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私はヒロインなのよ(2) ※聖女視点
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「――陛下! お話があります!!」
ノックもなしに扉を開けると、オレリアはつかつかと部屋の中に入って行った。
入り口に立っていた従者が慌ててオレリアを止めようとするが、彼女は意にも介さない。
まっすぐ、部屋の中央にいるグロワール国王へと歩み寄る。
「おや、オレリア殿。はっは、そんな怖い顔をして、いったいどうした?」
グロワール国王は、突然入って来たオレリアをちらりと一瞥し、大きな体で鷹揚に笑った。
「急ぎの用件かな? 手紙を書きながらで良ければ聞くがね」
そう言うと、国王はすぐにオレリアから視線を逸らした。
代わりに彼が目を向けるのは、書きかけの手紙だ。
鼻歌を歌いながら筆を取る国王の姿に、オレリアのこめかみが引きつる。
――こっちは大変な目に遭ったのに、暢気に手紙なんて! こんなのろまが国王だから、悪役に好きにさせるのよ!!
内心で罵倒しながら、オレリアは国王の向かう机の前で立ち止まった。
そのまま苛立ちを込めて机を叩き、国王にぐっと顔を近づける。
「な、なんだね……?」
「陛下、アンリの態度はどういうことですか」
国王の言葉には答えず、オレリアはぎろりと彼を睨みつけた。
相手が国王だとはわかっているが、無礼だとは思わない。
なにせ彼女は、世界を救った聖女なのだ。そこらの国王なんかよりも、ずっと価値のある存在だと自覚している。
「アンリは私のことが好きなんでしょう? 陛下がそうおっしゃったんですよね!!」
「そ、その通りだとも。おかげで散々、婚約の申し出を断る羽目になったのだぞ」
ふん、と鼻で息を吐き、国王は少しばかり不快そうに眉をひそめた。
アンリの婚約は、国王にとっては悩みの種の一つだったのだ。
「あやつめ、想い人がいるという割に、名前を明かしたがらんからな。わしがいくら良縁だと言い聞かせても聞く耳を持たん。正妃でなくとも、側室や愛人にでもすればいいだろうというのに、アンリめ、『私には、すでに心に決めた相手がおります。他の誰とも結婚する気はありません』などと言いおって」
あまりのアンリの頑固さにしびれを切らし、当人には秘密のまま縁談を進めたこともあった。
だというのに、アンリは旅の最中でありながら、どこからともなく話を聞き付けてきた。
挙句、アンリ自身で縁談を断り、国王の面目を潰してしまったのだ。
思い出しても頭痛のする出来事に、国王は頭を抱えて首を振る。
「いったい何者かと問い詰めても、アンリは口を割らなかった。『身分差のある相手ですので、今はまだ言えません。彼女の身を危険に晒す可能性もあるので』とな。まったく、そんな身分の相手なら、愛人にでもしておけばよいだろうに。そもそも、そんな低い身分の者など、王子の相手として務まるはずがない――――そう思っていたのだが」
言葉を切り、国王はオレリアに顔を向ける。
アンリにどこか似たその顔に、強い確信が宿っている。
「そなたを見て、アンリの頑固さの理由がわかった。なるほど、アンリの想い人とは、そなたのことであったのか、と」
「私……」
「たしかに身分の差はあるが、そなたであれば王子の妻として不足ない。一途に想うに足る人物でもあるだろう。危険というのは、そなたとの結婚を反対する者たちのことだな。しっかりと地固めをするまでは黙っているつもりだったのだろうが――父であるわしには、ピンと来た」
