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不思議な爺さん
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ハーーーーーくしゅっ!!
花粉が飛び交うそんな時期、マスクを外せない俺が居た、小学校六年生の四月、少し田舎に住んでる俺はクラス替えなんてなかった、一年の頃から同じ顔、知った性格、変わらない俺たちは成長とはどんなものなのかまだ良く掴めなかった、本当に六年生なのだろうか、俺が一年の時の六年なんて大人と変わりなかったように見えた、どさどさ地響き鳴らして教室の扉を乱暴に開けるんだ
「給食余ってませんかー!!!」
こんな時だけ敬語を使うんだ、都合が良い、しかし一体どれだけ食べられるんだ無限に食べられるのか、胃が宇宙にでも繋がってるのか、ああ、そうだおばあちゃんの家に行くと料理が山のようにでてくる、おばあちゃんは俺が無限に食べられると思ってるのか、そうめんお代わりいる?ってもう三杯は食べたよ何グラム茹でたんだ、いやキロかキロだな?キロでしょおばあちゃん、俺一人だよ孫はまだ俺1人そんな食べられないよ!
何となくだけどその気持ち理解できたよ、六年生で理解したよ大したもんだろ?
そもそも体が倍もでかいんだ胃だって倍、喉の太さだって倍、怪物だよ、怪物、六年生って、すげー、しかし配給はどうなってんだ、六年生と一年生の量同じなのか?余ってんだぞ?しかも毎日、長くやってるならそれくらい把握できるだろ?ははーんさてはわざと残るようにして六年生に取りに来させて六年生凄い!!を演出してんだな??まあいいんだそんな事、一年の時はそんな風に思ってた、しかし、どうだ実際なって見るとまあ六年生ってこんなもんか?
ぐー……食欲だけは立派に成長したみたいだ
ハーーーーーくしゅっ!!
だあーー!くそっ!マスクこれ意味あるのか?さっきから止まんねーよ!鼻水でるからその度に外してカンデおまけに目も掻きすぎて充血しちゃってるよ
「ヨシ君辛そうだな、マスクなんかしちゃって珍しい」
ヨシ君「ケンちゃん、そうなんだよ今年から流行ってるじゃん?花粉症っての、もしかしたら俺もかかるのかなーなんて思ってたら、ほら、この通り、はは」
ケンちゃんは俺といつも一緒なんだ、唯一無二の存在、親友、一心同体、俺なんかよりも少し大人びてるんだ、熱くなる俺をいつも抑えてくれる
ケンちゃん「なあ、ヨシ君プラシーボ効果って知ってるか?」
ヨシ君「うなぎいろ効果?」
ケンちゃん「聞き間違いえぐいな、ちげーよなんだよ何色だよそれ! 黒と灰色の間かよ、いや青っぽい? そんなこといいからプラシーボだよプラシーボ」
ヨシ君「何それ?」
ケンちゃん「俺も良くは知らないけどなんか思い込みで病気が治ったりするんだよ、学校の裏に山あるじゃん?そこに詳しい爺さんいるらしいから行ってみたら?」
ヨシ君「思い込みで? そんなんで治ったら医者要らねーよ嘘つくなよ、ピノキオかよ」
ケンちゃん「善意で教えてやったのになんだよ、じゃあ俺今日塾あるから、また明日、行くんなら明日感想聞かせてよ」
ヨシ君「ふーん、まあうなぎ何とか効果よりもそんなとこにいる爺さんのが気になるから行ってみるよ 」
かー、かー、
小学生にとっては広大な土地の裏山、低学年が作ったであろう秘密基地も如何わしい本にも特に目もくれず、探し回って早2時間、空がオレンジ色に染まり始めた、こうして1日が終わってしまう夜の始まり、月に映った模様も俺にはウサギに見えたことはない
ヨシ君「ケンちゃん勉強終わったのかな?2時間経つけど誰もいない……今日は来ない日なのかな……」
風が吹いた、正面から、目に砂埃を受けながら瞬き数回、涙が目の異常を訴える、侵入者を追放、目尻に追いやられた侵入者は巨人の手に拭われた、ざわざわ揺れる山の声に耳を澄ましたって理解不能、君と溶け合うにはまだ、日が浅いのかも。
