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エンディングイベント開始(8)
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オレリア様は目を見開き、すごい形相でアンリを見ていた。
だけどアンリは目もくれない。
彼の顔は、大広間の奥に座る陛下にまっすぐ向けられていた。
「父上」
聞こえたのは、聞いたこともない低い声だ。
冷たく、抑揚が少なく、だけどたしかな怒りに満ちた声。
「俺はオレリアと婚約するつもりはありません」
寒気がするほどのその声に、陛下が身を竦ませた。
先ほどまで浮かべていた機嫌の良い笑みは消え、見てわかるほどに青ざめていく。
「な、なにを怒っておる。たしかに強引ではあったが、そなたの望みはわかっておるぞ」
「俺はこんなことを望んではいません。何度も言ったはずです」
「それは、そ、そなたがオレリアを守るために偽っていただけであろう!」
思わず、という様子で腰を浮かすと、陛下は救いを求めるように周囲に視線を巡らせた。
貴族たち、見たことのない外国からの来賓、最後にオレリア様を見て、彼は声を荒げる。
「そなたの想う女性の特徴は、まさにオレリアを示しているではないか! 身分差があって、そなたの力を恐れず、美しい娘! だいたい、他の者たちも言っておるぞ。そなたのために、オレリアを結婚させるようにと!」
「他の者とは誰ですか」
恫喝するような陛下の声に、アンリは怯みもしない。
そのまま一歩足を踏み出せば、逆に陛下が震えて体をのけぞらせる。
「これは、誰に言われてやったことですか」
「そ、それは……」
「俺は――」
一度言葉を止めると、アンリはさらに一歩足を進める。
そうして立ち止まったのは、披露宴の真ん中。全員が見守る中、彼は陛下から視線を逸らし、賓客たちを鋭く睨んだ。
「俺はこんなことをしろと命令していない! 誰が命じた!」
声と同時に、どこからか強い風が吹く。
大広間に響くアンリの声は、人を委縮させるような冷たい威厳があった。
オレリア様が、怯えたように体を抱く。
アデライトが私の服の袖を掴み、コンラート様さえも笑顔を消した。
渦を巻くように吹き続ける風に、私は息を呑んだ。
今のアンリは、暴発寸前だ。
怒りをこらえて握りしめられた手が、かすかに震えているのが見えた。
「め、め、命じられたなどと、わしに向かってなにを言う!」
アンリの怒りを目の当たりにして、陛下は青ざめながら甲高い声を上げた。
「わしはそなたの父親だぞ! そなたのことを思って、報われない恋に力を貸してやったのではないか!」
「俺のことを思って?」
アンリの声は変わらず、冷たい。
陛下は一度「ぐっ」と言葉を詰まらせるが、それでも意地を張ったように首を振る。
「もちろんだ! だ、だいたいそなたが、はっきり相手を言わないのも悪いであろう! オレリアでなければ、いったい誰だと言うつもりか!!」
陛下の叫びが大広間にこだまし、それからしんと静まり返る。
奇妙な沈黙の中、アンリは短く一つ息を吐く。
「いいでしょう」
アンリはそう言うと、ゆっくりと背後に振り返り、静寂の中で足を進める。
無数の視線を、彼はものともしない。
彼はただ、まっすぐに私を見つめ――私の前で立ち止まった。
「…………君を巻き込みたくなかった」
ごめん、とかすかな声が聞こえたのは、一瞬。
幻聴かと思うよりも早く、私はアンリに手を引かれた。
――えっ。
と思う間もない。思いがけない強い力で引っ張られ、慣れない靴を履いていた私は前のめりになり――。
「紹介いたします。彼女の名前はマルティナ。タイレ公爵家の養女です」
転びかけるより早く、アンリの腕に抱き留められた。
手は握られたまま。腰には私を支えるアンリの腕。ぎゅっと抱き寄せられていて、体がぴたりとくっついている。
「手紙でもお伝えした通り、彼女こそが俺の想い人で、結婚したいと思っている相手です!」
すぐ近くでアンリが話しているのに、言葉のほとんどが耳に入らない。
ただ、アンリがなにか言うたびに、体にその振動が伝わってくる。
身じろぎ一つ、呼吸の一つさえも感じる距離に、私の呼吸が止まりそうだった。
――こ、こここ……。
ただ、心臓だけが尋常ではないくらいに跳ねている。
――こ、ここまでするとは聞いてない!!!!
アンリの宣言に、大広間中の視線が集まっている。
無言で私を見つめる外国からの客たち。訝しそうな国内の貴族たち。
目を見開いているのは陛下だ。
オレリア様はものすごい目で私を睨みつけ、アデライトは頬を押さえるように、鉄仮面に両手を当てている。
コンラート様だけは相変わらず、場違いなまでに陽気な笑みで、ヒュウ、と口笛を吹いた。
――ヒュウ、じゃないわ!!
囃すようなその音に、私は内心で叫んだ。
『ごめん』って、こういう意味だったの!?
だけどアンリは目もくれない。
彼の顔は、大広間の奥に座る陛下にまっすぐ向けられていた。
「父上」
聞こえたのは、聞いたこともない低い声だ。
冷たく、抑揚が少なく、だけどたしかな怒りに満ちた声。
「俺はオレリアと婚約するつもりはありません」
寒気がするほどのその声に、陛下が身を竦ませた。
先ほどまで浮かべていた機嫌の良い笑みは消え、見てわかるほどに青ざめていく。
「な、なにを怒っておる。たしかに強引ではあったが、そなたの望みはわかっておるぞ」
「俺はこんなことを望んではいません。何度も言ったはずです」
「それは、そ、そなたがオレリアを守るために偽っていただけであろう!」
思わず、という様子で腰を浮かすと、陛下は救いを求めるように周囲に視線を巡らせた。
貴族たち、見たことのない外国からの来賓、最後にオレリア様を見て、彼は声を荒げる。
「そなたの想う女性の特徴は、まさにオレリアを示しているではないか! 身分差があって、そなたの力を恐れず、美しい娘! だいたい、他の者たちも言っておるぞ。そなたのために、オレリアを結婚させるようにと!」
「他の者とは誰ですか」
恫喝するような陛下の声に、アンリは怯みもしない。
そのまま一歩足を踏み出せば、逆に陛下が震えて体をのけぞらせる。
「これは、誰に言われてやったことですか」
「そ、それは……」
「俺は――」
一度言葉を止めると、アンリはさらに一歩足を進める。
そうして立ち止まったのは、披露宴の真ん中。全員が見守る中、彼は陛下から視線を逸らし、賓客たちを鋭く睨んだ。
「俺はこんなことをしろと命令していない! 誰が命じた!」
声と同時に、どこからか強い風が吹く。
大広間に響くアンリの声は、人を委縮させるような冷たい威厳があった。
オレリア様が、怯えたように体を抱く。
アデライトが私の服の袖を掴み、コンラート様さえも笑顔を消した。
渦を巻くように吹き続ける風に、私は息を呑んだ。
今のアンリは、暴発寸前だ。
怒りをこらえて握りしめられた手が、かすかに震えているのが見えた。
「め、め、命じられたなどと、わしに向かってなにを言う!」
アンリの怒りを目の当たりにして、陛下は青ざめながら甲高い声を上げた。
「わしはそなたの父親だぞ! そなたのことを思って、報われない恋に力を貸してやったのではないか!」
「俺のことを思って?」
アンリの声は変わらず、冷たい。
陛下は一度「ぐっ」と言葉を詰まらせるが、それでも意地を張ったように首を振る。
「もちろんだ! だ、だいたいそなたが、はっきり相手を言わないのも悪いであろう! オレリアでなければ、いったい誰だと言うつもりか!!」
陛下の叫びが大広間にこだまし、それからしんと静まり返る。
奇妙な沈黙の中、アンリは短く一つ息を吐く。
「いいでしょう」
アンリはそう言うと、ゆっくりと背後に振り返り、静寂の中で足を進める。
無数の視線を、彼はものともしない。
彼はただ、まっすぐに私を見つめ――私の前で立ち止まった。
「…………君を巻き込みたくなかった」
ごめん、とかすかな声が聞こえたのは、一瞬。
幻聴かと思うよりも早く、私はアンリに手を引かれた。
――えっ。
と思う間もない。思いがけない強い力で引っ張られ、慣れない靴を履いていた私は前のめりになり――。
「紹介いたします。彼女の名前はマルティナ。タイレ公爵家の養女です」
転びかけるより早く、アンリの腕に抱き留められた。
手は握られたまま。腰には私を支えるアンリの腕。ぎゅっと抱き寄せられていて、体がぴたりとくっついている。
「手紙でもお伝えした通り、彼女こそが俺の想い人で、結婚したいと思っている相手です!」
すぐ近くでアンリが話しているのに、言葉のほとんどが耳に入らない。
ただ、アンリがなにか言うたびに、体にその振動が伝わってくる。
身じろぎ一つ、呼吸の一つさえも感じる距離に、私の呼吸が止まりそうだった。
――こ、こここ……。
ただ、心臓だけが尋常ではないくらいに跳ねている。
――こ、ここまでするとは聞いてない!!!!
アンリの宣言に、大広間中の視線が集まっている。
無言で私を見つめる外国からの客たち。訝しそうな国内の貴族たち。
目を見開いているのは陛下だ。
オレリア様はものすごい目で私を睨みつけ、アデライトは頬を押さえるように、鉄仮面に両手を当てている。
コンラート様だけは相変わらず、場違いなまでに陽気な笑みで、ヒュウ、と口笛を吹いた。
――ヒュウ、じゃないわ!!
囃すようなその音に、私は内心で叫んだ。
『ごめん』って、こういう意味だったの!?
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