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第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで
こうして、悪役は生まれたのでした
しおりを挟む彼女の声は話すほどに掠れていき、原形が分からなくなっていた。そのせいか、話のせいか、俺の目には彼女が別人の様に見えた。
「その後も、彼女への嫌がらせは続いたわ。私を犯人にして。
その事を疑う方は、誰一人として現れなかった。皆、その話を信じるの。
それは、彼に見られたから。
私情にも、噂にも流されない清廉潔白な彼が、私を責めたから」
彼女の目が少し細くなった。まるで睨んでいるかのようだったが、それにしては迫力が足りず、どこか寂しそうだった。
その姿に魅入ってしまった俺は、彼女の声に意識を戻される。
「噂はすぐに流れたわ。それはもう満遍なくね。そして、私は翌日には奇異の目に、晒された」
彼女は話し疲れたのか、大きく息を吸った。
「集まる視線が憎かったわ。皆が皆、敵のようで、怖くもあった。さすがだって同調するように言われたり、そんな事をするなんてって軽蔑されたり」
彼女はそこで、息を吐くように笑った。もしかしたら溜め息だったのかもしれない。
「みんな、聞こえるように話すのよ。聞かせているのか、気付いていないのか。そのどちらでもいいし、どうでもいいけれど、聞きたくなくても耳に入るの。
否定しても信じてくれないしね。聞く気ないのよ。犯人が誰とかどうでもいいのよ。あの人達と会話をする意味が分からなかったわ」
彼女の思いを知らなかった。俺達も、ジゼレーナが犯人で、首謀者だと思っていた。
「私の『悪行』というものが積もって、嫌でも聞こえてくる話に気が立って、貴方方の視線も鬱陶しくてなって、否定するのにも疲れて……」
思い出したのか、話すのに疲れたのか。彼女は小さく息を吐き、先程よりもゆっくりとした口調で話を再開させた。
「魔が差したの。ストレスが溜まって、発散できずに。
私に悪役を求めているのは彼だから。
そうヤケになって。
自分を止められなかったし、何より、止めたくなかったわ。
それに、悪者になったら、頻繁に彼と話す事ができたのよ。彼女に少し声を掛けるだけで、私は、彼の視界に入る事ができたの。あの青い瞳に、私を映す事ができたの。上辺だけでない、本物の感情も向けてくれたわ。
嬉しくて、悲しくて、どうしたって止められなかった。
彼の言葉でも、とても従えなかった。
ここで止めたらどうなるんだろうって。感情を向けられなくなるのが怖かった。今向けられている感情が、どこかへ消えてしまうのではないか、って。
だから、そうなる前に、止める前に、感情を植え付けよう、ってエスカレートして。
こうして、悪役ジゼレーナは生まれたのでした」
最後の言葉は、物語の終わりのようで。
なぜ話したかという質問を思い出した時、彼女は答えた。
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