ざわざわ
びくっ
ヨシ君「なに?……誰?……」
「何か探しものかね?」
ヨシ君「え……ケンちゃんの言ってた爺さんか?……爺さんここで何やってんだ?」
爺さん「いやー年寄りになると散歩が楽しくなるんじゃよ、特に生まれ育ったこの町の何千回と入ったこの山はなあ‥‥」
ヨシ君「爺さん、俺の友達がさあ、思い込みで治っちゃう何だっけな、むなげイボ効果ってやつを俺に教えてくれたんだけど、爺さん詳しいんだろ?今俺、花粉症辛くてうんざりしてんだ、教えてよ」
爺さん「なんじゃ?むなげイボ効果?嫌な響きじゃな一生かかりたくない、あ、もうそんなに寿命長くなかったうひゃひゃひゃひゃげほっゲホっ…………うひゃひゃひゃひゃひゃ」
ヨシ君「こえーよ爺さんむせたとこで何でやめねーんだよねアンコールしてねーよ」
爺さん「何じゃいむなげイボってどんなんじゃい」
ヨシ君「思い込みで治るとか何とかそんな感じ」
爺さん「プラシーボじゃろうそれプラシーボ効果」
ヨシ君「ああ、そうそう、それだ」
爺さん「そうか知りたいか、まあそんな事より花粉症に効く飲み物持ってるからこれ飲んで今日は寝なさい、明日には良くなるじゃないかのお」
ヨシ君「おお!爺さんすげー!そんなの持ってんのか、むなげ何とかはもうどうでもいいや、ありがとっ!」
爺さんが懐から取り出した透明な液体を感謝の気持ちを声に出したと同時に爺さんから両手で受け取った……
なんだよこんないい物くれちゃってさ、食後か?食前か?んーいつでもいいかっ、取り敢えずご飯食べてお風呂入った後、寝る前に飲もう!
翌日
音のしない朝日がカーテンの隙間から差し込んだ、ギラリと細長く続く光線はほんの薄暗さも許容しない、今日はいつもとは違う朝、何度だって経験したこの朝の時間も今日だけは、数少ない特別な時
ジリリリ
パチリと素早く両目が弾く、そこには僅かな粘着だってありはしない、部屋の中、空気は同じ、匂いだって変わりない、まだ実感はないが、ただ何故か確信している俺はもう花粉症ではないと、飛び起きた、朝のルーティンを無意識と二人三脚でこなしていく、この見えない補助は何だろうか、めんどくさい事だって淀みなく終わる、朝ごはんを食べた今日はイチゴジャムを塗ってみた、もちろんパンに、ご飯に塗ってる奴見たことあるの?ごめんごめん、挑発的だったね、ランドセルを背負う事はなく片方にかけてカッコつける、6年生、少しランドセルが恥ずかしいそして靴も半履きでよろめきながら、玄関を駆け抜けた、僕を遮る風を切る、車輪のように回転する脚、僕はうっすら笑っている、もちろんマスク何て着けていない
ヨシ君「うはっすげー効いてる、何も感じねーくしゃみは?痒みは?あはっ、すげーや」
学校の正門
ケンちゃん「おーヨシ君おはよ!マスクないじゃん!絶対いい事あったろ?」
ヨシ君「そーなんだよ!ケンちゃんにありがとう言わなくちゃ!もー効果抜群すっかり良くなったよ、花粉症って何だっけ?あはは、そうだ爺さんにちゃんと治った報告しに行かなくちゃな、、そういえば治ったのはいいけどケンちゃんの言ってたあの、、ヌラシイヌ効果なんて必要なかったよ?何か無味無臭の液体貰ったんだよ、水みたいだった」
ケンちゃん「ヌラシイヌってなんだよびちょびちょの犬かよ、凄く乾燥させたい、そんで、、何言ってんだ俺は……まあいいや……へー爺さんいたのか、で水飲んだら治ったのか、凄いな」
ヨシ君「今日一緒に行こうぜ!今日は塾ないだろ!会いたいだろ?」
ケンちゃん「いやー俺は良いよ特に何も悩んでないし、あと知ってるだろ俺中学受験するから勉強忙しいんだよこれくらいの時期からやらなくちゃさ」
ヨシ君「ふーん、まあケンちゃん頭良いもんなー中学からは別々になるんだよなー……寂しいけど、頑張って!」