うむ、と力強く頷き、国王は目を細めた。
アンリと同じ青い瞳が、彼の言葉に説得力を与えてくれる。
「あやつの態度を見れば、すぐにわかる。アンリは間違いなく誰よりも、そなたを大切に思っている」
「そう……ですよね」
――やっぱり、そうよね。
緩む頬を押さえながら、オレリアは改めて実感する。
わかってはいたけれど、やはりアンリは自分に想いを寄せているのだ。
安堵し、自身を取り戻すオレリアに向けて、国王はさらに言い募る。
「アンリはこんなことも言っておったぞ。『彼女は、私の力を恐れず傍に居続けてくれました。私のことを恐れず、言葉をかけ、化け物ではなく人として見てくれました。……誰よりも、美しい人です』と。アンリの力を恐れない、美しい女性とは、そなた以外におるまいよ」
「そんなことまで……」
緩んだ頬が赤くなる。
アンリの言葉は、まさに自分のことを示しているとしか思えなかった。
旅の最中では本音を出してくれなかったが、本心ではここまで愛してくれていたのだ。
――素直じゃないわ、もう……。
国王の話を聞けば聞くほど、アンリの想いを確信する。
アンリの気持ちに間違いがないとなれば、先ほどの悪役令嬢との一件こそが、なにかの間違いだったのだ。
――イベントを邪魔されたからかしら。
あの悪役のせいで、イベントが正しく進行しなかった。いわばバグみたいな状態になってしまったのかもしれない。
似たようなことは、これまでにも何度もあった。
起こるはずのイベントが起こらず、どうにか起こしたイベントも内容が変わってしまい、軌道修正に苦労したものだ。
魔王退治のイベントさえも変化してしまったときはどうしようかと思ったが、なんとか倒してきたというのに。
――本当に、邪魔だわ。あの女。
悪役のくせにヒロインの先回りをして、イベントを横取りするなんて、図々しいにもほどがある。
それでも、結局はゲームの通りに進んでいるのだから、無駄な努力もいいところだ。
いい加減、諦めて――――。
「…………さっさと処刑されればいいのに」
オレリアは小さく本心を口に出す。
それから、隣で聞いていた国王が不思議そうに首を傾げているのに気づき、口元に笑みを浮かべた。
――あっちが先回りするなら、こっちも同じことをすればいいのよ。
どうせ、エンディングで悪役令嬢は処刑されるのだ。
それならば、エンディングを待つのではなく――自分でエンディングを起こせばいい。
盛大な婚約発表と、婚約式。
この二つさえ行えば、それでゲームはおしまいだ。
あとは悪役のいない、幸せな王子妃の生活が待っている。
「――――陛下」
オレリアは覚悟を決め、国王に呼びかけた。
「陛下のお言葉に、私も自信が持てましたわ。私は危険に晒されるなんて、怖くありません。アンリとの婚約を、世界中に広く公表いたしましょう!」
ノックもなしに扉を開けると、オレリアはつかつかと部屋の中に入って行った。
入り口に立っていた従者が慌ててオレリアを止めようとするが、彼女は意にも介さない。
まっすぐ、部屋の中央にいるグロワール国王へと歩み寄る。
「おや、オレリア殿。はっは、そんな怖い顔をして、いったいどうした?」
グロワール国王は、突然入って来たオレリアをちらりと一瞥し、大きな体で鷹揚に笑った。
「急ぎの用件かな? 手紙を書きながらで良ければ聞くがね」
そう言うと、国王はすぐにオレリアから視線を逸らした。
代わりに彼が目を向けるのは、書きかけの手紙だ。
鼻歌を歌いながら筆を取る国王の姿に、オレリアのこめかみが引きつる。
――こっちは大変な目に遭ったのに、暢気に手紙なんて! こんなのろまが国王だから、悪役に好きにさせるのよ!!
内心で罵倒しながら、オレリアは国王の向かう机の前で立ち止まった。
そのまま苛立ちを込めて机を叩き、国王にぐっと顔を近づける。
「な、なんだね……?」
「陛下、アンリの態度はどういうことですか」
国王の言葉には答えず、オレリアはぎろりと彼を睨みつけた。
相手が国王だとはわかっているが、無礼だとは思わない。
なにせ彼女は、世界を救った聖女なのだ。そこらの国王なんかよりも、ずっと価値のある存在だと自覚している。
「アンリは私のことが好きなんでしょう? 陛下がそうおっしゃったんですよね!!」
「そ、その通りだとも。おかげで散々、婚約の申し出を断る羽目になったのだぞ」
ふん、と鼻で息を吐き、国王は少しばかり不快そうに眉をひそめた。
アンリの婚約は、国王にとっては悩みの種の一つだったのだ。
「あやつめ、想い人がいるという割に、名前を明かしたがらんからな。わしがいくら良縁だと言い聞かせても聞く耳を持たん。正妃でなくとも、側室や愛人にでもすればいいだろうというのに、アンリめ、『私には、すでに心に決めた相手がおります。他の誰とも結婚する気はありません』などと言いおって」
あまりのアンリの頑固さにしびれを切らし、当人には秘密のまま縁談を進めたこともあった。
だというのに、アンリは旅の最中でありながら、どこからともなく話を聞き付けてきた。
挙句、アンリ自身で縁談を断り、国王の面目を潰してしまったのだ。
思い出しても頭痛のする出来事に、国王は頭を抱えて首を振る。
「いったい何者かと問い詰めても、アンリは口を割らなかった。『身分差のある相手ですので、今はまだ言えません。彼女の身を危険に晒す可能性もあるので』とな。まったく、そんな身分の相手なら、愛人にでもしておけばよいだろうに。そもそも、そんな低い身分の者など、王子の相手として務まるはずがない――――そう思っていたのだが」
言葉を切り、国王はオレリアに顔を向ける。
アンリにどこか似たその顔に、強い確信が宿っている。
「そなたを見て、アンリの頑固さの理由がわかった。なるほど、アンリの想い人とは、そなたのことであったのか、と」
「私……」
「たしかに身分の差はあるが、そなたであれば王子の妻として不足ない。一途に想うに足る人物でもあるだろう。危険というのは、そなたとの結婚を反対する者たちのことだな。しっかりと地固めをするまでは黙っているつもりだったのだろうが――父であるわしには、ピンと来た」
うむ、と力強く頷き、国王は目を細めた。
アンリと同じ青い瞳が、彼の言葉に説得力を与えてくれる。
「あやつの態度を見れば、すぐにわかる。アンリは間違いなく誰よりも、そなたを大切に思っている」
「そう……ですよね」
――やっぱり、そうよね。
緩む頬を押さえながら、オレリアは改めて実感する。
わかってはいたけれど、やはりアンリは自分に想いを寄せているのだ。
安堵し、自身を取り戻すオレリアに向けて、国王はさらに言い募る。
「アンリはこんなことも言っておったぞ。『彼女は、私の力を恐れず傍に居続けてくれました。私のことを恐れず、言葉をかけ、化け物ではなく人として見てくれました。……誰よりも、美しい人です』と。アンリの力を恐れない、美しい女性とは、そなた以外におるまいよ」
「そんなことまで……」
緩んだ頬が赤くなる。
アンリの言葉は、まさに自分のことを示しているとしか思えなかった。
旅の最中では本音を出してくれなかったが、本心ではここまで愛してくれていたのだ。
――素直じゃないわ、もう……。
国王の話を聞けば聞くほど、アンリの想いを確信する。
アンリの気持ちに間違いがないとなれば、先ほどの悪役令嬢との一件こそが、なにかの間違いだったのだ。
――イベントを邪魔されたからかしら。
あの悪役のせいで、イベントが正しく進行しなかった。いわばバグみたいな状態になってしまったのかもしれない。
似たようなことは、これまでにも何度もあった。
起こるはずのイベントが起こらず、どうにか起こしたイベントも内容が変わってしまい、軌道修正に苦労したものだ。
魔王退治のイベントさえも変化してしまったときはどうしようかと思ったが、なんとか倒してきたというのに。
――本当に、邪魔だわ。あの女。
悪役のくせにヒロインの先回りをして、イベントを横取りするなんて、図々しいにもほどがある。
それでも、結局はゲームの通りに進んでいるのだから、無駄な努力もいいところだ。
いい加減、諦めて――――。
「…………さっさと処刑されればいいのに」
オレリアは小さく本心を口に出す。
それから、隣で聞いていた国王が不思議そうに首を傾げているのに気づき、口元に笑みを浮かべた。
――あっちが先回りするなら、こっちも同じことをすればいいのよ。
どうせ、エンディングで悪役令嬢は処刑されるのだ。
それならば、エンディングを待つのではなく――自分でエンディングを起こせばいい。
盛大な婚約発表と、婚約式。
この二つさえ行えば、それでゲームはおしまいだ。
あとは悪役のいない、幸せな王子妃の生活が待っている。
「――――陛下」
オレリアは覚悟を決め、国王に呼びかけた。
「陛下のお言葉に、私も自信が持てましたわ。私は危険に晒されるなんて、怖くありません。アンリとの婚約を、世界中に広く公表いたしましょう!」
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