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第23話 暗い新年

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新年を迎えたが、こんな暗い気持ちで迎えた新年は初めてだ。

1年ほど前は社員旅行が海外になり冬のボーナスは25%アップと、我が世の春だった。
しかし、その春は一瞬で消え去ってしまった。

会社は4月ごろには上向いてくると読んでいるが、わずか数ヶ月で上向くものだろうか。
そんな甘い見通しなど信用できるはずもないのだが、今はそれしか希望はない。
疑う心を覆ってでもそれを信じるしかない。

暗い正月が終わり、まるで鉛が入ったような重い気持ちを抱えて例年休んでいた仕事始めの日に出社した。

新年の挨拶もそこそこにさっそく情報交換をはじめたが、相変わらず明るい情報はなかった。
副社長の持っている土地を担保にすればあと数千万円借りられると社長が言ったらしいとか、どこまで本当か疑問だが胸クソ悪くなる噂だけは捨てる程あった。

色々な噂を総合すると、会社は今まで目指していた社内開発の方針は完全に捨てたようだ。
これまでの会社の動きを見ていると、規模は大幅に縮小するものの社内開発もゼロにはしないような動きをしていたのだが、ここにきて完全に派遣のみで生き残る道を選んだらしい。
もしそうだとすれば、いま自宅待機になっている若い連中が復帰できる可能性は断たれたことになる。
若い技術者を受け入れてくれる派遣先など、この状況ではまずないだろう。
社内の仕事はなく派遣にも出られないとなると、居場所はどこにもない。

俺のような中堅以上なら、大幅に減ったとはいえ派遣の需要はゼロではないから、なんとか生き延びることはできそうだ。
ただ不況で仕事量は激減し単価も大幅に下がり、人使いの荒いろくでもない派遣先ばかりではあるが。

単価が大幅に下がったということは、またボーナスが出るようになる日は相当先ということだろう。
それ以前に今月から減らされる給料すら、いつ元に戻るのか不透明だ。
そんな会社にしがみつく意味があるんだろうか、今すぐにでも辞めてやりたい。
解雇されても地獄、生き残れても地獄か。


同業他社の噂もいくつか聞いたが、どこも同じく自宅待機やフロアを縮小して固定費を削減、そして派遣で生き残る作戦らしい。
ただウチと違って早い時期に危機感を持った会社が多く、そういった会社は不況に強い官公庁関係の仕事を早い時期から強化していた。

官公庁の仕事は単価が安いが安定した仕事量があり、不況にもそれなりに強い。
もちろん不況の影響はゼロではないが民間ほど急激な落ち込みはないので、対応するだけの時間が稼げる。

ウチの会社も以前は官公庁の仕事をしていたが、単価の安さを嫌って関係を切っていた。
そうでなくても生産性が低くて儲けが薄い会社なんだから、その上単価が安かったら嫌がるのもわかる。
でも本来ならば生産性を上げて、そういった仕事でも続けられるようにすべきだ。
もし生産性が高ければ官公庁の仕事も細々ながら続けていられただろう。
いまさら言ってもしかたがないが、もっと社員に厳しくして生産性を上げる努力をすべきだった。

社員に甘い社風のおかげで居心地は良く定着率も良かったが、そのツケがこんなところに出るとは。
もっとも安月給のくせに厳しい会社では離職する人が増えるだけだろうから、口で言うほど簡単なことではないのだが。

営業は恥を忍んで以前関係を切った官公庁の仕事を取ろうと頭を下げに行ったが、門前払いだったそうだ。
そりゃそうだ。
こっちから切り捨てた相手に今さら仕事を下さいとお願いしても、簡単に仕事を出してくれるはずがない。
平時ですらそうだろうが、ましてや今は非常事態とも言える不況の真っ只中だ。
会うだけ無駄と判断されて門前払いされるのも宜なるかなである。

会社幹部が危機感を持つ遅さが災いして全てが後手にまわり、気がついたら金額的にも環境的にも劣悪な派遣先しか残っていないというのが現状だ。
俺の派遣先も昔だったらとっくに縁を切っているほど条件が悪かった。
単価も安く契約条件も足元を見られて劣悪、それでも妥協するしかなかったそうだう。
しかし、もっと悲惨なのが二次派遣や三次派遣のケースだ。

二次派遣とは、派遣先の名を語ってさらに違う会社に派遣される形態で、要するに孫請けだ。
他社の社員のふりをするのだから、当然ウチの会社名は一切出せない。
派遣先の社員に電話する時もウチの会社名を名乗ることはできないので、うかつに電話もできない。

会社のホワイトボードに課員の氏名と派遣先の電話番号が書いてあるが、二次派遣の社員の欄には赤字で「連絡注意」と書かれていた。
全体の2割ぐらいが連絡注意、中には三次派遣で二重赤丸で注意喚起されている人もいた。

おそらく二次派遣は派遣法違反なんだろうと思うが、そんなことを言っている場合ではない。
不況になるとなんでもありというか、違法もクソも倒産よりはマシと言うプチ無法状態だった。

こんな状況に、俺はそろそろ嫌気がさしてきていた。
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