上 下
7 / 9

7話

しおりを挟む


「え…?」


女性の持つ花のついた枝を見て、私は思わず放心した。


そんな私を見た女性は、泣き腫らした目を申し訳なさそうに細めながら軽く私に会釈をし、1歩室内へと踏み込んでくる。


「急にお尋ねしてごめんなさい…、あの…貴方が"鹿嶋 雛芥子"さんですか?」


「は、はい…そうです」


私が戸惑いながらも女性の言葉に頷くと、女性はホッとした様に息をついた。


「そう…会えて良かった…」


ホッとする女性の一方で、私は女性と女性が手に持っているハナミズキの枝を交互に見ながら(私は会いたくなかったのに)と呟いた。


まさに悪い予想があまりにも猛スピードで現実化してしまったような、そんな気分だった。


女性はゆっくりと歩み寄りながら「コレを貴方に受け取って欲しいの」と案の定、手に持ったハナミズキの枝を私に差し出してきた。


花瓶に活けてある枝の花は既に全て落ちてしまっていた。


「でも…どうして私に?」


聞かなくても予想出来ていることを女性に問う私に、女性は悲しく微笑みながら話し始めた。


「息子が…息を引き取る前に何故かコレを、貴方にどうしても渡して欲しいって…」


「息子さん…が?亡くなられたんですか?」


「ええ…。でも不思議ね、半年間も意識が戻らなかった子が、最後にハッキリとそう言ったの。私の目を見てハッキリと。こんなこと言われたら、貴方からしたら少し不気味かもしれないけど、受け取って貰えると私も息子も救われるわ…」


「でも、どうして私に…」


ボソリと呟いた私に、女性は涙を流し、鼻をすすりながら「大事だから」とだけ答えた。


その瞬間、私は理解したくないことを強引に理解させられた。


"大事だから"


間違いなく、"ミズキ"の言葉だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

私たちは、お日様に触れていた。

柑実 ナコ
ライト文芸
《迷子の女子高生》と《口の悪い大学院生》 これはシノさんが仕組んだ、私と奴の、同居のお話。 ◇ 梶 桔帆(かじ きほ)は、とある出来事をきっかけに人と距離を取って過ごす高校2年生。しかし、バイト先の花屋で妻のために毎月花を買いにくる大学教授・東明 駿(しのあき すぐる)に出会い、何故か気に入られてしまう。お日様のような笑顔の東明に徐々に心を開く中、彼の研究室で口の悪い大学院生の久遠 綾瀬(くどお あやせ)にも出会う。東明の計らいで同居をする羽目になった2人は、喧嘩しながらも友人や家族と向き合いながら少しずつ距離を縮めていく。そして、「バカンスへ行く」と言ったきり家に戻らない東明が抱えてきた秘密と覚悟を知る――。

『 LOVE YOU!』 最後は君を好きになる 

設樂理沙
ライト文芸
モデルをしている強引系イケメン男性に関わった3人の素敵な女性のお話 有海香 と亀卦川康之 新垣佳子と亀卦川康之 石川恭子と亀卦川康之 ・・・・・・・・・・ 3組のカップル ・有海香と神谷司 本編 ・新垣佳子小野寺尊 --スピンオフで ・石川恭子と垣本宏 --スピンオフで  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  このお話は『神谷司』という男性をどうしても 幸せにしてあげたくて、書き始めました。  宜しくお願いします☆彡 設樂理沙 ☺ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・☆彡 ♡画像はILLUSTRATION STORE様有償画像  

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

処理中です...