ケンちゃん「おーありがとう」
キーンコーンカーンコーン
この音を聞くだけで眼が覚める、授業に句読点を打つその鐘の音は俺たちを何度だって蘇らせてくれる……まるで別世界だ、1秒前まで眠りに落ちる崖っぷち、それが今や無限に広がる大地のど真ん中、目を閉じて走ったって危険なんて感じない、何で俺たちは授業を受けるんだろう、ケンちゃんみたいな頭の良い人たちは理解しているのだろうか……そんな事、頭の悪い奴が考えたって答えなんか見つからない、雲1つない青空の下、広い大地、僕をぐるりと取り囲む地平線は何を想うのか、走ってこいと呼んでいる、僕にはそう聞こえるただ、ただ、俺は頭が悪いから、走り方が分からない。
はっ
何を考えてんだ俺は、まだ小学6年、遊んでなんぼじゃん、ケンちゃんには悪いけど親の言いなりで勉強するなんて、俺にはゴメンだね……
自転車を乱暴に駐輪場から取り出すと、全速力でこぎ始めた
ガシャーン
派手に転んだ恥ずかしい、自転車で転んだなんて誰にも知られたくない、全然平気だよ、なんて澄ました顔して立て直すんだ、不思議とその一連の間は痛みをまるで感じない、だから何処を怪我したかなんて探さないと分からない……っったあ…………なに?……うわーパンク?……なんだよ空気入れたばっかだったじゃん、まあ歩いて行ける距離だから幸いだけど、はーーお母さんなんていうかなぁ、、、痛くも何ともないんだよと、そんな顔で道を自転車を引いて歩いた、どこ怪我した?右に転倒したから右か……あー痛い……ここか、右肘を思いっきり擦りむいてんじゃん血が……痛ったー。
裏山
前回と同じ場所、そこに爺さんがいた
ヨシ君「やあ!おかげで治ったよ!花粉症!爺さん博士か何かか?」
爺さん「じつはのう、昨日の薬はただの水じゃよ」
ヨシ君「え?」
爺さん「昨日お前さんは、ただの水を花粉症に効く薬だと少しも疑う事なく飲んだ、その思い込みが身体に変化をもたらすんじゃよ、特別な成分なんてなに1つない、不思議じゃろう?人間ってのはまだまだ可能性に溢れている、もう気づいたろう?それがプラシーボ効果と言われるものじゃ」
ヨシ君「そうだったのかすげーじゃん!無敵じゃん!なんか俺、最近ちょっとだけ落ち込み気味だったかも、何でもネガティブに考えちゃってさ……きっとそれが原因だったのかも」
爺さん「そうじゃろう、若い時は経験も浅く落ち込んだ時の処方箋も見つけられない人が多いんじゃ、小さい時は純粋に天然に笑う事が出来るんじゃ、それは彼らの触れる全ての物が新鮮で、ワクワクする、好奇心に満ち溢れている、子供は遊びの天才なんじゃ、物を与えれば自分なりにルールを作り、勝手に遊ぶ、想像力と創造力、彼らの中の宇宙は広く神秘的なんじゃ、しかし、少し大人になる度に減っていく、丁度君らの歳くらいになると遊び方を忘れていってしまうんじゃ、それは小学校に入ると大人達が作ったルールによって縛られる時間と回数が増えてしまうからじゃ、それはもう国を治める以上仕方のない事かもしれないが、そんな時、今見たいなプラシーボ効果によるポジティブな思考を手にする手段を、知っていたら随分と違う道を歩けると思うんじゃ、そして何より大切なのは指数関数的上昇の曲線の上で今を信じ、未来を想う、自信とは古より伝わる最高強度の鎧じゃ」
ヨシ君「ちょ……なんて?……」
爺さん「いいんじゃ、いいんじゃ、さて、どうやら怪我しとるのう、痛いか?」
ヨシ君「いや、すぐ治るぜこんなもん!」
爺さん「いい心がけじゃ」
血が止まった気がした、痛みをあまり感じなくなった気がした、爺さんの言ってる事はよくわからなかったけど、言いたい事は何となくわかった、つまり、いつも前向きに考えろって事だろ?爺さんが新しい世界を見せてくれた、まだ小学生の間に知れてよかった、ケンちゃんにも会わせてあげたい、明日一緒に行ってみよう
