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第17話 告白
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部屋に1人で戻った一美は、深い眠気を感じていた。
外は気が狂いそうな暑さが始まりはじめていたが、室内はエアコンから流れる空気が心地よい。
ベッドに潜りこんだ彼女は、やがて眠りに落ちたのだ。
やがて、ビルの震えに気づいて目が覚めてスマホで時刻を確認したら、午前10時だった。
大した揺れではなかったので、そのまま寝る。再び起きて時計を確認したら昼の12時を過ぎていた。
多分美優が1階の厨房で食事を作り終え、皆が昼食を食べている頃だろう。
でも、夫をなくしたばかりなのだ。自室で悲嘆にくれているかもしれない。
他のみんなも夜中に起こされたのだから、まだ寝ているかもしれなかった。
一美は足を引きずるようにしながら部屋を出てエレベーターに向かう。
化粧は普段しないので、部屋を出るための準備はそれほどかからなかった。
どうせ今度の月曜日には死ぬはずなのに、美優や翠はよく毎日化粧するものだと思う。
そもそも翠はあんな美人なんだから、化粧の必要はないだろう。そもそもなんで、女は化粧なんてしなければならないのか?
しかし、とんでもないことになったものだ。
一美は、今自分のいる黒いビルの姿を想起しながらそう感じた。
アガサ・クリスティというイギリスの作家が書いたミステリに「そして、誰もいなくなった」という作品がある。
孤島に集まった10人の男女が次々に殺されるというシチュエーションの推理小説で、一美の好きな作品だ。
この物語のようなエピソードは現実には起こり得ないと考えていたが、まさかそんな状況に自分自身が巻きこまれるとは予想すらしなかった。
エレベーターに乗った一美は1階で降りる。大広間に向かう。大広間の時計は午後1時をさしている。
そこには以下の人物がいた。女優の翠とチャラ男の井村、高校生の妹尾と元医師の日々野の4人だ。
竹原美優の姿はない。
「美優さんは?」
「最初にここへ来たのはあたしだけど、美優さんはいなかった」
翠がそう説明する。
「来たのはちょうど午前11時ちょい前ね。多分彼女は自室じゃないかな」
「あんな事件があったんだから無理ねえよ。かわいそうに」
井村が声を落として話した。
「良かったら、食べて。あたしが作ったから美味しいかわからないけど」
「めっちゃ美味しい」
井村が満面の笑みでそう口をはさんだ。
「ありがとう」
翠が、嬉しそうなスマイルになる。
「そう言えば朝10時頃地震があったでしょう? みんな気づいた?」
一美が聞いた。
「あたし、気づいた。それで起きたから」
翠が、答える。
「俺も」
井村がそう口にした。
「僕も感じた。沖縄で1か月前にでかい地震があったからな。その余震だろ。しばらくは、細かい地震が続くだろうよ」
日々野がしゃべる。妹尾は無言でカップラーメンを食べていた。
「せっかくなんで、いただきます」
一美は、料理を食べはじめた。井村の言う通り、確かに美味い。
「本当美味しい! 妹尾君も食べなさい」
一美は、薦めた。
「いらないです。カップラーメンが好きなんで」
消え入りそうな声で、妹尾がつぶやく。耳をすませて聞かなければ、何を話しているのかもわからぬような小声である。
「ほっとけよ。可愛げのねえクソガキだぜ」
噛み終えたガムを吐き出すように、井村がそう言葉を投げた。
「まあ、妹尾君のお母さんの手料理には負けるだろうな」
翠が愛らしい顔に、苦笑を浮かべる。
「お母さんは料理作らなかったです。いつもお金渡されて、家にはほとんどいなかったから。渡されるお金は少なくて、カップラーメンぐらいしか買えなかった」
外は気が狂いそうな暑さが始まりはじめていたが、室内はエアコンから流れる空気が心地よい。
ベッドに潜りこんだ彼女は、やがて眠りに落ちたのだ。
やがて、ビルの震えに気づいて目が覚めてスマホで時刻を確認したら、午前10時だった。
大した揺れではなかったので、そのまま寝る。再び起きて時計を確認したら昼の12時を過ぎていた。
多分美優が1階の厨房で食事を作り終え、皆が昼食を食べている頃だろう。
でも、夫をなくしたばかりなのだ。自室で悲嘆にくれているかもしれない。
他のみんなも夜中に起こされたのだから、まだ寝ているかもしれなかった。
一美は足を引きずるようにしながら部屋を出てエレベーターに向かう。
化粧は普段しないので、部屋を出るための準備はそれほどかからなかった。
どうせ今度の月曜日には死ぬはずなのに、美優や翠はよく毎日化粧するものだと思う。
そもそも翠はあんな美人なんだから、化粧の必要はないだろう。そもそもなんで、女は化粧なんてしなければならないのか?
しかし、とんでもないことになったものだ。
一美は、今自分のいる黒いビルの姿を想起しながらそう感じた。
アガサ・クリスティというイギリスの作家が書いたミステリに「そして、誰もいなくなった」という作品がある。
孤島に集まった10人の男女が次々に殺されるというシチュエーションの推理小説で、一美の好きな作品だ。
この物語のようなエピソードは現実には起こり得ないと考えていたが、まさかそんな状況に自分自身が巻きこまれるとは予想すらしなかった。
エレベーターに乗った一美は1階で降りる。大広間に向かう。大広間の時計は午後1時をさしている。
そこには以下の人物がいた。女優の翠とチャラ男の井村、高校生の妹尾と元医師の日々野の4人だ。
竹原美優の姿はない。
「美優さんは?」
「最初にここへ来たのはあたしだけど、美優さんはいなかった」
翠がそう説明する。
「来たのはちょうど午前11時ちょい前ね。多分彼女は自室じゃないかな」
「あんな事件があったんだから無理ねえよ。かわいそうに」
井村が声を落として話した。
「良かったら、食べて。あたしが作ったから美味しいかわからないけど」
「めっちゃ美味しい」
井村が満面の笑みでそう口をはさんだ。
「ありがとう」
翠が、嬉しそうなスマイルになる。
「そう言えば朝10時頃地震があったでしょう? みんな気づいた?」
一美が聞いた。
「あたし、気づいた。それで起きたから」
翠が、答える。
「俺も」
井村がそう口にした。
「僕も感じた。沖縄で1か月前にでかい地震があったからな。その余震だろ。しばらくは、細かい地震が続くだろうよ」
日々野がしゃべる。妹尾は無言でカップラーメンを食べていた。
「せっかくなんで、いただきます」
一美は、料理を食べはじめた。井村の言う通り、確かに美味い。
「本当美味しい! 妹尾君も食べなさい」
一美は、薦めた。
「いらないです。カップラーメンが好きなんで」
消え入りそうな声で、妹尾がつぶやく。耳をすませて聞かなければ、何を話しているのかもわからぬような小声である。
「ほっとけよ。可愛げのねえクソガキだぜ」
噛み終えたガムを吐き出すように、井村がそう言葉を投げた。
「まあ、妹尾君のお母さんの手料理には負けるだろうな」
翠が愛らしい顔に、苦笑を浮かべる。
「お母さんは料理作らなかったです。いつもお金渡されて、家にはほとんどいなかったから。渡されるお金は少なくて、カップラーメンぐらいしか買えなかった」
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