8 / 76
ポンコツ王女と作戦会議(3)
しおりを挟む
かつてはアンリとともに陛下に疎まれ、離宮に追いやられたアデライトだが、現在は王宮で暮らしている。
アンリが旅立つ二年前、アンリともども陛下に認められ、王宮に部屋を持つことを許されたからだ。
その王宮にあるアデライトの部屋で、私は丸テーブルを挟んで渋面を突き合わせていた。
作戦会議である。
「だから、さっきも言った通りここは乙女ゲームの世界なのよ! オレリアはヒロインで、私は悪役令嬢なの!」
作戦会議である、と思う。
「悪役令嬢はゲームの中の邪魔者よ! 特にお兄様ルートでは鬱陶しいくらい邪魔してきて、バッドエンド以外は全部私が処刑されて終わるの!!」
「ま、待ってください! 『おとめげーむ』というのがまずわかりません!」
「乙女ゲームは乙女ゲームよ! 理解しなさい!」
そんな無茶な!
「オレリアがお兄様と婚約したら、ノーマルエンド以上確定するの。つまり、私の処刑確定。だから、あの二人の婚約を阻止しないといけないの! わかった!?」
「わかりません!!」
まくしたてるようなアデライトの説明に、私は悲鳴を上げた。
作戦の前の基礎知識として『おとめげーむ』なるものの説明を受けているが、知らない単語ばかりでまったく頭が追い付かない。
意味不明の単語を次々と口にする彼女を見て、私は内心で頭を抱えた。
――アデライトが変なことを言い出すなんて、今に始まったことではないけど……!
唐突に意味不明なことを言い出すのは、アデライトが子供のころから変わらない。
特に幼いころは、周囲に理解されないことに癇癪を起し、大暴れしたものだ。
兄譲りの魔力もあったせいで、怒ると手が付けられなかったのを覚えている。
知らないものを懐かしがり、あるはずのないものを『ある』と言い、ふとした瞬間、妙に大人びた顔をして、寂しそうに俯く。
そんな彼女を、父である国王陛下はもちろん、使用人たちも気味悪がった。
誰からも遠巻きにされる彼女は、アンリと同じく孤独だった。
変わり始めたのは、彼女の言葉がただ支離滅裂なだけではない、とみんなが知るようになってからだ。
アデライトは、アンリが勇者として旅立つ日のことも、魔王退治の旅に加わる仲間たちの名前も言い当てた。
学者も知らない知識を持ち、熱を持つ粉や、氷よりも冷たい氷を作り出した。
きっと彼女には、未来を視る力があるのだ。
奇妙な言動も、未来として視たものを現実と認識してしまったためだろう。
わかってしまえば、なんてこともない。
アデライトは今も昔も変人ではあるけれど、むやみに人を困らせるような性格ではないと、もうみんなわかっていた。
――今だって。
「……アデライト様」
いらいらと頭を掻くアデライトに、私はそっと呼びかけた。
「その、『おとめげーむ』のこと、もう一度教えていただけませんか。アデライト様のお話を、きちんと理解したいんです」
聞き流したり、理解を諦めたりはしない。
子供のころから、アデライトはちゃんと聞けば答えてくれるのだ。
「……なによ」
アデライトは不機嫌そうに、どこか子供じみた表情で私を睨む。
「そういう言い方、ずるいわ。腹立つ!」
腹立つ、けど――と言って、アデライトはかすかに俯いた。
いつも自信満々な彼女らしくもない。彼女はどこか不安そうな顔をして、小さく口を開いた。
「これはお兄様にも言ってないのだけど……。ねえミシェル、あなた、前世って信じる? 私に前世の記憶があるって言ったら……信じてくれる?」
「信じますよ」
まるで子供のころのような――誰にも信じてもらえなかったころのようなアデライトの表情に、私は迷わず頷いた。
「アデライト様がおっしゃるなら、信じます」
その表情をしているとき、アデライトは嘘を吐いたことがないのだ。
私の返事に、アデライトはますます機嫌を損ねて、ぷい、と顔を背けてしまった。
「ミシェルのそういうとこ、嫌いだわ!」
……嫌われてしまった。
アンリが旅立つ二年前、アンリともども陛下に認められ、王宮に部屋を持つことを許されたからだ。
その王宮にあるアデライトの部屋で、私は丸テーブルを挟んで渋面を突き合わせていた。
作戦会議である。
「だから、さっきも言った通りここは乙女ゲームの世界なのよ! オレリアはヒロインで、私は悪役令嬢なの!」
作戦会議である、と思う。
「悪役令嬢はゲームの中の邪魔者よ! 特にお兄様ルートでは鬱陶しいくらい邪魔してきて、バッドエンド以外は全部私が処刑されて終わるの!!」
「ま、待ってください! 『おとめげーむ』というのがまずわかりません!」
「乙女ゲームは乙女ゲームよ! 理解しなさい!」
そんな無茶な!
「オレリアがお兄様と婚約したら、ノーマルエンド以上確定するの。つまり、私の処刑確定。だから、あの二人の婚約を阻止しないといけないの! わかった!?」
「わかりません!!」
まくしたてるようなアデライトの説明に、私は悲鳴を上げた。
作戦の前の基礎知識として『おとめげーむ』なるものの説明を受けているが、知らない単語ばかりでまったく頭が追い付かない。
意味不明の単語を次々と口にする彼女を見て、私は内心で頭を抱えた。
――アデライトが変なことを言い出すなんて、今に始まったことではないけど……!
