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第4章:【BATTLE】イツキ vs ナナ
第27話:ハイ"エナ"と設定1
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「エ、江奈…!」
イツキは振り返ったままの姿勢で、その女子に声をかけた。学食での一件のせいで、そこそこ驚いているにも関わらず、その声にはいつにも増して覇気がなかった。
アイコニックな綺麗な銀髪ショートカットに良く似合う黒いミニスカートに白のトップス。気は強そうだがかなりの美人で、ナナよりは背が小さいが一般的に言ってかなりスタイルもよかった。
この女子こそが、ナナがよく訪れているパチンコ屋"NESSE"で、イツキと並んで"いつも出している人"認定されているもうひとり、"八重樫 江奈"であった。実は、江奈もこの赤保大学に通っており、イツキの後輩にあたる1年生だ。
「ちょっと、センパイっ! 一体、何回呼べば気づくんですか?」
「ごめん、江奈! ちょっと考え事してて、、全然気づかなかった。」
江奈は強めの口調で、銀髪をサラッとなびかせている。江奈がイツキのことを"センパイ"と呼ぶのは、大学の先輩だからという理由だけではなかった。
いまでこそ東京の大学に通っているイツキと江奈だが、2人とも出身は名古屋。そして、2人の実家はとても近くにあった。というか、お隣さんだ。そのため、同じ小中学校に通い、高校こそ一度は離れたものの、こうして大学でまた再開するという、いわゆる幼馴染(2人に言わせれば腐れ縁)であった。
幼い時期は兄と妹というような関係だったが、成長するうちに男と女ということもあって、だんだんと先輩と後輩という関係に落ち着いていった、そんな2人である。
お互いのことは良いも悪いもそれなりにわかってはいるし、これまでの人生の中で、色々な相談もし合ってきた。高校生の時なんて、江奈の恋愛相談にイツキはファミレスで朝まで付き合わされた過去もある。
一方、女子の友達がほとんどいないイツキにとっても、江奈は女子目線の意見が聞ける貴重な存在でもあった。最も、近頃では女子目線の意見が必要なシーンなど、イツキには全くといっていいほどなかったのだが。
「ふーん、そうですか。それはそうと、最近スロットコーナーにいなくないですか? あまり見かけませんけど!」
「あぁー、最近は結構パチンコの方やっててさ。そっちは、ハイ"エナ"順調?」
イツキはどんな時でも、ハイエナの"エナ"の部分を強調して、いじることを忘れない。今日だって、さっきまで驚きでいっぱいだったが、ちゃんと"エナ"にアクセントをおいてニヤリと笑った。
「ふーん、そうですか。なるほど、パチンコですか。あたしはいつも通りちゃんと勝ってますよ! というか、いい加減そのハイ"エナ"っていうのやめてくれませんか? 全然、おもしろくないですっ!」
江奈は終始ふんっという顔だったが、"いつも勝っている"と言う時だけ、若干誇らしそうだった。
「あと、今日のセンパイ、なんか暗くないですか? なにかあったんですか?」
イツキの感情をパッと見た表情やちょっと話しただけで読み取るのはなかなかに難しい。しかし、付き合いの長い江奈はイツキの様子が普段と違うことに気づいたようだった。
「いや、ちょっとね…。さっき、結構びっくりすることがあってさ。それで、どうしたもんかな、、って考えてて。」
イツキは、"まいったなぁ"といった表情で首に手をあて、視線を斜め下に落とながら答えた。
「そうですか。」
江奈の返事や言い草が冷たいのもあって、イツキの顔は下を向いたままだった。
「まったく、なんなんですか? せっかく声かけてあげたのに、センパイのその態度は! いつも"うじうじ"してばっかじゃないですか。あ!さては、あれですか?ちょっと悩んでます風の自分を演出して、幼馴染のかわいい女子に話を聞いてもらい、あわよくば優しく慰めてもらおう!なんて思っちゃってるやつですか? それならキモいですし、期待値ないです。相変わらずセンパイは"設定1"ですね!」
たまたま周りに人が少ないタイミングであったが、もしも第三者がこの光景を見たら、男の方が何かをやらかしたように思っただろう。江奈は細い腰に手を当てたまま、イツキに対して睨みをきかし、ずばばばと畳みかけるように言葉を発した。
江奈が得意とするスロットはパチンコと違い、1から6の"設定"というものが存在する。一般的には低設定の"1"で勝つことは難しいし、高設定の"6"に座れた場合はウハウハだ。もちろん、スロット台を外からいくら眺めても設定は分からないし(打っても詳細な判別は難しい)、設定変更のタイミングもお店次第だ。
ただ、とにもかくにも、江奈はイツキをバカにする時は、決まってスロット用語を使いがちであり、これまでずっとイツキのことは"設定1"呼ばわりなのであった。
「別にそういうわけではないよ!笑」
一応後輩である江奈に一気にこれだけ言われても、イツキは慣れた様子で普通に会話を続けた。デレこそほとんど見ることができないものの、江奈のイツキに対する態度はいつもこうツンが全開なのだ。
「とにかく、元気のないセンパイは、それはそれでキモいので、早く普通になってください! では、あたしは忙しいのでさようなら!」
江奈はくるっと方向転換すると、黒いスカートを風にふわっと揺らしながら、足早に去っていった。イツキは特に悩みの内容を聞いてもらったわけでもなく、どちらかというとただ罵倒されただけなのに、江奈とのいつも通りの会話に少し心が落ち着いた。
