43 / 51
それぞれの結末・首謀者。
しおりを挟むそれぞれの結末・首謀者
リリアナ・セラーズ侯爵令嬢&セラーズ侯爵夫妻。
まずは、リリアナ・セラーズ侯爵令嬢。
彼女の罪は、明らかにはしなかった。
罪を明らかにしてしまえば、ジーク殿下や多くの令息達が、愚かにも騙され、毒に害された事実まで、明らかになってしまうからだ。
だから、彼女の罪は、明らかにはしなかった。
けれど、リリアナ侯爵令嬢の罪は、明らかには出来ないだけで、確かに被害者は存在しているし、彼女の罪が消えるようなことは無い。
それに、被害者達が忘れるわけではない。
しかし、たとえ被害者達が忘れなかったとしても、セラーズ侯爵令嬢・リリアナ嬢が必死に主張していた様に、この事件には侯爵令嬢を検挙出来る程の、明確な証拠は残っていなかった。
彼女の施した隠蔽は、ベルトハイドさえ黙秘をすれば、事件関与を握り潰せる程、完璧なものであった。
もし仮に、ベルトハイド以外の他者が、彼女の罪を強引に追求した場合、菓子を食べて毒に侵された令息達だけが、唯一、侯爵令嬢を追求出来る、証拠になり得ただろう。
だが、その唯一の可能性でさえも、今では存在しない。
被害者達は、どこかから秘密裏に、高価な治癒のポーションを入手し、治療を施し、症状が完治してしまっている。
現在の元気な令息達では、証拠にはなり得なかった。
それに、被害者の親達も、自分の息子が毒を盛られ、おかしくなった話を、わざわざ蒸し返し、敢えて辱めを受けるさせる、そんなくだらない事をするような、貴族の親は存在しないだろう。
▼△▼
けれど、彼女の罪を追求出来なかったとしても、被害者達が被害を受けた事を、忘れるわけではない。
だから、セラーズ侯爵が爵位を返上する前に、被害に遭った各家に、幾らかの金額を名目なく支払っている。
それは、多くは無いにしても、少なくも無かった。
そして更に、ベルトハイド公爵家が、被害者達に対して、【マーテル男爵夫妻が、手下を使って毒を盛ったことが判明した。彼等はすでに捕らえられ、追及を受けている】と、説明した。
だから、セラーズ侯爵家やリリアナ嬢に対して、意を唱える被害者は、1人も居なかった。
▼△▼
後はもう1人。
忘れてはいけないのは、最も高貴な被害者の親である、王妃様だ。
リリアナ嬢は、本来なら処刑され、一族ごと斬首のうえ、晒し首にされるような罪を犯している。
その罪を明らかにせず、闇に葬ったのだ。
彼女は確かに犯罪を犯していて、被害者も存在している。
たとえ事件を闇に葬ったとしても、彼女が罪を償わなくても良いわけではないし、彼女がのうのうと生きる事を、王妃様は許さない。
だから彼女は、本来なら死をもって償う罪を、生き続ける事で償う事になった。
その為に、最も厳格で、最も過酷な修道院へと収容された。
リリアナ嬢が入った修道院は、修道院とは名ばかりで、犯罪者や無法者を公正させる為の、とても厳しい施設だった。
その場所で彼女は、若くて綺麗な全ての時間を、自由無く、自死も許されず、ただただ自身を顧みて、犯した罪を反省し、生きていく事になる。
そして彼女は、セラーズ侯爵夫妻が返爵した事により、リリアナ・セラーズ侯爵令嬢から、ただのリリアナ・セラーズになる。その状況は、プライドの高い彼女には、さぞかし屈辱的であろう。
泣いて、叫んで、悔いて、憎んで、嘆いて、絶望するかもしれない…。
それでも彼女に、助けは来ないし、同情もされない。
彼女はこれから何をしても、どんなに反省をしたとしても、過去の彼女の罪からは逃がれられない…。
甘やかな環境で、穏やかに生きてきた彼女にとっては、きっと、死にたくなる程、辛いだろう…。
更に、彼女が逃げ出さないように、ずっと監視が出来るように、彼女はこの国から出る事を禁止された。
そして、セラーズ侯爵夫妻には、リリアナ嬢との接触禁止が言い渡された。
以上が、リリアナ嬢が犯した罪を、闇に葬る代わりに、王妃様が妥協した条件であった。
本来なら、家門ごと晒し首になるような罪なのだ。
セラーズ侯爵夫妻は、この条件を受け入れた。
娘の命が助かるのならと、何もかも投げ打って受け入れた。
そして、セラーズ侯爵夫妻は、慰謝料の代わりとばかりに、贖罪の気持ちを込めて、爵位と領土を王国に返還した。
その後、彼等はなぜか、急ぎ他国へと旅立った。
この出来事は、実質的に王の直轄領を増やし、国庫を潤した。
▼△▼
彼等が迎えた結末は、完璧に幸せな結末では無いかもしれない。
けれど、セラーズ侯爵夫妻とリリアナ嬢が、今も生き続けらていられる事は、ベルトハイドの協力無くして、実現不可能だっただろう…。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
【完結】悪女のなみだ
じじ
恋愛
「カリーナがまたカレンを泣かせてる」
双子の姉妹にも関わらず、私はいつも嫌われる側だった。
カレン、私の妹。
私とよく似た顔立ちなのに、彼女の目尻は優しげに下がり、微笑み一つで天使のようだともてはやされ、涙をこぼせば聖女のようだ崇められた。
一方の私は、切れ長の目でどう見ても性格がきつく見える。にこやかに笑ったつもりでも悪巧みをしていると謗られ、泣くと男を篭絡するつもりか、と非難された。
「ふふ。姉様って本当にかわいそう。気が弱いくせに、顔のせいで悪者になるんだもの。」
私が言い返せないのを知って、馬鹿にしてくる妹をどうすれば良かったのか。
「お前みたいな女が姉だなんてカレンがかわいそうだ」
罵ってくる男達にどう言えば真実が伝わったのか。
本当の自分を誰かに知ってもらおうなんて望みを捨てて、日々淡々と過ごしていた私を救ってくれたのは、あなただった。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる