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人生って、ままならないものよね

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 リリアナとマイケルを乗せた馬車は隣国へ向けて走り出す。
 道中で、マイケルはずっと気になっていたことを対面に座るリリアナに問いかけた。

「──お嬢様、卒業パーティーの婚約破棄って、お嬢様が仕組んだわけじゃないですよね?」

「もちろんよ。そんなことができるならもっと早くしてるわ。本当にクリスティーナ様には感謝してるの。ハーラン殿下をそそのかしてくれて」

「もしハーラン殿下が婚約破棄しなかったら、どうしてたんですか?」

 リリアナはきょとんと首を傾げた後、にんまりと笑みを浮かべた。

「さぁ? どうしてたと思う?」

 マイケルはリリアナの蠱惑的こわくてきな笑みに頬を染めるが、こほん、と気を取り直した。

「わからないから聞いたんですけど……まぁ、お嬢様のことだから大人しく結婚するわけないですよね。前みたいにハーラン殿下か王太子に暗示をかけるとか?」

「暗示で本人の意思に反することをさせるのは難しいの。できるのはそれをすると大変なことになるって思わせることくらい。それができても持って数年がいいところね。暗示は万能じゃないの」

 そう言ってリリアナは肩をすくめる。

「ハーラン殿下はともかく、ウィルフリード殿下はあれでも王太子よ。彼も光魔法師を王家に取り込みたいと考えている以上、婚約を破棄させるのは難しいでしょうね。ハーラン殿下に婚約破棄させようとしても、何か大きな事をしでかさない限り国王と王太子が揉み消すだろうから」

「大きな事──卒業パーティーで婚約破棄か」

「それも冤罪をかけてね。さすがに彼らも揉み消せないわ」

 なるほど、とマイケルは頷いて、

「本当に仕組んでないんですか?」

 リリアナは未だ疑うマイケルを軽くめつける。

「だからそう言ってるでしょう。私だって、婚約破棄するために他人を巻き込むのは気が引けるの。今回はたまたま相手がクリスティーナ様で運が良かったわ」

 ハーランに不貞行為をさせることが婚約破棄する一番簡単な方法ではあったが、そのためにはハーランの食指が動きそうな高位貴族の令嬢を差し向けなければならない。だが、高位貴族の令嬢には早いうちから婚約者がいるものだ。婚約していない令嬢もいるにはいたが、無関係の令嬢にあのハーランを押し付けることにはリリアナも罪悪感を感じていた。
 クリスティーナも候補にはいたが、彼女は姉から王太子を奪うのに夢中になっているし、彼女をハーランに──というよりマリアージュに近づけるのは王太子が許さない。リリアナもマリアージュの心労を考えるとクリスティーナを王宮に近づけるのは気が進まなかった。
 では婚約者がいる身持ちの悪い令嬢はどうか──と一度だけ、夜会で知り合った男癖の悪い侯爵令嬢をけしかけ王宮に送り込んだことがあるが、それはハーランに近づく前に第二王子のディランによって阻止されてしまった。真面目で正義感の強い彼は王家の中で唯一リリアナのことを考えてくれた人物ではあったのだが、それが裏目に出てしまった形だ。
 今回このタイミングでクリスティーナがハーランを籠絡してくれたことは、リリアナにとって好運だったとしか言い様がない。

「じゃあ、どうやって婚約破棄するつもりだったんですか?」

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