キーンコーンカーンコーン
ヨシ君「なあ、ケンちゃんあの爺さんすげーおもしれーんだ!だから今日は行こうよ!」
ケンちゃん「いやーいいよ……」
ヨシ君「絶対会った方が良いって!なんかさ爺さんの話聞くと前向きになれるんだ、だからケンちゃん勉強にも役立つと思うんだ!今日塾ないだろ?良いじゃん!」
ケンちゃん「んーまあ塾はないけど……」
ヨシ君「5分だけでも会ってみろよ!1分でも良い!」
ケンちゃん「んー……まあ……それくらいなら……」
ヨシ君「うしっ!決まり!行こう!」
手を引っ張って走った、将来に対する不安とか、現在の悩みとか、そんなもの一切無くなっていた、あはははは、なんだかあはは、楽しくて……あはははは……なんだ、すげー楽しい!…………腕の痛みだって花粉症だって全部思い込み、幻だよ全部全部あははははははははは
ヨシ君「ほらケンちゃん爺さん!あの切り株に座って腕組んでるほらあそこ!爺さん!爺さん今日は友達を連れてきたんだ!俺の1番の親友、爺さんの話を俺の友達にもしてほしいんだ!あの話聞いてから俺、楽しくて仕方ないんだ!もう一回頼むよ!」
爺さん「おーよく来た今日は風がつよいのう」
ヨシ君「だなーでも花粉はもう俺効かねーよ」
爺さん「腕はどうじゃ」
ヨシ君「そーいや怪我してたんだな、あはは忘れてたよ!ほらケンちゃんもうちょっとこっち来いよ」
ケンちゃん「なあ……ヨシ君……さっきからずっと……誰もいねーよ」
ヨシ君「は?」
振り返ると爺さんは居なかった、切り株だけが寂しげにたたずんでいた
ヨシ君「??」
ケンちゃん「昨日死んじゃったんじゃねーの?」
ヨシ君「え……いや……あはは……え……だってあんなに元気そうに……あれ?……」
ケンちゃん「だから死んじゃったんだろ?別に思い込みで治るんだから良いじゃねーか」
ヨシ君「……………………………………………………………………………………あああああああああああああそうかそうかそうかそうそうそうだよそうだよじゃあ爺さんに会いにちょっと死んでみよーぜなあ向こうの世界あの世にいるんだろ、、、、お、ロープあるじゃんこれで軽く首吊ってちょっと行ってみよーぜ、どーせ思い込みで帰ってこれるしさ」
ケンちゃん「ああそうだな俺も後から行くよ」
ヨシ君「おっ今日はすげー乗ってくれるじゃんそんじゃーさ、お先!…………………」
ケンちゃん「…………………………………………あははははははははははははははははははははははははははははははははははははちょ…………腹いてーあはははははははははははははははははははははこいつ、本当に死んじゃったよ最近本当イライラすんだよ、お前みたいな馬鹿見てると、あースッキリした、邪魔なんだよ、幼馴染ってだけで何で馬鹿と仲良くしなきゃ行けないんだ、馬鹿が親友だと思われたら俺が恥かくんだよ、いやー、しかし、すげーじゃんこの洗脳マニュアルっての」
花粉が飛び交うそんな時期、マスクを外せない俺が居た、小学校六年生の四月、少し田舎に住んでる俺はクラス替えなんてなかった、一年の頃から同じ顔、知った性格、変わらない俺たちは成長とはどんなものなのかまだ良く掴めなかった、本当に六年生なのだろうか、俺が一年の時の六年なんて大人と変わりなかったように見えた、どさどさ地響き鳴らして教室の扉を乱暴に開けるんだ
「給食余ってませんかー!!!」
こんな時だけ敬語を使うんだ、都合が良い、しかし一体どれだけ食べられるんだ無限に食べられるのか、胃が宇宙にでも繋がってるのか、ああ、そうだおばあちゃんの家に行くと料理が山のようにでてくる、おばあちゃんは俺が無限に食べられると思ってるのか、そうめんお代わりいる?ってもう三杯は食べたよ何グラム茹でたんだ、いやキロかキロだな?キロでしょおばあちゃん、俺一人だよ孫はまだ俺1人そんな食べられないよ!