いつまでも"設定1"のまんまじゃダメだよな…、言われ慣れてはいるけれど、改めて江奈に言われた言葉を自分への戒めとして反芻しながら、イツキは教室へと再び歩き出した。
イツキは振り返ったままの姿勢で、その女子に声をかけた。学食での一件のせいで、そこそこ驚いているにも関わらず、その声にはいつにも増して覇気がなかった。
アイコニックな綺麗な銀髪ショートカットに良く似合う黒いミニスカートに白のトップス。気は強そうだがかなりの美人で、ナナよりは背が小さいが一般的に言ってかなりスタイルもよかった。
この女子こそが、ナナがよく訪れているパチンコ屋"NESSE"で、イツキと並んで"いつも出している人"認定されているもうひとり、"八重樫 江奈"であった。実は、江奈もこの赤保大学に通っており、イツキの後輩にあたる1年生だ。
「ちょっと、センパイっ! 一体、何回呼べば気づくんですか?」
「ごめん、江奈! ちょっと考え事してて、、全然気づかなかった。」
江奈は強めの口調で、銀髪をサラッとなびかせている。江奈がイツキのことを"センパイ"と呼ぶのは、大学の先輩だからという理由だけではなかった。
いまでこそ東京の大学に通っているイツキと江奈だが、2人とも出身は名古屋。そして、2人の実家はとても近くにあった。というか、お隣さんだ。そのため、同じ小中学校に通い、高校こそ一度は離れたものの、こうして大学でまた再開するという、いわゆる幼馴染(2人に言わせれば腐れ縁)であった。
幼い時期は兄と妹というような関係だったが、成長するうちに男と女ということもあって、だんだんと先輩と後輩という関係に落ち着いていった、そんな2人である。
お互いのことは良いも悪いもそれなりにわかってはいるし、これまでの人生の中で、色々な相談もし合ってきた。高校生の時なんて、江奈の恋愛相談にイツキはファミレスで朝まで付き合わされた過去もある。
一方、女子の友達がほとんどいないイツキにとっても、江奈は女子目線の意見が聞ける貴重な存在でもあった。最も、近頃では女子目線の意見が必要なシーンなど、イツキには全くといっていいほどなかったのだが。
「ふーん、そうですか。それはそうと、最近スロットコーナーにいなくないですか? あまり見かけませんけど!」
「あぁー、最近は結構パチンコの方やっててさ。そっちは、ハイ"エナ"順調?」
イツキはどんな時でも、ハイエナの"エナ"の部分を強調して、いじることを忘れない。今日だって、さっきまで驚きでいっぱいだったが、ちゃんと"エナ"にアクセントをおいてニヤリと笑った。
「ふーん、そうですか。なるほど、パチンコですか。あたしはいつも通りちゃんと勝ってますよ! というか、いい加減そのハイ"エナ"っていうのやめてくれませんか? 全然、おもしろくないですっ!」
江奈は終始ふんっという顔だったが、"いつも勝っている"と言う時だけ、若干誇らしそうだった。
「あと、今日のセンパイ、なんか暗くないですか? なにかあったんですか?」
イツキの感情をパッと見た表情やちょっと話しただけで読み取るのはなかなかに難しい。しかし、付き合いの長い江奈はイツキの様子が普段と違うことに気づいたようだった。
「いや、ちょっとね…。さっき、結構びっくりすることがあってさ。それで、どうしたもんかな、、って考えてて。」
イツキは、"まいったなぁ"といった表情で首に手をあて、視線を斜め下に落とながら答えた。
「そうですか。」
江奈の返事や言い草が冷たいのもあって、イツキの顔は下を向いたままだった。
「まったく、なんなんですか? せっかく声かけてあげたのに、センパイのその態度は! いつも"うじうじ"してばっかじゃないですか。あ!さては、あれですか?ちょっと悩んでます風の自分を演出して、幼馴染のかわいい女子に話を聞いてもらい、あわよくば優しく慰めてもらおう!なんて思っちゃってるやつですか? それならキモいですし、期待値ないです。相変わらずセンパイは"設定1"ですね!」
たまたま周りに人が少ないタイミングであったが、もしも第三者がこの光景を見たら、男の方が何かをやらかしたように思っただろう。江奈は細い腰に手を当てたまま、イツキに対して睨みをきかし、ずばばばと畳みかけるように言葉を発した。
江奈が得意とするスロットはパチンコと違い、1から6の"設定"というものが存在する。一般的には低設定の"1"で勝つことは難しいし、高設定の"6"に座れた場合はウハウハだ。もちろん、スロット台を外からいくら眺めても設定は分からないし(打っても詳細な判別は難しい)、設定変更のタイミングもお店次第だ。
ただ、とにもかくにも、江奈はイツキをバカにする時は、決まってスロット用語を使いがちであり、これまでずっとイツキのことは"設定1"呼ばわりなのであった。
「別にそういうわけではないよ!笑」
一応後輩である江奈に一気にこれだけ言われても、イツキは慣れた様子で普通に会話を続けた。デレこそほとんど見ることができないものの、江奈のイツキに対する態度はいつもこうツンが全開なのだ。
「とにかく、元気のないセンパイは、それはそれでキモいので、早く普通になってください! では、あたしは忙しいのでさようなら!」
江奈はくるっと方向転換すると、黒いスカートを風にふわっと揺らしながら、足早に去っていった。イツキは特に悩みの内容を聞いてもらったわけでもなく、どちらかというとただ罵倒されただけなのに、江奈とのいつも通りの会話に少し心が落ち着いた。
いつまでも"設定1"のまんまじゃダメだよな…、言われ慣れてはいるけれど、改めて江奈に言われた言葉を自分への戒めとして反芻しながら、イツキは教室へと再び歩き出した。
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