唐突に意味不明なことを言い出すのは、アデライトが子供のころから変わらない。
特に幼いころは、周囲に理解されないことに癇癪を起し、大暴れしたものだ。
兄譲りの魔力もあったせいで、怒ると手が付けられなかったのを覚えている。
知らないものを懐かしがり、あるはずのないものを『ある』と言い、ふとした瞬間、妙に大人びた顔をして、寂しそうに俯く。
そんな彼女を、父である国王陛下はもちろん、使用人たちも気味悪がった。
誰からも遠巻きにされる彼女は、アンリと同じく孤独だった。
変わり始めたのは、彼女の言葉がただ支離滅裂なだけではない、とみんなが知るようになってからだ。
アデライトは、アンリが勇者として旅立つ日のことも、魔王退治の旅に加わる仲間たちの名前も言い当てた。
学者も知らない知識を持ち、熱を持つ粉や、氷よりも冷たい氷を作り出した。
きっと彼女には、未来を視る力があるのだ。
奇妙な言動も、未来として視たものを現実と認識してしまったためだろう。
わかってしまえば、なんてこともない。
アデライトは今も昔も変人ではあるけれど、むやみに人を困らせるような性格ではないと、もうみんなわかっていた。
――今だって。
「……アデライト様」
いらいらと頭を掻くアデライトに、私はそっと呼びかけた。
「その、『おとめげーむ』のこと、もう一度教えていただけませんか。アデライト様のお話を、きちんと理解したいんです」
聞き流したり、理解を諦めたりはしない。
子供のころから、アデライトはちゃんと聞けば答えてくれるのだ。
「……なによ」
アデライトは不機嫌そうに、どこか子供じみた表情で私を睨む。
「そういう言い方、ずるいわ。腹立つ!」
腹立つ、けど――と言って、アデライトはかすかに俯いた。
いつも自信満々な彼女らしくもない。彼女はどこか不安そうな顔をして、小さく口を開いた。
「これはお兄様にも言ってないのだけど……。ねえミシェル、あなた、前世って信じる? 私に前世の記憶があるって言ったら……信じてくれる?」
「信じますよ」
まるで子供のころのような――誰にも信じてもらえなかったころのようなアデライトの表情に、私は迷わず頷いた。
「アデライト様がおっしゃるなら、信じます」
その表情をしているとき、アデライトは嘘を吐いたことがないのだ。
私の返事に、アデライトはますます機嫌を損ねて、ぷい、と顔を背けてしまった。
「ミシェルのそういうとこ、嫌いだわ!」
……嫌われてしまった。
1
お気に入りに追加
2,895
あなたにおすすめの小説
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
【完結】逆行した聖女
ウミ
恋愛
1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m
俺の婚約者は侯爵令嬢であって悪役令嬢じゃない!~お前等いい加減にしろよ!
ユウ
恋愛
伯爵家の長男エリオルは幼い頃から不遇な扱いを受けて来た。
政略結婚で結ばれた両親の間に愛はなく、愛人が正妻の扱いを受け歯がゆい思いをしながらも母の為に耐え忍んでいた。
卒業したら伯爵家を出て母と二人きりで生きて行こうと思っていたのだが…
「君を我が侯爵家の養子に迎えたい」
ある日突然、侯爵家に婿養子として入って欲しいと言われるのだった。
悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m
義妹が勝手に嫉妬し勝手に自滅していくのですが、私は悪くありませんよね?
クレハ
恋愛
公爵家の令嬢ティアの父親が、この度平民の女性と再婚することになった。女性には連れ子であるティアと同じ年の娘がいた。同じ年の娘でありながら、育った環境は正反対の二人。あまりにも違う環境に、新しくできた義妹はティアに嫉妬し色々とやらかしていく。
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ連載中、2024/08/23よりコミックシーモアにて先行販売開始】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
[完結]気付いたらザマァしてました(お姉ちゃんと遊んでた日常報告してただけなのに)
みちこ
恋愛
お姉ちゃんの婚約者と知らないお姉さんに、大好きなお姉ちゃんとの日常を報告してただけなのにザマァしてたらしいです
顔文字があるけどウザかったらすみません
【本編完結】捨てられ聖女は契約結婚を満喫中。後悔してる?だから何?
miniko
恋愛
「孤児の癖に筆頭聖女を名乗るとは、何様のつもりだ? お前のような女は、王太子であるこの僕の婚約者として相応しくないっっ!」
私を罵った婚約者は、その腕に美しい女性を抱き寄せていた。
別に自分から筆頭聖女を名乗った事など無いのだけれど……。
夜会の最中に婚約破棄を宣言されてしまった私は、王命によって『好色侯爵』と呼ばれる男の元へ嫁ぐ事になってしまう。
しかし、夫となるはずの侯爵は、私に視線を向ける事さえせずに、こう宣った。
「王命だから仕方なく結婚するが、お前を愛する事は無い」
「気が合いますね。私も王命だから仕方無くここに来ました」
「……は?」
愛して欲しいなんて思っていなかった私は、これ幸いと自由な生活を謳歌する。
懐いてくれた可愛い義理の息子や使用人達と、毎日楽しく過ごしていると……おや?
『お前を愛する事は無い』と宣った旦那様が、仲間になりたそうにこちらを見ている!?
一方、私を捨てた元婚約者には、婚約破棄を後悔するような出来事が次々と襲い掛かっていた。
※完結しましたが、今後も番外編を不定期で更新予定です。
※ご都合主義な部分は、笑って許して頂けると有難いです。
※予告無く他者視点が入ります。主人公視点は一人称、他視点は三人称で書いています。読みにくかったら申し訳ありません。
※感想欄はネタバレ配慮をしていませんのでご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる