1 / 1
盛塩
しおりを挟む
これは僕の友だちの女の子の話なんですが、仮に彼女を佐竹さんとしましょう。
何年か前に佐竹さんは引っ越しをしたんですね。新しい部屋は小綺麗なワンルームで、10畳の部屋と、お風呂、トイレが別々になってる。玄関を入ってすぐに廊下と一体になってる台所があって。マンションタイプの物件です。3階の角部屋だったそうですよ。
ところで佐竹さんには仲のいい友だちがいたんですが、その友だちには霊感があるらしいんですね。佐竹さんは引っ越しをする前に、その友だちからアドバイスを受けたそうなんです。
「盛塩したほうがいいよ」
盛塩って知ってます?塩をね、円錐状に盛ってあるやつ。飲食店の入り口で、たまに見かけますよね。厄よけのおまじないらしいんですがね。霊感のある友だちは熱心にすすめてくれたそうですよ。
「変なものが入ってくるのを防いでくれるよ」
佐竹さん自身は幽霊とか見たことがなかったから、半信半疑だったそうですが、べつに難しいことじゃないですよね。玄関先に塩をもるだけなんだから。気軽な気持ちで、佐竹さんは友だちのアドバイスを実践したそうです。
だけど引っ越した日の夜ですよ。夜中の3時くらいにね、佐竹さんは飛び起きたらしいんです。それもそのはず、玄関のドアが非常に強く叩かれたんですよ。
ダンダンダン!
ダンダンダン!
佐竹さんびっくりしてね。だってインターホンがあるんですよ。玄関のドアを叩くなんて、普通じゃない。それも夜中の3時だ。幽霊だとは思わないけど、異常事態であることは間違いない。
ダンダンダン!
それでも無視はできませんよね。たとえばマンションで火事がおこって、他の住人のかたが報せてくれてるのかもしれない。でも一方では、変な人がイタズラしてるのかもしれない。部屋の明かりをつけるのは怖いから、佐竹さん、真っ暗な中を玄関まで向かったそうです。
ダンダンダン!
ところが佐竹さんが玄関の前までくると、ずっと玄関のドアを叩いていた音が、ピタっと止まったそうです。それはそれで怖いじゃないですか。まるで部屋の中の佐竹さんの動きが見えてるみたいで。
佐竹さんはね、ドアスコープごしに、部屋の外を覗き込んだそうです。ところが部屋の外には誰もいない。さすがにドアを開けて外の様子を確かめるのは嫌だったから、しばらくその場で気配をうががうんだけど、なにもおこらない。仕方がないから佐竹さん、それでまた布団にもぐりこんで、その夜は寝てしまったそうです。
それから朝起きて、仕事に行って、また帰宅して。その夜ですよ。またおんなじことがおこった。
ダンダンダン!
夜中の3時に。玄関のドアが叩かれる。2度目でもやっぱり怖いものは怖いですよ。真っ暗な中を玄関に向かう。ドアを叩く音がピタっと止まる。ドアスコープを覗き込む。誰もいない。しばらく様子をうかがって、布団にもぐりこんで寝てしまう。
2度あることは3度あるで、これが3日目の夜にもおなじことがおこった。人間の仕業にしろ、幽霊にしろ、気持ち悪いじゃないですか。マンションの管理会社に連絡しようかな、佐竹さんがそう考えたのは当たり前ですよね。よし、今晩も同じことがおこったら、明日管理会社に電話しよう。決心をした4日目。
買い物をして帰宅した佐竹さんは、玄関の鍵を開けようとして、荷物を地面に置いたそうです。その拍子にね、玄関に置いてあった盛塩が崩れちゃった。佐竹さん、嫌な感じがしたそうですよ。
おかしなことがおこっている矢先ですからね。もしかしたら盛塩のおかげで、あれは部屋の中まで入って来られないのかもしれない。友だちのアドバイス通り、変なものが入ってくるのを防いでくれてるのかもしれない。佐竹さんはそう思って、内心、かなり焦ったらしい。
玄関先にしゃがみこんで、崩れた盛塩に手を伸ばしたそのときです。佐竹さんの耳元で、女性がささやくような声がきこえた。
「…やっと出られた」
そのとき佐竹さんはすべてを理解したそうです。
━━━玄関のドアは内側から叩かれていたんだ。
盛塩の効果っていうのは、大したものですよ。盛塩が崩れたその日の夜から、玄関のドアを叩く音はなくなったそうです。佐竹さんは3日間、いったいなにを部屋の中に閉じ込めていたんでしょうねえ。
