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ポンコツ王女と作戦会議(5)
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「お兄様ルートのエンディングは、お兄様とオレリアの婚約式なのよ。昨日のお父様の婚約宣言イベントがあって、いくつかの小イベントの後に私の断罪イベントがあって、それからエンディングの婚約式があるの。これがハッピーエンド」
紙に書かれる文字が増えていく。
昨日の婚約宣言イベントは「済」。他のイベントは「未」。おそらく、これから起こることなのだろう。
「バッドエンドの場合は断罪イベントが起こらないわ。そのままエンディングに直行して、恋を秘めたまま神殿で暮らすオレリアのシーンになるの。……まあ、本当はバッドエンドのときは、婚約宣言イベントも起きないはずだけど。あのイベント、一定以上の好感度がないと起こらないもの」
好感度とは、アンリがオレリア様に向ける愛情の大きさである、とのことだ。
そうなると、彼はやはりオレリア様に好意を抱いているのだろうか。
――……当たり前よね。だって二年も旅をしてきたのだし。
きっと旅先では、私の知らない様々なことが起きただろう。
そこで距離を縮めるなんて、ありそうな話だ――と、ついつい目を伏せる私に、アデライトが断固としてテーブルを叩く。
「だから、好感度を上げさせないよういろいろ旅の邪魔をしてきたのよ!」
「旅の邪魔……?」
「そう! 看病イベントで良い雰囲気にさせないように特効薬を送ったり、敵に捕らわれるイベントでは二人で力を合わせないよう増援を送ったり! 雪山の洞窟で二人っきり、裸で温め合うイベントなんて絶対させたくないから、髭ドワーフを十人くらい先回りさせて、全員で温めさせたのよ!!」
それは旅の手助けでは?
と疑問を抱く私を横に、アデライトは興奮したように頭を振る。
「なのに、どうして婚約宣言されちゃったの!? いつの間にそんな好感度上がってたの!? 私のお兄様なのに! 私が認めた相手じゃないと結婚なんて許さないんだから!!」
「ま、まあまあ、落ち着いてください」
癇癪を起こすアデライトに、私は宥めるように声をかける。
アデライトのした『邪魔』は、二人の恋路には邪魔であるだろうけれど、旅としてはどう考えても手助けだ。
これで断罪イベントとやらが起こるとは思えない。
それに、邪魔をされてもなお恋が進展しているのなら、それは本物の気持ちだ。
外野が――私たちが口出しをするようなことではない。
「アンリ様が選んだ相手なら仕方ありませんよ。ここは大人しく身を引いて――」
「なにを他人事のように!」
がばっと顔を上げ、アデライトは私をねめつける。
「本当は、あなたがお兄様の婚約者になるはずだったのよ! 上手くいってると思ってたのに、なんでまだ婚約してないのよ!!」
「そ、そんなこと言われましても……」
「求婚だってされたでしょう!? いい雰囲気だったじゃない!! 二人っきりで、月の下で!!」
「なんで知ってるんですか!?」
「見ていたもの! ついでに人が来ないように見張ってたもの!!」
そ、それは二人きりとは言わないのでは!?
『二人だけの秘密』なんて胸に秘めていた私が恥ずかしい!
「あそこで絶対婚約したと思ったのに、お兄様のなにが不満なのよ! あんな素敵な人、他にいないじゃない!!」
「ふ、不満はない――わけではないですけど……!」
アンリの不安定な魔力にさんざん巻き込まれた身としては、多少思うところはある。
だけどそれを含めても、アンリは私にもったいない相手だ。
だからこそ、私は――。
「身分差なんて言わないわよね! なによ身分なんて! 昔は誰もお兄様に近寄ろうともしなかったくせに、今さら言い寄るなんて!」
私の言葉を奪い、アデライトは声を荒げる。
「ミシェルは、昔から傍にいたから許してあげるの。ミシェルだけよ! お兄様の結婚相手は、他にいないの!」
「そ、そうおっしゃられましても……!」
私はすでに、アンリに振られてしまった身だ。
他にいないとアデライトは思っていても、アンリの中の選択肢から私は消えている。
しかし、私の弱気をアデライトは聞きもしない。
「お兄様なんて、ミシェルが押せ押せで攻めれば簡単よ! 今もどうせ逃げ回っているんでしょうし、捕まえに行くわよ!」
「お、押せ押せ? 捕まえる?」
勢いに圧され、身を引く私の手を、アデライトは問答無用でむんずと掴んだ。
まさに猪突猛進。思い立ったらすぐ行動、と言わんばかりである。
