4 / 51
ジーク殿下にお会いする。 ○アリス視点○
しおりを挟む計画実行1日目
アカデミー・昼・展望テラス。
妹・アリス視点
ランチの時間。
私、アリス・ベルトハイドは、計画の第1歩を推し進める。
第二王子・ジーク殿下達が、いつも噂の男爵令嬢・ミーナ嬢を囲みながらランチを取っている、展望テラスへと顔を出す。
展望テラスへ行き、わざとらしく兄のイリスを探すふりをする。
もちろん、兄のイリスは見当たらない。
兄が計画通りに動いていれば、今日はここに居るはずがない。
辺りを見渡しても、兄が見当たらず、困った様なふりをして、従兄弟であるジーク殿下に声をかける。
「ジーク殿下…ご無沙汰しております。あの…兄のイリスが、どちらに居るかご存知ですか?」
「……ああ。…アリスか。久しぶりだな。イリスは…今日は…来ていないな…」
久しぶりに話しかけたジーク殿下は、以前までの覇気はなく、酷く疲れた様子であった。
兄のイリスに事前に聞いてはいたが、実際に見たジーク殿下は、別人の様に変わってしまっていた。
「左様ですか…。お教え頂き、ありがとうございます。…それと殿下、少しお話したい事があるのですが…今、お時間よろしいでしょうか…」
「…ああ。良いだろう…だが、急いでくれ……なんだか気分が優れない…」
「…承知致しました」
そう返事をして、テラスの一団から少しだけ距離を取り、ジーク殿下に再び話しかける。
「お話しというのは、ジーク殿下…最近、ミーナ嬢と仲良くされて…」
そこまで述べた所で、ジーク殿下が私をギッと睨み、口を開く。
「…お前もなのか…?お前も俺に説教でもする気なのか!?この俺に向かって!!!」
いきなり人が変わったかの様に、ジーク殿下が声を張り上げる。
…これは予想外だ。
「いえ、誤解です!私は、ミーナ嬢のおっしゃる自由恋愛は、"とても素敵な考え"だと思っておりますわ。
ですので、ジーク殿下とミーナ嬢の関係を、私自身は応援しておりますの」
ジーク殿下が突然怒り出した事に、少々驚いたが、毅然として、優しい口調で否定する。
「……そうか。…声を荒げて悪かった…何だか気が立ってしまって……」
そう言って答えた殿下は、痛みに耐える様に、頭を抱え俯いてしまった。
「…いえ。ですが、殿下?…皆が同じ様に、彼女が言う"自由恋愛"という新しい考え方に、すぐに恭順出来るわけでは御座いませんわ…」
「ああ!!!そんな事は、わかってる!!!」
再び殿下が声を荒げた。
…殿下の様子は本当に可笑しい。だが、幸いにも話しは通じているので、構わず対話を試みる。
「では、…それが理由でミーナ嬢が、嫌がらせや虐めを受けているのはご存知ですか?」
「…ああ。…ミーナを虐めるなんて!!本当に腹立たしいっ!皆、消えれば良い!!」
…情緒がかなり不安定。とても正気だとは思えない。
「…ええ、私もそう思いますわ。ですので私は、愛し合うお2人が結ばれるように、そういった卑劣な行為をする者達を、粛清しようと思っておりますの…」
そう伝えるとジーク殿下は、眉間に皺を寄せ、頭を抱える。
「…そうか。それは良い。助かる…ありがとうアリス…」
そう静かに返された。
「…いえ、けれど、粛清をするには、大義名分が必要ですわ。
相手には高位貴族も含まれておりますし、男爵令嬢を虐めた程度の理由での粛清は、とてもでは無いですけれど、不可能ですわ」
「あぁっ!クソッ!なら、どうしたら良いと言うのだ!!!」
「…ご安心ください。この、アリスにお任せくださいませ。
ですが、その為に、ジーク殿下の婚約者候補の座に、私も座らせて頂きます。
もちろん、ジーク殿下のことは、"優しい従兄弟のお兄さま"としてしか見ておらず、恋愛感情は一切御座いませんわ。それに、血が近すぎるので、婚姻は事実上、無理に近いです。
お従兄さまの"自由恋愛"をお助けしたい。そのただ一心で、婚約者候補となりたいのです。
そして、婚約者候補の座に座り、無事に大義名分を得た暁には、ジーク従兄様とミーナ嬢にとっての脅威を、全て私が御してみせますわ」
頭を抱え、微かなうめき声を上げながら、ジーク殿下が静かに答える。
「……そうか…お前っ…アリスにとって…メリットが無いように…思うが…」
「そんな事は御座いません。…ジーク殿下が王位に就く事こそが、私にとって最大のメリットですわ。ご存じでしょう?」
「…ああ。そうだったな…婚約者の件…分かった。…よろしく頼む…ミーナを…幸せにしてやりたいんだ…」
「ありがとうございます。このアリスがお手伝いさせて頂きますわ」
「…ああ。…ありがとうアリス…」
「では、お時間とらせてしまい、申し訳御座いませんでした。今日は失礼させて頂きます。
今後進捗があったら、お知らせさせて頂きます」
「ああ…ありがとう…」
「いえ。ジーク殿下…お身体お大事になさってくださいませ。失礼致します」
優しくて紳士的で理知的。
そんな自慢のお従兄様だったのに…。
王位奪取計画・第一段階。準備。
・アリスがジーク殿下の婚約者候補になる。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
死にたがり令嬢が笑う日まで。
ふまさ
恋愛
「これだけは、覚えておいてほしい。わたしが心から信用するのも、愛しているのも、カイラだけだ。この先、それだけは、変わることはない」
真剣な表情で言い放つアラスターの隣で、肩を抱かれたカイラは、突然のことに驚いてはいたが、同時に、嬉しそうに頬を緩めていた。二人の目の前に立つニアが、はい、と無表情で呟く。
正直、どうでもよかった。
ニアの望みは、物心ついたころから、たった一つだけだったから。もとより、なにも期待などしてない。
──ああ。眠るように、穏やかに死ねたらなあ。
吹き抜けの天井を仰ぐ。お腹が、ぐうっとなった。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる