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王族って本当に屑ですね。どいつもこいつも自分のことしか考えない

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 初めは喧嘩でもしているのかと思った。確かにリリアナは不敬なところがあるし、ハーランは感情を隠すことができない。些細なことでハーランが怒り、リリアナも機嫌を損ねる、といったことは容易に想像できた。
 私はハーランに直接聞くことにした。周囲に聞くよりよっぽど早い。彼は良くも悪くも素直だ。嘘がつけない。

「ハーラン!」

 私は苛立たしげに四阿を出るハーランを呼び止めた。急いで駆け寄ったため、少し息が上がる。

「兄上? そんなに急いでどうしたんですか?」

 ハーランは私を見て不思議そうに首を傾げた。

「リリアナと喧嘩でもしているのか?」

「いえ? なんで私が子爵令嬢なんかと喧嘩を?」

 そんな必要ないのに、と言うハーランに嫌な予感がする。

「リリアナは、お前の婚約者だぞ」

「……ウィル兄上の婚約者は公爵令嬢で、ディラン兄上の婚約者は隣国の王女なのに、なんで僕だけ子爵令嬢が婚約者なんだ」

 ふてくされたように言い放ったハーランに驚き、近くにいた侍従を問うように見やる。目が合った侍従は気まずそうに目をそらした。
 それから弟に問いただした。リリアナをどう思っているのか、彼女に普段どう接しているのか。
 そして浮き彫りになった弟の選民思想に愕然とした。

 あの心臓に悪いやり取りが、二人の間では当たり前のように行われている。

 なんとかしなければ。そう思ったが、すぐ考え直した。
 あのリリアナが自分をあなどる婚約者を放っておくだろうか。リリアナは優秀だ、きっと自分でなんとかする方法を考えているはずだ。
 それにハーランはリリアナと違って精神的にもまだ幼い。成長すれば、彼女の優秀さがわかるようになるだろう。
 そう考え、ハーランにはリリアナを大事にするよう、軽く注意するだけに留めた。



 それが間違いだった。
 リリアナにとって、ハーランは他人だ。婚約者ではあるが、それは王家が子爵家に要請して成り立った政略的なものだ。
 リリアナには時間をかけてハーランの選民思想を矯正するほどの情はない。むしろそれは、家族である私達の義務だった。
 それに気付いたときには既に手遅れだった。
 婚約を白紙にしたいと言うほど、リリアナの心は離れていた。
 いや、そもそも彼らの心は離れるほど近づいてはいなかったのだ。


 最初に気付いたときに手を打っていれば──せめてディランに手を貸していれば、と後悔する。
 真面目で正義感の強いディランはハーランの選民思想を矯正しようと躍起やっきになっていた。
 リリアナに任せておけばいいのに、と私はそれを白い目で見ていたことを思い出す。
 今思えば、それは幼い頃に捨てたはずのディランへの嫉妬心の表れだったのかもしれない。


 だが、今さら何をしようともう遅い。

 リリアナはとうの昔にハーランを見限っているし、愚かにもハーランはクリスティーナに騙され卒業パーティーで婚約破棄をした。

 私は父である国王に、ハーランの除籍を進言した。
 あいつの愚かさはこうでもしないと治らないだろう。

 ハーランの事は嫌いではない。嘘がつけないハーランには腹の探り合いなど必要ないし、あれでも幼い頃は自分に無垢な愛情を向けてくれていた。
 王族には向かないが、あの選民思想さえなければ素直な良い人間になっていただろう。

 末子であるハーランに甘い父は除籍を渋った。
 だが希少な光属性魔法の使い手を学園の卒業パーティーという衆目が集まる中で冤罪をかけ断罪し、婚約破棄と国外追放を言い渡した責任をとらせなければならない、そう言い募って押し通した。

 それでリリアナへの罪滅ぼしになるとは思わない。
 それどころか、リリアナはハーランの未来など興味もないだろう。
 でもこれは、ハーランを正すことが出来なかった私達の義務であり、矜持きょうじだ。


 しかし父はハーランにチャンスを与えた。
 ハーランがリリアナに謝罪し、許しを得て婚約破棄撤回を認めさせれば除籍は免れると。
 勝手な父に怒りを覚えたが、それに気付いたのは既にハーランが謝罪に向かった後だった。
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