上 下
39 / 60
第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで

こうして、悪役は生まれたのでした

しおりを挟む
 
彼女の声は話すほどに掠れていき、原形が分からなくなっていた。そのせいか、話のせいか、俺の目には彼女が別人の様に見えた。

「その後も、彼女への嫌がらせは続いたわ。私を犯人にして。
その事を疑う方は、誰一人として現れなかった。皆、その話を信じるの。
 それは、彼に見られたから。
私情にも、噂にも流されない清廉潔白な彼が、私を責めたから」

彼女の目が少し細くなった。まるで睨んでいるかのようだったが、それにしては迫力が足りず、どこか寂しそうだった。
その姿に魅入ってしまった俺は、彼女の声に意識を戻される。

「噂はすぐに流れたわ。それはもう満遍なくね。そして、私は翌日には奇異の目に、さらされた」

彼女は話し疲れたのか、大きく息を吸った。

「集まる視線が憎かったわ。皆が皆、敵のようで、怖くもあった。さすがだって同調するように言われたり、そんな事をするなんてって軽蔑されたり」

彼女はそこで、息を吐くように笑った。もしかしたら溜め息だったのかもしれない。

「みんな、聞こえるように話すのよ。聞かせているのか、気付いていないのか。そのどちらでもいいし、どうでもいいけれど、聞きたくなくても耳に入るの。
否定しても信じてくれないしね。聞く気ないのよ。犯人が誰とかどうでもいいのよ。あの人達と会話をする意味が分からなかったわ」

彼女の思いを知らなかった。俺達も、ジゼレーナが犯人で、首謀者だと思っていた。

「私の『悪行』というものが積もって、嫌でも聞こえてくる話に気が立って、貴方方の視線も鬱陶しくてなって、否定するのにも疲れて……」

思い出したのか、話すのに疲れたのか。彼女は小さく息を吐き、先程よりもゆっくりとした口調で話を再開させた。

「魔が差したの。ストレスが溜まって、発散できずに。
私に悪役を求めているのは彼だから。
そうヤケになって。
自分を止められなかったし、何より、止めたくなかったわ。

それに、悪者になったら、頻繁に彼と話す事ができたのよ。彼女に少し声を掛けるだけで、私は、彼の視界に入る事ができたの。あの青い瞳に、私を映す事ができたの。上辺だけでない、本物の感情も向けてくれたわ。

嬉しくて、悲しくて、どうしたって止められなかった。
彼の言葉でも、とても従えなかった。

ここで止めたらどうなるんだろうって。感情を向けられなくなるのが怖かった。今向けられている感情が、どこかへ消えてしまうのではないか、って。
だから、そうなる前に、止める前に、感情を植え付けよう、ってエスカレートして。

こうして、悪役ジゼレーナは生まれたのでした」

最後の言葉は、物語の終わりのようで。
なぜ話したかという質問を思い出した時、彼女は答えた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした

黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん! しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。 ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない! 清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!! *R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

処理中です...