上 下
8 / 27
金も家も権力もあるが虐待される奴隷か、金も家も権力も無いただの平民か、それが問題だ

2

しおりを挟む
「やあハーラン。随分と荒れているね。リリアナには会えたかい?」

「兄上!?」


 この国の王太子で、ハーランより5つ年上の兄であるウィルフリードが様子を見にハーランの執務室を訪れた。

「兄上、どうしてこちらに?」

「それはもちろん、可愛い弟の様子が気になったからだよ。リリアナのところへ謝罪に行ったんだろう? 許してもらえたかい?」

 王太子夫妻は元婚約者であるハーランよりもリリアナと交流がある。二人の不仲をよく知っている王太子は、リリアナが絶対に許さないことを知っていてわざと弟に尋ねた。

 リリアナを冤罪で断罪したことで王太子夫妻からこっぴどく怒られていたハーランは、先ほどの子爵家での出来事を伝えたところで信じてもらえず、また怒られるだけだとわかっていた。

 だが隷属魔法さえなんとか出来れば婚約を続けるつもりでいるので、リリアナから受けた暴力の事はふせて差し障りのない返答をする。

「はい。一つだけ条件を提示されたので、それさえ承諾すれば婚約を続けてもよいと言ってくれました」

「え? 本当に? あぁいや、条件があるんだな。どんな内容だ?」

 リリアナが婚約を続けると思っていなかったウィルフリードはその返答に内心ひどく驚いたが、条件があるんだったと思い直して納得する。さぞかし無理難題をふっかけたんだろう。

「えっと……それは、まぁ、私一人で出来る範囲内の事ですよ。兄上が心配なさる程ではありません。今からその準備をするところなので、もうよろしいでしょうか」

「へぇ。そうなのか。まぁ頑張れよ」

 目を泳がせ、おどおどとした態度で答える弟を、相変わらず腹芸の出来ないやつだな、と残念に思いながらウィルフリードは部屋を後にした。


 突然の兄の来訪により怒る気勢をそがれたハーランは、ハラハラと様子を伺っていた侍従に魔法師団長へ約束を取り付ける手紙を書いて送るよう指示する。

 魔法師団長から了承の返事と共に指定された日時は、五日後の午後の一時間のみだった。


  ◇◇

 五日後、魔法師団長は指定した時間通りにハーランの執務室を訪れた。

「私に何かご用でしょうか。忙しいので手短にお願いしたいのですが」

 部屋に入るなり不遜な態度で物申す魔法師団長に、五日も待たされたハーランの怒りは爆発した。

「おいお前! 不敬だろ! 私はこの国の第三王子なんだぞ!!」

「直に王子でなくなると伺っていますが」

「なっ! 誰がそんなことを!」

「さぁ? ですが王宮中の噂になっていますよ。そんなことより用件をどうぞ。私は忙しいんです。貴方と違って」



──魔法師団長はハーランが嫌いだった。

 無能で傲慢なところはもちろんだが、何よりも腹立たしいのはリリアナへの態度だった。

 リリアナに同情したからではない。魔法師団長は希少な光属性魔法を近くで研究したかった。
 そのため婚約者に会いに定期的に王宮を訪れるリリアナに、研究に協力するよう何かと接触を図っていた。

 リリアナには素気なくあしらわれることが多かったが、数回に一回は成功し、協力を得られていた。

 だが、リリアナとハーランが不仲になればなるほどリリアナが王宮を訪れる頻度は減っていく。ここ数年はほとんど王宮を訪れることはなくなっていた。

 それでも二人が結婚すれば接触できる機会は増えるだろうと考え、その日を今か今かと待っていたところの婚約破棄。こいつ死ねと本気で思った。


 そんな中でのハーランの不作法な呼び出しに、魔法師団長はハーランに対し礼儀を払うのをやめた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お望み通りに婚約破棄したのに嫌がらせを受けるので、ちょっと行動を起こしてみた。

夢草 蝶
恋愛
 婚約破棄をしたのに、元婚約者の浮気相手から嫌がらせを受けている。  流石に疲れてきたある日。  靴箱に入っていた呼び出し状を私は──。

婚約破棄ですか? 国王陛下がいますよ?

マルローネ
恋愛
子爵令嬢のエリスは伯爵である婚約者のモトレーに婚約破棄をされた。 理由はモトレーの浮気であるが、慰謝料すら払わないとする始末。 大事にすれば子爵家は崩壊すると脅されるが、この話が国王陛下に伝わり……。

ヒロインに悪役令嬢呼ばわりされた聖女は、婚約破棄を喜ぶ ~婚約破棄後の人生、貴方に出会えて幸せです!~

飛鳥井 真理
恋愛
それは、第一王子ロバートとの正式な婚約式の前夜に行われた舞踏会でのこと。公爵令嬢アンドレアは、その華やかな祝いの場で王子から一方的に婚約を解消すると告げられてしまう……。しかし婚約破棄後の彼女には、思っても見なかった幸運が次々と訪れることになるのだった……。 『婚約破棄後の人生……貴方に出会て幸せです!』  ※溺愛要素は後半の、第62話目辺りからになります。 ※ストックが無くなりましたので、不定期更新になります。 ※連載中も随時、加筆・修正をしていきます。よろしくお願い致します。 ※ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

婚約破棄、爵位剥奪、国外追放されましたのでちょっと仕返しします

あおい
恋愛
婚約破棄からの爵位剥奪に国外追放! 初代当主は本物の天使! 天使の加護を受けてる私のおかげでこの国は安泰だったのに、その私と一族を追い出すとは何事ですか!? 身に覚えのない理由で婚約破棄に爵位剥奪に国外追放してきた第2王子に天使の加護でちょっと仕返しをしましょう!

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです

早奈恵
恋愛
 ざまぁも有ります。  クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。  理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。  詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。  二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...