夜叉』クロイスは、ユーシアの持つ黒刀が一時的な魔力付与で強化された上に、『佐助』の重力操作も加えて強力な斬撃技にしたと見抜く。
 通常なら人のいる屋内では使えない威力の斬撃技だが、既に爆発魔法の連発で、銀行内は廃墟と化しつつある。
 周囲の被害を気にして繊細に戦う必要なしと見做して、美少年忍者はタガを外して戦っていると判断し、クロイスはウンザリする。
 そして『黒夜叉』クロイスが戦闘不能になった隙を逃さずに、ユーシアが止めを刺しに来る事にも、ウンザリする。
「ヤクサ、五分稼げ」
 そう言うと階段で蹲り、武鎧の回復機能に身を任せる。
 胸部と両腕の装甲を欠いても、武鎧の回復機能は装着者の出血を止め、損なった筋肉を急速に修復していく。
「三分で治せます。甘えないで」
 ヤクサは電磁鞭の出力を最大にして、ユーシアの斬撃技を防げる規模の防御壁を発生させる。

 それに対し、ユーシアも対策を重ねる。
「エリアス、武器強化を、もう一段重ねて。銀行ごと、こいつらを破壊する」
「無茶な! 営業中の銀行の中ですよ!? もうちょっと繊細に行動を」
「エリアス。ここは大手銀行の支店だ。銀行強盗に襲われた時の保険も、バッチリ入っている」
 ユーシアは、武鎧越しでも分かる程に、ニヤリとドヤ顔。
「つまり、ここでは全力全開でも、建物の損壊や巻き添えを喰らった人々への賠償金を気にしなくていい。惜しみなく攻撃しよう」
 ユーシアの責任転嫁を恥じない考えに、エリアスは呆れ果ててツッコミを忘れた。
「今の暴言は支店長に聞こえたから、印象は最悪だぞ、ユーシア」
 ユリアナは忘れずにユーシアにツッコミを入れてから、部下のやる気スイッチを、押しにかかる。
「このカバンには、お祖父様からリップへの手紙も入っている。守りきれ」
 ユーシアの全身から更なる闘志が発動するのを見届けてから、ユリアナは屋上へと避難した。

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