何となくだけどその気持ち理解できたよ、六年生で理解したよ大したもんだろ?
そもそも体が倍もでかいんだ胃だって倍、喉の太さだって倍、怪物だよ、怪物、六年生って、すげー、しかし配給はどうなってんだ、六年生と一年生の量同じなのか?余ってんだぞ?しかも毎日、長くやってるならそれくらい把握できるだろ?ははーんさてはわざと残るようにして六年生に取りに来させて六年生凄い!!を演出してんだな??まあいいんだそんな事、一年の時はそんな風に思ってた、しかし、どうだ実際なって見るとまあ六年生ってこんなもんか?
ぐー……食欲だけは立派に成長したみたいだ
ハーーーーーくしゅっ!!
だあーー!くそっ!マスクこれ意味あるのか?さっきから止まんねーよ!鼻水でるからその度に外してカンデおまけに目も掻きすぎて充血しちゃってるよ
「ヨシ君辛そうだな、マスクなんかしちゃって珍しい」
ヨシ君「ケンちゃん、そうなんだよ今年から流行ってるじゃん?花粉症っての、もしかしたら俺もかかるのかなーなんて思ってたら、ほら、この通り、はは」
ケンちゃんは俺といつも一緒なんだ、唯一無二の存在、親友、一心同体、俺なんかよりも少し大人びてるんだ、熱くなる俺をいつも抑えてくれる
ケンちゃん「なあ、ヨシ君プラシーボ効果って知ってるか?」
ヨシ君「うなぎいろ効果?」
ケンちゃん「聞き間違いえぐいな、ちげーよなんだよ何色だよそれ! 黒と灰色の間かよ、いや青っぽい? そんなこといいからプラシーボだよプラシーボ」
ヨシ君「何それ?」
ケンちゃん「俺も良くは知らないけどなんか思い込みで病気が治ったりするんだよ、学校の裏に山あるじゃん?そこに詳しい爺さんいるらしいから行ってみたら?」
ヨシ君「思い込みで? そんなんで治ったら医者要らねーよ嘘つくなよ、ピノキオかよ」
ケンちゃん「善意で教えてやったのになんだよ、じゃあ俺今日塾あるから、また明日、行くんなら明日感想聞かせてよ」
ヨシ君「ふーん、まあうなぎ何とか効果よりもそんなとこにいる爺さんのが気になるから行ってみるよ 」
かー、かー、
小学生にとっては広大な土地の裏山、低学年が作ったであろう秘密基地も如何わしい本にも特に目もくれず、探し回って早2時間、空がオレンジ色に染まり始めた、こうして1日が終わってしまう夜の始まり、月に映った模様も俺にはウサギに見えたことはない
ヨシ君「ケンちゃん勉強終わったのかな?2時間経つけど誰もいない……今日は来ない日なのかな……」
風が吹いた、正面から、目に砂埃を受けながら瞬き数回、涙が目の異常を訴える、侵入者を追放、目尻に追いやられた侵入者は巨人の手に拭われた、ざわざわ揺れる山の声に耳を澄ましたって理解不能、君と溶け合うにはまだ、日が浅いのかも。
ざわざわ
びくっ
ヨシ君「なに?……誰?……」
「何か探しものかね?」
ヨシ君「え……ケンちゃんの言ってた爺さんか?……爺さんここで何やってんだ?」
爺さん「いやー年寄りになると散歩が楽しくなるんじゃよ、特に生まれ育ったこの町の何千回と入ったこの山はなあ‥‥」
ヨシ君「爺さん、俺の友達がさあ、思い込みで治っちゃう何だっけな、むなげイボ効果ってやつを俺に教えてくれたんだけど、爺さん詳しいんだろ?今俺、花粉症辛くてうんざりしてんだ、教えてよ」
爺さん「なんじゃ?むなげイボ効果?嫌な響きじゃな一生かかりたくない、あ、もうそんなに寿命長くなかったうひゃひゃひゃひゃげほっゲホっ…………うひゃひゃひゃひゃひゃ」
ヨシ君「こえーよ爺さんむせたとこで何でやめねーんだよねアンコールしてねーよ」
爺さん「何じゃいむなげイボってどんなんじゃい」
ヨシ君「思い込みで治るとか何とかそんな感じ」
爺さん「プラシーボじゃろうそれプラシーボ効果」
ヨシ君「ああ、そうそう、それだ」
爺さん「そうか知りたいか、まあそんな事より花粉症に効く飲み物持ってるからこれ飲んで今日は寝なさい、明日には良くなるじゃないかのお」
ヨシ君「おお!爺さんすげー!そんなの持ってんのか、むなげ何とかはもうどうでもいいや、ありがとっ!」
爺さんが懐から取り出した透明な液体を感謝の気持ちを声に出したと同時に爺さんから両手で受け取った……
なんだよこんないい物くれちゃってさ、食後か?食前か?んーいつでもいいかっ、取り敢えずご飯食べてお風呂入った後、寝る前に飲もう!
翌日
音のしない朝日がカーテンの隙間から差し込んだ、ギラリと細長く続く光線はほんの薄暗さも許容しない、今日はいつもとは違う朝、何度だって経験したこの朝の時間も今日だけは、数少ない特別な時
ジリリリ
パチリと素早く両目が弾く、そこには僅かな粘着だってありはしない、部屋の中、空気は同じ、匂いだって変わりない、まだ実感はないが、ただ何故か確信している俺はもう花粉症ではないと、飛び起きた、朝のルーティンを無意識と二人三脚でこなしていく、この見えない補助は何だろうか、めんどくさい事だって淀みなく終わる、朝ごはんを食べた今日はイチゴジャムを塗ってみた、もちろんパンに、ご飯に塗ってる奴見たことあるの?ごめんごめん、挑発的だったね、ランドセルを背負う事はなく片方にかけてカッコつける、6年生、少しランドセルが恥ずかしいそして靴も半履きでよろめきながら、玄関を駆け抜けた、僕を遮る風を切る、車輪のように回転する脚、僕はうっすら笑っている、もちろんマスク何て着けていない
ヨシ君「うはっすげー効いてる、何も感じねーくしゃみは?痒みは?あはっ、すげーや」
学校の正門
ケンちゃん「おーヨシ君おはよ!マスクないじゃん!絶対いい事あったろ?」
ヨシ君「そーなんだよ!ケンちゃんにありがとう言わなくちゃ!もー効果抜群すっかり良くなったよ、花粉症って何だっけ?あはは、そうだ爺さんにちゃんと治った報告しに行かなくちゃな、、そういえば治ったのはいいけどケンちゃんの言ってたあの、、ヌラシイヌ効果なんて必要なかったよ?何か無味無臭の液体貰ったんだよ、水みたいだった」
ケンちゃん「ヌラシイヌってなんだよびちょびちょの犬かよ、凄く乾燥させたい、そんで、、何言ってんだ俺は……まあいいや……へー爺さんいたのか、で水飲んだら治ったのか、凄いな」
ヨシ君「今日一緒に行こうぜ!今日は塾ないだろ!会いたいだろ?」
ケンちゃん「いやー俺は良いよ特に何も悩んでないし、あと知ってるだろ俺中学受験するから勉強忙しいんだよこれくらいの時期からやらなくちゃさ」
ヨシ君「ふーん、まあケンちゃん頭良いもんなー中学からは別々になるんだよなー……寂しいけど、頑張って!」
ケンちゃん「おーありがとう」
キーンコーンカーンコーン
この音を聞くだけで眼が覚める、授業に句読点を打つその鐘の音は俺たちを何度だって蘇らせてくれる……まるで別世界だ、1秒前まで眠りに落ちる崖っぷち、それが今や無限に広がる大地のど真ん中、目を閉じて走ったって危険なんて感じない、何で俺たちは授業を受けるんだろう、ケンちゃんみたいな頭の良い人たちは理解しているのだろうか……そんな事、頭の悪い奴が考えたって答えなんか見つからない、雲1つない青空の下、広い大地、僕をぐるりと取り囲む地平線は何を想うのか、走ってこいと呼んでいる、僕にはそう聞こえるただ、ただ、俺は頭が悪いから、走り方が分からない。
はっ
何を考えてんだ俺は、まだ小学6年、遊んでなんぼじゃん、ケンちゃんには悪いけど親の言いなりで勉強するなんて、俺にはゴメンだね……
自転車を乱暴に駐輪場から取り出すと、全速力でこぎ始めた
ガシャーン
派手に転んだ恥ずかしい、自転車で転んだなんて誰にも知られたくない、全然平気だよ、なんて澄ました顔して立て直すんだ、不思議とその一連の間は痛みをまるで感じない、だから何処を怪我したかなんて探さないと分からない……っったあ…………なに?……うわーパンク?……なんだよ空気入れたばっかだったじゃん、まあ歩いて行ける距離だから幸いだけど、はーーお母さんなんていうかなぁ、、、痛くも何ともないんだよと、そんな顔で道を自転車を引いて歩いた、どこ怪我した?右に転倒したから右か……あー痛い……ここか、右肘を思いっきり擦りむいてんじゃん血が……痛ったー。
裏山
前回と同じ場所、そこに爺さんがいた
ヨシ君「やあ!おかげで治ったよ!花粉症!爺さん博士か何かか?」
爺さん「じつはのう、昨日の薬はただの水じゃよ」
ヨシ君「え?」
爺さん「昨日お前さんは、ただの水を花粉症に効く薬だと少しも疑う事なく飲んだ、その思い込みが身体に変化をもたらすんじゃよ、特別な成分なんてなに1つない、不思議じゃろう?人間ってのはまだまだ可能性に溢れている、もう気づいたろう?それがプラシーボ効果と言われるものじゃ」
ヨシ君「そうだったのかすげーじゃん!無敵じゃん!なんか俺、最近ちょっとだけ落ち込み気味だったかも、何でもネガティブに考えちゃってさ……きっとそれが原因だったのかも」
爺さん「そうじゃろう、若い時は経験も浅く落ち込んだ時の処方箋も見つけられない人が多いんじゃ、小さい時は純粋に天然に笑う事が出来るんじゃ、それは彼らの触れる全ての物が新鮮で、ワクワクする、好奇心に満ち溢れている、子供は遊びの天才なんじゃ、物を与えれば自分なりにルールを作り、勝手に遊ぶ、想像力と創造力、彼らの中の宇宙は広く神秘的なんじゃ、しかし、少し大人になる度に減っていく、丁度君らの歳くらいになると遊び方を忘れていってしまうんじゃ、それは小学校に入ると大人達が作ったルールによって縛られる時間と回数が増えてしまうからじゃ、それはもう国を治める以上仕方のない事かもしれないが、そんな時、今見たいなプラシーボ効果によるポジティブな思考を手にする手段を、知っていたら随分と違う道を歩けると思うんじゃ、そして何より大切なのは指数関数的上昇の曲線の上で今を信じ、未来を想う、自信とは古より伝わる最高強度の鎧じゃ」
ヨシ君「ちょ……なんて?……」
爺さん「いいんじゃ、いいんじゃ、さて、どうやら怪我しとるのう、痛いか?」
ヨシ君「いや、すぐ治るぜこんなもん!」
爺さん「いい心がけじゃ」
