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金も家も権力もあるが虐待される奴隷か、金も家も権力も無いただの平民か、それが問題だ
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「やあハーラン。随分と荒れているね。リリアナには会えたかい?」
「兄上!?」
この国の王太子で、ハーランより5つ年上の兄であるウィルフリードが様子を見にハーランの執務室を訪れた。
「兄上、どうしてこちらに?」
「それはもちろん、可愛い弟の様子が気になったからだよ。リリアナのところへ謝罪に行ったんだろう? 許してもらえたかい?」
王太子夫妻は元婚約者であるハーランよりもリリアナと交流がある。二人の不仲をよく知っている王太子は、リリアナが絶対に許さないことを知っていてわざと弟に尋ねた。
リリアナを冤罪で断罪したことで王太子夫妻からこっぴどく怒られていたハーランは、先ほどの子爵家での出来事を伝えたところで信じてもらえず、また怒られるだけだとわかっていた。
だが隷属魔法さえなんとか出来れば婚約を続けるつもりでいるので、リリアナから受けた暴力の事はふせて差し障りのない返答をする。
「はい。一つだけ条件を提示されたので、それさえ承諾すれば婚約を続けてもよいと言ってくれました」
「え? 本当に? あぁいや、条件があるんだな。どんな内容だ?」
リリアナが婚約を続けると思っていなかったウィルフリードはその返答に内心ひどく驚いたが、条件があるんだったと思い直して納得する。さぞかし無理難題をふっかけたんだろう。
「えっと……それは、まぁ、私一人で出来る範囲内の事ですよ。兄上が心配なさる程ではありません。今からその準備をするところなので、もうよろしいでしょうか」
「へぇ。そうなのか。まぁ頑張れよ」
目を泳がせ、おどおどとした態度で答える弟を、相変わらず腹芸の出来ないやつだな、と残念に思いながらウィルフリードは部屋を後にした。
突然の兄の来訪により怒る気勢をそがれたハーランは、ハラハラと様子を伺っていた侍従に魔法師団長へ約束を取り付ける手紙を書いて送るよう指示する。
魔法師団長から了承の返事と共に指定された日時は、五日後の午後の一時間のみだった。
◇◇
五日後、魔法師団長は指定した時間通りにハーランの執務室を訪れた。
「私に何かご用でしょうか。忙しいので手短にお願いしたいのですが」
部屋に入るなり不遜な態度で物申す魔法師団長に、五日も待たされたハーランの怒りは爆発した。
「おいお前! 不敬だろ! 私はこの国の第三王子なんだぞ!!」
「直に王子でなくなると伺っていますが」
「なっ! 誰がそんなことを!」
「さぁ? ですが王宮中の噂になっていますよ。そんなことより用件をどうぞ。私は忙しいんです。貴方と違って」
──魔法師団長はハーランが嫌いだった。
無能で傲慢なところはもちろんだが、何よりも腹立たしいのはリリアナへの態度だった。
リリアナに同情したからではない。魔法師団長は希少な光属性魔法を近くで研究したかった。
そのため婚約者に会いに定期的に王宮を訪れるリリアナに、研究に協力するよう何かと接触を図っていた。
リリアナには素気なくあしらわれることが多かったが、数回に一回は成功し、協力を得られていた。
だが、リリアナとハーランが不仲になればなるほどリリアナが王宮を訪れる頻度は減っていく。ここ数年はほとんど王宮を訪れることはなくなっていた。
それでも二人が結婚すれば接触できる機会は増えるだろうと考え、その日を今か今かと待っていたところの婚約破棄。こいつ死ねと本気で思った。
そんな中でのハーランの不作法な呼び出しに、魔法師団長はハーランに対し礼儀を払うのをやめた。
「兄上!?」
この国の王太子で、ハーランより5つ年上の兄であるウィルフリードが様子を見にハーランの執務室を訪れた。
「兄上、どうしてこちらに?」
「それはもちろん、可愛い弟の様子が気になったからだよ。リリアナのところへ謝罪に行ったんだろう? 許してもらえたかい?」
王太子夫妻は元婚約者であるハーランよりもリリアナと交流がある。二人の不仲をよく知っている王太子は、リリアナが絶対に許さないことを知っていてわざと弟に尋ねた。
リリアナを冤罪で断罪したことで王太子夫妻からこっぴどく怒られていたハーランは、先ほどの子爵家での出来事を伝えたところで信じてもらえず、また怒られるだけだとわかっていた。
だが隷属魔法さえなんとか出来れば婚約を続けるつもりでいるので、リリアナから受けた暴力の事はふせて差し障りのない返答をする。
「はい。一つだけ条件を提示されたので、それさえ承諾すれば婚約を続けてもよいと言ってくれました」
「え? 本当に? あぁいや、条件があるんだな。どんな内容だ?」
リリアナが婚約を続けると思っていなかったウィルフリードはその返答に内心ひどく驚いたが、条件があるんだったと思い直して納得する。さぞかし無理難題をふっかけたんだろう。
「えっと……それは、まぁ、私一人で出来る範囲内の事ですよ。兄上が心配なさる程ではありません。今からその準備をするところなので、もうよろしいでしょうか」
「へぇ。そうなのか。まぁ頑張れよ」
目を泳がせ、おどおどとした態度で答える弟を、相変わらず腹芸の出来ないやつだな、と残念に思いながらウィルフリードは部屋を後にした。
突然の兄の来訪により怒る気勢をそがれたハーランは、ハラハラと様子を伺っていた侍従に魔法師団長へ約束を取り付ける手紙を書いて送るよう指示する。
魔法師団長から了承の返事と共に指定された日時は、五日後の午後の一時間のみだった。
◇◇
五日後、魔法師団長は指定した時間通りにハーランの執務室を訪れた。
「私に何かご用でしょうか。忙しいので手短にお願いしたいのですが」
部屋に入るなり不遜な態度で物申す魔法師団長に、五日も待たされたハーランの怒りは爆発した。
「おいお前! 不敬だろ! 私はこの国の第三王子なんだぞ!!」
「直に王子でなくなると伺っていますが」
「なっ! 誰がそんなことを!」
「さぁ? ですが王宮中の噂になっていますよ。そんなことより用件をどうぞ。私は忙しいんです。貴方と違って」
──魔法師団長はハーランが嫌いだった。
無能で傲慢なところはもちろんだが、何よりも腹立たしいのはリリアナへの態度だった。
リリアナに同情したからではない。魔法師団長は希少な光属性魔法を近くで研究したかった。
そのため婚約者に会いに定期的に王宮を訪れるリリアナに、研究に協力するよう何かと接触を図っていた。
リリアナには素気なくあしらわれることが多かったが、数回に一回は成功し、協力を得られていた。
だが、リリアナとハーランが不仲になればなるほどリリアナが王宮を訪れる頻度は減っていく。ここ数年はほとんど王宮を訪れることはなくなっていた。
それでも二人が結婚すれば接触できる機会は増えるだろうと考え、その日を今か今かと待っていたところの婚約破棄。こいつ死ねと本気で思った。
そんな中でのハーランの不作法な呼び出しに、魔法師団長はハーランに対し礼儀を払うのをやめた。
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