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第28話 優柔不断

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俺の派遣先は以前から評判が悪い会社で、人使いが荒く平気で無茶な要求をしてくるので有名だった。
仕事の切れ目で縁を切ろうと会社が考えていた矢先に不況になり、切るに切れずに続いている。
こんな派遣先でも仕事があるだけありがたいと言うのが会社の本音だろう。

ただ俺が派遣される前に聞い評判は、そんなに悪いものではなかった。
派遣先の体質が変わったわけではなく、担当者が変わったのだ。
それまで岸辺という強引で悪名高いやつから中居という男に代わり、だいぶ当たりが柔らかくなったのだ。

俺も岸辺時代の悪評を聞いていたので身構えながら派遣に出たが、中居は意外と優しくホッとしたものだ。
しかしそれは最初だけだった。
中居は優柔不断の見本のような芯のない軟体動物のような男だったのだ。

中居は人当たりが良く言葉も優しく、いわゆる良い人ではある。
しかし一貫性がなく、言うことがフラフラと変わる。
考えが足りなかったから言うことが変わるのではなく、どうやら周囲に振り回されているようなのだ。
ノーを言えない男だった。

中居はシステムの基礎的な部分を設計し、我々はそれを受けて概要設計や詳細設計をする。
中居はシステムを使う人たちの要望を汲み、他のシステムとの連携部分があればその基本仕様を決めるために調整する。
我々はそれを受けて概要設計書を作り、次に詳細設計に落とし込んでプログラムの製造へと繋げる。
しかし中居の設計がいつまで経っても固まらず、変更ばかり繰り返していた。

中居が変更ばかり繰り返しているのは、どうやら岸辺に振り回されているようだ。
岸辺が担当している別のシステムと連携する部分があるのでが、そこの仕様がコロコロ変わるらしい。

システム同士が連携する場合は、当たり前だがお互い事前に仕様を決めておかなければならない。
仕様は勝手に変えていいはずもなく、もし変更が必要になったらお互いの影響度や必要性などを踏まえて検討すべきものだ。
しかし中居は岸辺の言われるままになっているようで、それでは困ると何回も言ったのだが中居は変わらない。
中居に振り回されるのは俺だけではなく、浜口課長も畑田君も犠牲者だった。
ようやく変更が終わってもまた違う変更が来て、まるで賽の河原の石積みだ。

俺たちと中居の関係は日を追うごとに悪化してピリピリしていった。
中居のせいで残業は増え、ときには徹夜になることもあり、日々ストレスが溜まっていった。
浜口課長も閉口していて、会社の課長会議で現状を報告してくれていた。
そのおかげでここの酷さは社内に知れ渡っていったが、だからといって他に仕事がない以上、会社も打つ手はない。
俺とはしっくりきていない業田課長ですらここの酷さには同情していて、前だったらとっとと縁を切っているんだけど今は状況が悪いと同情していた。
同情されたところで状況は何も変わらないのだが、あの業田課長が俺と同じ意見になるのは珍しかった。
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