血が止まった気がした、痛みをあまり感じなくなった気がした、爺さんの言ってる事はよくわからなかったけど、言いたい事は何となくわかった、つまり、いつも前向きに考えろって事だろ?爺さんが新しい世界を見せてくれた、まだ小学生の間に知れてよかった、ケンちゃんにも会わせてあげたい、明日一緒に行ってみよう
キーンコーンカーンコーン
ヨシ君「なあ、ケンちゃんあの爺さんすげーおもしれーんだ!だから今日は行こうよ!」
ケンちゃん「いやーいいよ……」
ヨシ君「絶対会った方が良いって!なんかさ爺さんの話聞くと前向きになれるんだ、だからケンちゃん勉強にも役立つと思うんだ!今日塾ないだろ?良いじゃん!」
ケンちゃん「んーまあ塾はないけど……」
ヨシ君「5分だけでも会ってみろよ!1分でも良い!」
ケンちゃん「んー……まあ……それくらいなら……」
ヨシ君「うしっ!決まり!行こう!」
手を引っ張って走った、将来に対する不安とか、現在の悩みとか、そんなもの一切無くなっていた、あはははは、なんだかあはは、楽しくて……あはははは……なんだ、すげー楽しい!…………腕の痛みだって花粉症だって全部思い込み、幻だよ全部全部あははははははははは
ヨシ君「ほらケンちゃん爺さん!あの切り株に座って腕組んでるほらあそこ!爺さん!爺さん今日は友達を連れてきたんだ!俺の1番の親友、爺さんの話を俺の友達にもしてほしいんだ!あの話聞いてから俺、楽しくて仕方ないんだ!もう一回頼むよ!」
爺さん「おーよく来た今日は風がつよいのう」
ヨシ君「だなーでも花粉はもう俺効かねーよ」
爺さん「腕はどうじゃ」
ヨシ君「そーいや怪我してたんだな、あはは忘れてたよ!ほらケンちゃんもうちょっとこっち来いよ」
ケンちゃん「なあ……ヨシ君……さっきからずっと……誰もいねーよ」
ヨシ君「は?」
振り返ると爺さんは居なかった、切り株だけが寂しげにたたずんでいた
ヨシ君「??」
ケンちゃん「昨日死んじゃったんじゃねーの?」
ヨシ君「え……いや……あはは……え……だってあんなに元気そうに……あれ?……」
ケンちゃん「だから死んじゃったんだろ?別に思い込みで治るんだから良いじゃねーか」
ヨシ君「……………………………………………………………………………………あああああああああああああそうかそうかそうかそうそうそうだよそうだよじゃあ爺さんに会いにちょっと死んでみよーぜなあ向こうの世界あの世にいるんだろ、、、、お、ロープあるじゃんこれで軽く首吊ってちょっと行ってみよーぜ、どーせ思い込みで帰ってこれるしさ」
ケンちゃん「ああそうだな俺も後から行くよ」
ヨシ君「おっ今日はすげー乗ってくれるじゃんそんじゃーさ、お先!…………………」
ケンちゃん「…………………………………………あははははははははははははははははははははははははははははははははははははちょ…………腹いてーあはははははははははははははははははははははこいつ、本当に死んじゃったよ最近本当イライラすんだよ、お前みたいな馬鹿見てると、あースッキリした、邪魔なんだよ、幼馴染ってだけで何で馬鹿と仲良くしなきゃ行けないんだ、馬鹿が親友だと思われたら俺が恥かくんだよ、いやー、しかし、すげーじゃんこの洗脳マニュアルっての」
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