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魔王の心(3)
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「マルティナとして表に出したのは運がよかったわ。正体が知られるのは時間の問題でしょうけど」
強張る私を一瞥すると、フロランス様はパチンと扇子を閉じた。
「逆に言えば、正体が知られるまではまだ時間があるということよ。相手が動き出す前に、こちらも迎え撃つ準備ができるわ」
「…………え」
思わず私はつぶやいていた。
絶望的な状況、重苦しい空気など、フロランス様はものともしない。
険しい表情をしているものの、彼女の瞳に浮かぶのは、悲嘆や諦念とは明らかに違う
「相手の狙いはわかっているもの。これならいくらでもやりようがあるわ。前の魔王が生きていたころより、状況はずっとましよ。魔王は勇者でなければ倒せないけれど、ただの魔族が相手なら兵力で圧し潰せるものね」
フロランス様の声は力強い。
不安なんて吹き飛ばすような目で部屋の中の人たちを見回すと、彼女は凛と胸を張った。
「わたくしがいて、なにを不安に思う必要があって? あなたたちの力を借りるまでもないわ。――それがわかったなら、あなたたちはもう下がりなさい。そんな暗い顔を見ていては、わたくしの気も滅入ってしまうでしょう」
「つまり、年寄りに任せて休んでろってことだ。ははは、姉上は相変わらず言葉足らずでいらっしゃる!」
「コンラート、年寄りのあなたに休みはないわ。ソレイユの兵を借りるから、ひとっ走り行ってきなさい!」
余計なことを言ったコンラート様を、フロランス様がぎろりと睨む。
だけどコンラート様は気にした様子もなく、「人使いが荒いなあ!」とまた陽気に笑った。
重苦しい緊張感が薄れていく。
ようやく呼吸ができたような心地で、私はほっと息を吐いた。
だけど――。
私は気が付いていた。
和らぎ始めた空気の中で、アンリだけがうつむいたまま、口元を手で押さえ続けていたことを。
強張る私を一瞥すると、フロランス様はパチンと扇子を閉じた。
「逆に言えば、正体が知られるまではまだ時間があるということよ。相手が動き出す前に、こちらも迎え撃つ準備ができるわ」
「…………え」
思わず私はつぶやいていた。
絶望的な状況、重苦しい空気など、フロランス様はものともしない。
険しい表情をしているものの、彼女の瞳に浮かぶのは、悲嘆や諦念とは明らかに違う
「相手の狙いはわかっているもの。これならいくらでもやりようがあるわ。前の魔王が生きていたころより、状況はずっとましよ。魔王は勇者でなければ倒せないけれど、ただの魔族が相手なら兵力で圧し潰せるものね」
フロランス様の声は力強い。
不安なんて吹き飛ばすような目で部屋の中の人たちを見回すと、彼女は凛と胸を張った。
「わたくしがいて、なにを不安に思う必要があって? あなたたちの力を借りるまでもないわ。――それがわかったなら、あなたたちはもう下がりなさい。そんな暗い顔を見ていては、わたくしの気も滅入ってしまうでしょう」
「つまり、年寄りに任せて休んでろってことだ。ははは、姉上は相変わらず言葉足らずでいらっしゃる!」
「コンラート、年寄りのあなたに休みはないわ。ソレイユの兵を借りるから、ひとっ走り行ってきなさい!」
余計なことを言ったコンラート様を、フロランス様がぎろりと睨む。
だけどコンラート様は気にした様子もなく、「人使いが荒いなあ!」とまた陽気に笑った。
重苦しい緊張感が薄れていく。
ようやく呼吸ができたような心地で、私はほっと息を吐いた。
だけど――。
私は気が付いていた。
和らぎ始めた空気の中で、アンリだけがうつむいたまま、口元を手で押さえ続けていたことを。
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