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エンディングイベント開始(2)

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 ――神様……私の教育が悪かったのでしょうか……。

 幼少期は世話係として、大きくなってからは侍女として、アデライトの一番近くにいたのは私であるという自負がある。
 悪いことをすれば叱ったし、良いことをすれば褒めてきた。
 無茶をいさめるのも私の役目。暴走しがちなアデライトに、少々口うるさいくらいには言い聞かせてきたはずだ。
 アデライト様は第一王女で、このグロワールの至宝。その身になにかあれば、私はもちろんのこと、国中の人が悲しむのだ――と。

 そんな私のお説教は、アデライトには届かなかったらしい。

「どうしてって……だって、なんか心配だったから……」
「私は……アデライト様が心配です……」

 鉄仮面に全身を覆う甲冑。腰に剣まで差し、まったく王女の面影を見せないアデライトに、私は思わずそう呟いていた。
 離宮への護衛はフロランス様自らが選んだというのに、どうやって入れ替わったというのだろう。
 今ごろ離宮では、フロランス様が激怒されていらっしゃるのではないだろうか……。

 などと遠い目をする私に、アデライトはムキになったように肩を怒らせる。

「本当に、心配だったのよ! 私だって、ただ追いかけて来ただけじゃないんだから!!」

 静かにして、と言った割に、アデライトに声を抑える気はないらしい。
 ちらりと馬車から確認すれば、アンリ達は一段の遥か前を行っている。アデライトの声も、さすがに届いてはいないようだ。

 それをいいことに、アデライトの声はますます大きくなる。

「魔王のことで、ちょっと思い出したことがあるのよ! ほら、前にミシェルと話したでしょう? 魔王を倒す方法の話!」
「オレリア様との絆が必要だ、っていうお話ですか?」

 魔王を倒すには、オレリア様と『攻略対象』――すなわち、アンリとの絆が必要だ、という話は、以前にアデライトから聞いていた。
 この絆とは、すなわち愛情。アンリがオレリア様を愛していなければならないという。

 だけど実際は、アンリはオレリア様と恋仲にならないまま、魔王を倒して帰ってきた。
『絆なんていらなかった』と言ったのは、アデライト自身のはずだ。

「それがどうかされたんです?」
「どうかするかはわからないけど、気づいたことがあるの! このゲームのエンディングについて!」
「エンディング、ですか」

 そう! とアデライトは強くうなずいた。

「オレリアはたぶん、正規のエンディングを再現しようとしていると思うのよ! 婚約発表をして、人前でお兄様に『俺の愛する人はオレリアだけだ』って言わせれば、ゲームではハッピーエンドだから!」
「それを、今回の婚約披露宴の場で……?」

 さすがの私も眉をひそめてしまう。
 こうも強引な婚約披露宴をしておきながら、アンリにその言葉を言わせるのは無理があるのではないだろうか。

「オレリアはそのつもりだろうけど、違うの!」

 私の疑問を読んだように、アデライトは首を横に振る。
 鉄仮面が大きく揺れ、ガシャンと重たい音を立てた。

「この状況になるエンディングが、もう一つあるのよ!」

 馬車を操るアデライトの手に力がこもる。
 鉄仮面越しでもわかる焦りをにじませ、彼女はこう叫んだ。

「スタッフロールも流れない、スチルもない、完全なバッドエンド! エンディングリストにすら乗らないゲームオーバーのときと同じ状況なのよ!!」
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