「次のイベントはお兄様が来るはずなの! ついでにイベントも阻止するわ! これ以上オレリアとの仲を進展させてたまるもんですか!!」
そう言うと、アデライトは私の手を取ったまま、暴れ馬のように勢いよく部屋を飛び出した。
紙に書かれる文字が増えていく。
昨日の婚約宣言イベントは「済」。他のイベントは「未」。おそらく、これから起こることなのだろう。
「バッドエンドの場合は断罪イベントが起こらないわ。そのままエンディングに直行して、恋を秘めたまま神殿で暮らすオレリアのシーンになるの。……まあ、本当はバッドエンドのときは、婚約宣言イベントも起きないはずだけど。あのイベント、一定以上の好感度がないと起こらないもの」
好感度とは、アンリがオレリア様に向ける愛情の大きさである、とのことだ。
そうなると、彼はやはりオレリア様に好意を抱いているのだろうか。
――……当たり前よね。だって二年も旅をしてきたのだし。
きっと旅先では、私の知らない様々なことが起きただろう。
そこで距離を縮めるなんて、ありそうな話だ――と、ついつい目を伏せる私に、アデライトが断固としてテーブルを叩く。
「だから、好感度を上げさせないよういろいろ旅の邪魔をしてきたのよ!」
「旅の邪魔……?」
「そう! 看病イベントで良い雰囲気にさせないように特効薬を送ったり、敵に捕らわれるイベントでは二人で力を合わせないよう増援を送ったり! 雪山の洞窟で二人っきり、裸で温め合うイベントなんて絶対させたくないから、髭ドワーフを十人くらい先回りさせて、全員で温めさせたのよ!!」
それは旅の手助けでは?
と疑問を抱く私を横に、アデライトは興奮したように頭を振る。
「なのに、どうして婚約宣言されちゃったの!? いつの間にそんな好感度上がってたの!? 私のお兄様なのに! 私が認めた相手じゃないと結婚なんて許さないんだから!!」
「ま、まあまあ、落ち着いてください」
癇癪を起こすアデライトに、私は宥めるように声をかける。
アデライトのした『邪魔』は、二人の恋路には邪魔であるだろうけれど、旅としてはどう考えても手助けだ。
これで断罪イベントとやらが起こるとは思えない。
それに、邪魔をされてもなお恋が進展しているのなら、それは本物の気持ちだ。
外野が――私たちが口出しをするようなことではない。
「アンリ様が選んだ相手なら仕方ありませんよ。ここは大人しく身を引いて――」
「なにを他人事のように!」
がばっと顔を上げ、アデライトは私をねめつける。
「本当は、あなたがお兄様の婚約者になるはずだったのよ! 上手くいってると思ってたのに、なんでまだ婚約してないのよ!!」
「そ、そんなこと言われましても……」
「求婚だってされたでしょう!? いい雰囲気だったじゃない!! 二人っきりで、月の下で!!」
「なんで知ってるんですか!?」
「見ていたもの! ついでに人が来ないように見張ってたもの!!」
そ、それは二人きりとは言わないのでは!?
『二人だけの秘密』なんて胸に秘めていた私が恥ずかしい!
「あそこで絶対婚約したと思ったのに、お兄様のなにが不満なのよ! あんな素敵な人、他にいないじゃない!!」
「ふ、不満はない――わけではないですけど……!」
アンリの不安定な魔力にさんざん巻き込まれた身としては、多少思うところはある。
だけどそれを含めても、アンリは私にもったいない相手だ。
だからこそ、私は――。
「身分差なんて言わないわよね! なによ身分なんて! 昔は誰もお兄様に近寄ろうともしなかったくせに、今さら言い寄るなんて!」
私の言葉を奪い、アデライトは声を荒げる。
「ミシェルは、昔から傍にいたから許してあげるの。ミシェルだけよ! お兄様の結婚相手は、他にいないの!」
「そ、そうおっしゃられましても……!」
私はすでに、アンリに振られてしまった身だ。
他にいないとアデライトは思っていても、アンリの中の選択肢から私は消えている。
しかし、私の弱気をアデライトは聞きもしない。
「お兄様なんて、ミシェルが押せ押せで攻めれば簡単よ! 今もどうせ逃げ回っているんでしょうし、捕まえに行くわよ!」
「お、押せ押せ? 捕まえる?」
勢いに圧され、身を引く私の手を、アデライトは問答無用でむんずと掴んだ。
まさに猪突猛進。思い立ったらすぐ行動、と言わんばかりである。
「次のイベントはお兄様が来るはずなの! ついでにイベントも阻止するわ! これ以上オレリアとの仲を進展させてたまるもんですか!!」
そう言うと、アデライトは私の手を取ったまま、暴れ馬のように勢いよく部屋を飛び出した。
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