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第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで

アレンと二人きり

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 みんなが出て行き、私は笑いを止めた。さっきまで私に敵意を見せていた人がいないせいか、その場の静けさが妙に目立った。

……と思ったら左側にアレンがいた。いるのを知っていたら、笑いは自然に止めたのに。知らなかったから、切るようにピタッと、悪役笑いを止めてしまった。
不自然な止め方をして、怪しまれていないだろうか。

顔の向きも体の向きもそのままを維持し、目だけを左に動かしてアレンの顔色を窺う。
……無表情で、何を考えているのかが全くわからないが、横顔が綺麗だということはわかった。

「貴方は行かなくてもいいのかしら」

数秒の沈黙にも耐えられずに私はアレンに話し掛けた。アレンだけ私の元ここに残ったようだが、アレンは強そうだし、ここに残らずにリリアちゃんを助けに行く方がいいと思うのだけれど。

アレンの視線は、レオ達が出て行った扉へと向けられており、その手には縄が握られている。私をぐるぐる巻きにしている憎らしき例の縄だ。

「愛しの彼女が危険ですわよ?」

二人きりの空間が気まずいんです。どうぞ行って下さい。私の事はいいので。

「逃亡の計画という可能性がある」

低く落ち着いた声でアレンが応える。やはりこの声は好きだ。

「私が逃げた所で、痛くも痒くもないでしょうに」
「再度、彼女が危険に晒されしまうかもしれない。皆が行ってしまった以上、私が残るべきだ。それが命令でもある」

そう言うと、アレンは私に繋がる縄を引いて歩き出した。ペット気分で付いていく。可愛い犬とかじゃなくって、獰猛なペット。ワニとか。だって厳重警戒の拘束だもの。可愛い犬にこんなことしたら虐待よ。悪魔の所業よ。

「どこへ行きますの?」

出来れば歩きたくないし、ここにいた方がいいのではないかと思う。勝手に移動したりして、怒られないだろうか。怒られる時は一人で怒られてね。私を巻き込まないでね。私は付いていくしかなかったのだからね。

「彼女が危険なな目にっていた場合、共犯の可能性がある。犯人と会わせれば分かるだろう。それとも、危険な場所には行きたくないか」
「危険な場所に行きたい人なんて、いるのかしら。本当に、私を彼女の元へ連れて行くつもり?」

話しながらもアレンの足は止まらない。私はアレンに引っ張られる形で歩いているので、必然と同じ速度になる。リリアちゃんの事が心配なのか、元々なのか、嫌がらせか、歩くのが速い。

私の御令嬢足は、断頭台に来るまでにだいぶ痛めつけられている。もう少しゆっくり歩いて欲しい。衝撃を少なくして欲しい。罪人だから駄目なのか。
アレン君は筋肉足だろうけれど、私は違うんだよ。

「都合が悪いか。行かなければ共犯になるぞ」
「あら、脅しかしら。横暴ね。私自ら彼女を攻撃するとは?」
「その状態では何もできないだろう。簀巻きの女に負ける事はない」

すっ簀巻きの女……なんか悔しいんですけど……。
アレンとお話しをして気をまぎらわせてはいたが、足の裏が痛い。遅れて脳内に出現したアレンの映像でも見て気を反らそう。
集中により、痛みが少しでも緩和されることを期待して。




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