何年か前に佐竹さんは引っ越しをしたんですね。新しい部屋は小綺麗なワンルームで、10畳の部屋と、お風呂、トイレが別々になってる。玄関を入ってすぐに廊下と一体になってる台所があって。マンションタイプの物件です。3階の角部屋だったそうですよ。
ところで佐竹さんには仲のいい友だちがいたんですが、その友だちには霊感があるらしいんですね。佐竹さんは引っ越しをする前に、その友だちからアドバイスを受けたそうなんです。
「盛塩したほうがいいよ」
盛塩って知ってます?塩をね、円錐状に盛ってあるやつ。飲食店の入り口で、たまに見かけますよね。厄よけのおまじないらしいんですがね。霊感のある友だちは熱心にすすめてくれたそうですよ。
「変なものが入ってくるのを防いでくれるよ」
佐竹さん自身は幽霊とか見たことがなかったから、半信半疑だったそうですが、べつに難しいことじゃないですよね。玄関先に塩をもるだけなんだから。気軽な気持ちで、佐竹さんは友だちのアドバイスを実践したそうです。
だけど引っ越した日の夜ですよ。夜中の3時くらいにね、佐竹さんは飛び起きたらしいんです。それもそのはず、玄関のドアが非常に強く叩かれたんですよ。
ダンダンダン!
ダンダンダン!
佐竹さんびっくりしてね。だってインターホンがあるんですよ。玄関のドアを叩くなんて、普通じゃない。それも夜中の3時だ。幽霊だとは思わないけど、異常事態であることは間違いない。
ダンダンダン!
それでも無視はできませんよね。たとえばマンションで火事がおこって、他の住人のかたが報せてくれてるのかもしれない。でも一方では、変な人がイタズラしてるのかもしれない。部屋の明かりをつけるのは怖いから、佐竹さん、真っ暗な中を玄関まで向かったそうです。
ダンダンダン!
ところが佐竹さんが玄関の前までくると、ずっと玄関のドアを叩いていた音が、ピタっと止まったそうです。それはそれで怖いじゃないですか。まるで部屋の中の佐竹さんの動きが見えてるみたいで。
佐竹さんはね、ドアスコープごしに、部屋の外を覗き込んだそうです。ところが部屋の外には誰もいない。さすがにドアを開けて外の様子を確かめるのは嫌だったから、しばらくその場で気配をうががうんだけど、なにもおこらない。仕方がないから佐竹さん、それでまた布団にもぐりこんで、その夜は寝てしまったそうです。
それから朝起きて、仕事に行って、また帰宅して。その夜ですよ。またおんなじことがおこった。
ダンダンダン!
夜中の3時に。玄関のドアが叩かれる。2度目でもやっぱり怖いものは怖いですよ。真っ暗な中を玄関に向かう。ドアを叩く音がピタっと止まる。ドアスコープを覗き込む。誰もいない。しばらく様子をうかがって、布団にもぐりこんで寝てしまう。
2度あることは3度あるで、これが3日目の夜にもおなじことがおこった。人間の仕業にしろ、幽霊にしろ、気持ち悪いじゃないですか。マンションの管理会社に連絡しようかな、佐竹さんがそう考えたのは当たり前ですよね。よし、今晩も同じことがおこったら、明日管理会社に電話しよう。決心をした4日目。
買い物をして帰宅した佐竹さんは、玄関の鍵を開けようとして、荷物を地面に置いたそうです。その拍子にね、玄関に置いてあった盛塩が崩れちゃった。佐竹さん、嫌な感じがしたそうですよ。
おかしなことがおこっている矢先ですからね。もしかしたら盛塩のおかげで、あれは部屋の中まで入って来られないのかもしれない。友だちのアドバイス通り、変なものが入ってくるのを防いでくれてるのかもしれない。佐竹さんはそう思って、内心、かなり焦ったらしい。
玄関先にしゃがみこんで、崩れた盛塩に手を伸ばしたそのときです。佐竹さんの耳元で、女性がささやくような声がきこえた。
「…やっと出られた」
そのとき佐竹さんはすべてを理解したそうです。
━━━玄関のドアは内側から叩かれていたんだ。
盛塩の効果っていうのは、大したものですよ。盛塩が崩れたその日の夜から、玄関のドアを叩く音はなくなったそうです。佐竹さんは3日間、いったいなにを部屋の中に閉じ込めていたんでしょうねえ。
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理なギャグが香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる