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生臭くて、濃い、匂い
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先ほどから異様な匂いがしている。初めて嗅ぐような気がするが、前にどこかで嗅いだことのある感じもする。
大勢の人間から発せられる湿り気のある熱気と一緒に、生臭いような匂いがこの部屋に充満している。
バーカウンターの席に座っていた私のところへ一人の男がやってきて一言二言声を掛けた後、私の手を引っ張って赤い大きなソファのところへと連れて行った。私は今「群衆」に引き合わされようとしている。彼らに近づくにつれそのむせ返るような生臭い匂いが強くなってくる。
私よりいくつか年上に見える男が私を革張りの赤いソファに座らせようとした時にその匂いの正体が分かり、一瞬、動揺のために思考が停止した。
ソファの上や大理石の床……そこら中に散らばっている色とりどりのコンドーム。どれもが半分ほど白く濁っており、すでに使用した後だった。
その時、この不思議な生臭い匂いを嗅いでなぜ私は「嗅いだことがある」と思ったのかが分かった。しかし、その記憶は元カレとセックスしたときのもので、1,2年ほど前の記憶だったからすぐには分からなかった。
私はその元カレ以外で“その匂い”を嗅いだことがなかったから、誰とも知れない何人もの男たちの、もっともプライベートな、もっとも秘密の匂いを、いきなり嗅いでしまい私は頭が揺さぶられていた。そのため耳元で隣の男が爆音の音楽に負けじと声を張り上げて話し掛けて来ていたが、まともに返せていなかった。
彼の手はすでに私の肩にあり、素肌は密着していた。
耳元でいくつか質問をされたが、その度に彼の酒の匂いと口臭が私の鼻に触れた。
「君ここに来るの初めてでしょ?」
「は、はい……」
「緊張してる?」
「はい……」
「大丈夫だよ。はじめはみんなびっくりするけど、じきに楽しくなってくるって。それに、芸能人がたくさんいるけど、大人数ですっぽんぽんになりながらセックスしてたら一般人と変わらないって思えてくるから」
「そ、そうなんですか……?」
「うん。あそこらへんに誰でも知ってる超有名歌手や、売れっ子のグラビアアイドルとか、テレビでよく見るタレントさんとかいるけど、みんな混ぜこぜになってるからパッと見わかんないでしょ?」
彼が指さした先を見た。確かに誰もがお互いの身体に触れ合っているため、一見、誰が誰だか分からなかった。しかし一人ひとりの顔を意識して見て行くと、見覚えのある顔が目に飛び込んできた。
確かに「誰でも知ってる」レベルの、かなり有名な女性歌手。彼女が男性の上に乗っていかにも気持ちよさそうな表情で腰を振っている。
この部屋に入ってから色んな芸能人のセックスを見てきて、何度も衝撃を受けたが、これが一番だった。
彼女の音楽はドラマやCMでも使われていてどこでもよく聞くし、何よりこの会場に来る時だって彼女の曲を聴きながら来た……私は前から彼女のファンで、ライブとかも行ったことあるし、彼女みたいに色っぽい大人の女性になりたいと思って同じショートヘアにしてみたりした(まさに今の自分の髪型がそう)。
何をどうしたらあんなに体中から色気を出せるような女性になれるんだろうって思ってたけど、こういうことだったのか……。
いつもの派手でセクシーなステージ衣装どころか、何の衣類も身に着けていない裸の彼女の姿を見てそう思った。滑らかに腰を振っている。股を男性に擦りつけるように。気持ちよさをじっくり味わっているのか、目は瞑っていて表情が恍惚としていた。
――その光景に目を奪われていた私は、ここではじめて自分が“濡れている”のに気づいた。きっと腰を上げるとソファにべったり自分の液体が付いているのだろう。そう考えると、恥ずかしくてその場で股をキュッと閉じるしかなかった。しかしその拍子に、熱くなっている私の下腹部の「いたたまれない感じ」はさらに強くなった。
大勢の人間から発せられる湿り気のある熱気と一緒に、生臭いような匂いがこの部屋に充満している。
バーカウンターの席に座っていた私のところへ一人の男がやってきて一言二言声を掛けた後、私の手を引っ張って赤い大きなソファのところへと連れて行った。私は今「群衆」に引き合わされようとしている。彼らに近づくにつれそのむせ返るような生臭い匂いが強くなってくる。
私よりいくつか年上に見える男が私を革張りの赤いソファに座らせようとした時にその匂いの正体が分かり、一瞬、動揺のために思考が停止した。
ソファの上や大理石の床……そこら中に散らばっている色とりどりのコンドーム。どれもが半分ほど白く濁っており、すでに使用した後だった。
その時、この不思議な生臭い匂いを嗅いでなぜ私は「嗅いだことがある」と思ったのかが分かった。しかし、その記憶は元カレとセックスしたときのもので、1,2年ほど前の記憶だったからすぐには分からなかった。
私はその元カレ以外で“その匂い”を嗅いだことがなかったから、誰とも知れない何人もの男たちの、もっともプライベートな、もっとも秘密の匂いを、いきなり嗅いでしまい私は頭が揺さぶられていた。そのため耳元で隣の男が爆音の音楽に負けじと声を張り上げて話し掛けて来ていたが、まともに返せていなかった。
彼の手はすでに私の肩にあり、素肌は密着していた。
耳元でいくつか質問をされたが、その度に彼の酒の匂いと口臭が私の鼻に触れた。
「君ここに来るの初めてでしょ?」
「は、はい……」
「緊張してる?」
「はい……」
「大丈夫だよ。はじめはみんなびっくりするけど、じきに楽しくなってくるって。それに、芸能人がたくさんいるけど、大人数ですっぽんぽんになりながらセックスしてたら一般人と変わらないって思えてくるから」
「そ、そうなんですか……?」
「うん。あそこらへんに誰でも知ってる超有名歌手や、売れっ子のグラビアアイドルとか、テレビでよく見るタレントさんとかいるけど、みんな混ぜこぜになってるからパッと見わかんないでしょ?」
彼が指さした先を見た。確かに誰もがお互いの身体に触れ合っているため、一見、誰が誰だか分からなかった。しかし一人ひとりの顔を意識して見て行くと、見覚えのある顔が目に飛び込んできた。
確かに「誰でも知ってる」レベルの、かなり有名な女性歌手。彼女が男性の上に乗っていかにも気持ちよさそうな表情で腰を振っている。
この部屋に入ってから色んな芸能人のセックスを見てきて、何度も衝撃を受けたが、これが一番だった。
彼女の音楽はドラマやCMでも使われていてどこでもよく聞くし、何よりこの会場に来る時だって彼女の曲を聴きながら来た……私は前から彼女のファンで、ライブとかも行ったことあるし、彼女みたいに色っぽい大人の女性になりたいと思って同じショートヘアにしてみたりした(まさに今の自分の髪型がそう)。
何をどうしたらあんなに体中から色気を出せるような女性になれるんだろうって思ってたけど、こういうことだったのか……。
いつもの派手でセクシーなステージ衣装どころか、何の衣類も身に着けていない裸の彼女の姿を見てそう思った。滑らかに腰を振っている。股を男性に擦りつけるように。気持ちよさをじっくり味わっているのか、目は瞑っていて表情が恍惚としていた。
――その光景に目を奪われていた私は、ここではじめて自分が“濡れている”のに気づいた。きっと腰を上げるとソファにべったり自分の液体が付いているのだろう。そう考えると、恥ずかしくてその場で股をキュッと閉じるしかなかった。しかしその拍子に、熱くなっている私の下腹部の「いたたまれない感じ」はさらに強くなった。
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