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地獄のランチ・前編  ▼イリス視点▼

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※軽度な嘔吐表現ありです。ご注意ください。


計画実行1日目
アカデミー・昼・1学年教室
兄・イリス視点


 同刻。ランチの時間。すぐさま1学年の教室へと向かう。


 そして、今日の目的である、ミーナ嬢の元へと訪れる。


 見つけたミーナ嬢は、講義中に寝ていたらしく、ピンク色の髪の毛には寝癖がつき、顔には涎の跡まで付いていた。


 湧き上がる嫌悪感を、無理やり抑えつけ、寝惚けた彼女を呼び止める。


「ミーナ嬢。少し良いだろうか?」


「…イリスぅ!?珍しいねぇ!どうしたのぉー?」


「…2人だけで"特別に話したい事"があるんだ。ランチでも一緒に…如何だろうか?」


「うん良いよぉー!楽しみぃー!」


「…ああ。応じてくれてありがとう。今日はミーナ嬢の為に、特別なランチを用意させたんだ」


「わぁーい!うれしぃー!あっ!でも、ちょっとだけ待っててぇ!…ねぇ!ステラー!」



 媚びた声が耳に入るたびに、頭が痛くなり、吐き気が込み上げる。

 想像していたよりもキツいが、計画のために何とか吐かずに耐える。


 ミーナ嬢は、ステラと呼んだ女生徒に、何やらバスケット?(カゴ)を渡してから、小走りでやってきた。


 なおも襲いくる嫌悪感に耐えながら、ミーナ嬢を腕に巻き付けて、貸切のガゼボまで、笑顔でエスコートをする。



▼△▼


「わぁー凄い豪華ー!美味しそうっ!」


 ミーナ嬢は用意されたランチに、目を輝かせて喜んでいた。

 計画に万が一の事があってはいけないので、王都一のシェフに用意させたのだが…

 どうやら正解だったらしい。


「まずは、心いくまで味わって?話はその後にしよう」


「わーい!いただきまーす!」


 そして、ミーナ嬢が食べるのを、笑顔で見守る。


 …そんなフリをしていたが、ここでもまた、ミーナ嬢のマナーがまるでなっていない、酷く汚い食べ方に、心の底から嫌悪する。


 当然食欲など湧くはずもなく、食事には殆ど手を付けられなかった。


 いつまでも減らないこちらの料理を、羨ましそうに見つめるミーナ嬢の視線に気が付いてからは、料理の殆ど全てを譲ってやった。


 2人分の食事を食らう、彼女の豪快な食いっぷりを見て、更に胃がもたれた気がした。



 既に、体調に異常をきたしているが、なんとか気力で持ち堪える。


 気取られぬように、笑みを絶やさない。



 そんな中、不意にミーナ嬢を見やると、何かの食いカスが頬の高い位置…口よりも目に近い位置についていた。


 目に入る光景が信じられなくて、思わず二度見する。


 どうやったら、そんな所に食いカスが付くというのだ…。


 幼い子供だって、そんな所に食いカスが付くことはないだろう…。


 どんな原理で、どう食べれば、そんな所に食いカスが付くというのだ?


 …ダメだ。本当に理解が出来ない…。


 だが運悪く、困惑した視線を辿ったミーナ嬢に、食べカスが付いている事を気付かれてしまう。


「やーん!イリスぅー!とってぇー?」


 すぐさま彼女は、渾身の甘え声をあげた。


 思わず全身が震え上がる。



 今すぐにでも、逃げ出したい気持ちになったが、何とか耐える。



 何の問題もないかのように、笑顔を携えたまま、ナプキンを用いて、彼女に着いた謎の食べカスを、丁寧に優しく拭き取った。



 込み上げる嫌悪感に耐え、極めて紳士的な対応をしたつもりであった。


 しかし、残念な事に、彼女は不満だったらしい…。



「むー。キスしてとってくれれば、良かったのにぃー!」

 と、言ってのけたのだ。


 この発言を受けて、湧き上がる嫌悪感への我慢が、ついに限界に達っしてしまった。


「…ハハハ。あまり意地悪を言わないでくれ?」


 と、困った顔をしながら絞り出す。


 その後すぐに、先程彼女を拭ったナプキンを、取り替える風を装って、食事に夢中な彼女を1人残し、静かに退席した。


 そして、十分に離れたところまで行って、盛大に吐いた。


 胃の中の物を全て吐き出すと、僅かに体調と気分が良くなったので、少しだけ安心する。



 込み上げる嫌悪感で、実際に吐いたのは、初めての経験だった。


 既に限界を感じているが、計画はまだ始まったばかりだ。と、なんとか自分を鼓舞した。


 
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